第5-3話 日曜、魔界魔法相談室 後半
「では、次のお友達です。おはようございまーす」
「おはようございまーす」
燐里は、次は低めの声だと予想していたが、返ってきた声は、さっきよりも低いが静馬よりは高め声で、女子を演じるようだ。
「お名前と学年。どこからかけているか教えてください」
「ずしま です。3年生です。千葉県です」
今度の地名に針田はカンペによる説明はなかった。なぜなら現在の居住区と同じだから。
「ずしまちゃん。質問を教えてください」
「はぁい。
暴走した友達を大人しくしようと『睡魔』の魔法をかけたら、別の友達まで眠ってしまいました。どうしたらいいですか?」
「では、ハリハリダ先生、お願いします」
「別のお友達まで寝ちゃったんだね」
「うん」
「それはきっと ずしまちゃんの力が強すぎるんだね」
「強すぎるんですか?」
「魔法には1から5のレベルがあって、ずしまちゃんが使った睡魔の魔法は、きっとレベル5だね。
大丈夫。レベル5の魔法を使える人や魔族は、強弱ができるんだ」
「どうやったら、弱められますか?」
「イメージだよ。
睡魔の魔法を誰にどれだけ眠らせるか、イメージするんだ」
「イメージ…」
「これは他の魔法を使う時もそうだね。
唱える時に、どれくらいの範囲で、どの強さにするかイメージするんだ」
「難しいですね。私にもできるかな?」
「大丈夫。ずしまちゃんなら、きっとできる」
「…。うん。頑張ってみます。ありがとうございました」
「ずしまちゃん、ありがとうございました……」
相談が終わった所で、りんりは台本を置いた。
「針田、私も相談あるんだけど」
「質問するお友達は、住所とお名前と学年、出身地を言ってから、質問するように」
「じゃあ、俺、司会やるよ」
代役を買って出た静馬は再び声を高くして、台本がないのに、すらすらと進めた。
「お名前と学年、どこの世界か、教えてください」
「りんりです。2年生で魔界のドラゴンエリアです」
「りんりちゃんですね。質問を教えてください」
「えっと、人間の友達に魔法を使っている所を見られたくないんだけど。その友達に追いかけられて困っています。どうしたらいいですか?」
「電話相談室というより、お悩み相談室だな…」
ぼそっと言葉をこぼしてから針田は、専門の先生役に戻った。
「魔法を見られたくない友達がいるんだね」
「うん。いつもは人間の姿に変身してて、魔法を使う魔族だとバレないようにしてる」
「もしかして魔族に変身した所を見られたかな?」
「それはなかった…と思う。大丈夫だよね、静馬。聖菜、何か言ってた?」
素に戻った燐里の問いに、静馬もいつもの声で答える。
「目が覚めた聖菜の第一声は『どうしよう静馬君。意中の子が2人もできたから、どっちに猛アタックしたら良いと思う?黒髪だけど、毎日会える燐里ちゃんか、名前もどこの子か分からないけれどもドストライクの子か』って言ってたからバレてはいない」
「…………」
燐里は身震いをし、安全だと分かっているのに、辺りを見回す。
そんな燐里に針田は専門の先生役で教えた。
「安心したまえ、燐里ちゃん。最近『ちょこっと魔法』大型アップグレードして『分身』の魔法が使えるようになったんだ」
「分身? 2人になれるの?」
「しかもレベル5は、3分消えずに、あらかじめ登録した行動をしてくれるんだ」
「それは理にかなった魔法ですね」
司会役の静馬に、針田は苦く笑う。
「ただ、悪用されやすい魔法な分、ちょっと高くてね。もちろん身分証明もいるんだ」
「高額ですか…
経費で落とせないか、相談してみます」
相談が終了した所でBGMが聞こえ静馬は しめに入る。
「先生方、今日はありがとうございました。それでは皆さん、また次回」
「え、次回もあるの?」
「イメージかぁ、しかも瞬間で。
まぁ、やってみるか」
アプリを終了した静馬は、ノートに書きとめてから、窓に近づく。
半身隠して2階から見下ろすと、電柱に隠れてこちらの様子を伺う幼なじみの姿があった。
「……下手な張り込みだなぁ」
こっちを見上げる幼なじみと目が合う。
にやりと笑い、張り込みがバレたなら堂々と乗り込もうと電柱から出てきた。
「つくづく、羨ましい奴…」
我が道を進む幼なじみに、ため息をつく静馬の視線は、別なところに向いていた。
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