第4-2話百合の花が咲く朝、新たな攻防戦が始まる

「え?」


 燐里は体の動きを封じられた。

 だが蛇や蔓といった固く強い力で締めつけられるのではなく、生温かく、柔らかい。頭部に『むにゅり』とした感触がある。


「うわぁぁあ、何、この子、可愛い」


 拘束する者が歓声をあげ、慌てふためく静馬の声が続いた。


「まて、聖菜せいな。落ち着け、そして燐里を離せ」

「え、静馬君の知り合いなの? やったぁ」

「良いから、離してくれ、燐里が呼吸できなくなる」


 静馬は聖菜と呼ぶ者の腕を引っ張り、燐里を保護する。


「燐里、大丈夫か?」

「…何とか」


 息を整えながら、燐里は聖菜を見上げた。

 まず何よりも目に入るのが、呼吸できなくなるほど大きくて柔らかい胸だった。爆乳と言っても良いだろう。小玉のメロンサイズ、燐里にとっては目標とするFカップである。

 それから同じ制服に、ふわりと波打つ黒髪に『美人』と呼べる厳選されたパーツが寸分の狂いもなく綺麗に埋め込まれていた。

 明るめの茶色い目が、燐里から離れない。


「燐里ちゃんて言うの? どこのクラス? お家は? もしかして近所?」

「聖菜、近づきすぎ、離れろ。頼むから面倒を起こさないでくれ」


 人懐っこい大型犬を扱うかのように、静馬は聖菜のスクールバックを引っ張った。


「すまない、うちの幼なじみが、脅かしてしまって」


 謝罪する静馬は、気になる1つの単語を使った。


「幼なじみ?」

「あぁ、こいつは南広聖菜みなみひろ せいな気がついた頃には、行動を共にしていた。

 風邪ひいて昨日まで大人しく…いや、休んでたんだ」

「よろしくね、燐里ちゃん」


 聖菜は両腕を広げ、挨拶としてのハグを実行しようとしたが、静馬はリード代わりのスクールバックを引っ張って阻止する。


「はぁ、先が思いやられる」

「女の子同士のスキンシップだから、合法だよ」

「いいか、合法はハグまでだからな」


 静馬は聖菜と燐里の間に入てガードしながら、困った幼なじみの性癖を説明する。ついでに登校を再開しながら。


「燐里、こいつは可愛い女の子…特に、ちょっと言いにくいが、小学生ボディに毛先だけ内側にカールした髪。子犬みたいな目が特に好物で、手がつけられなくなる」

「まさしく燐里ちゃんそのものだね」


 静馬は手で頭を押さえた。


「聖菜さんは何年生なんですか?」

「聖菜でいいよ。できれば『聖菜お姉様』って呼んでくれたら、もう何でもしてあげる」

「聖菜は、何年生?」

「えー。…2年だよ」

「同い年なの」

「 え、燐里ちゃんも2年生なのやったぁ。毎日、教室に遊びに行ける。一緒にお昼食べようね。それから、一緒に帰って、一緒に…」


 喜ぶ聖菜に燐里は1つ異変に気づいた。


「パジャマパーティーしようね、うふふふふふ」


 聖菜の声が真横から聞こえた。それから飼い主のような静馬の制御がない。

 横を見上げたら、ねっとりとした視線を向ける聖菜と目が合った。


「静馬は?」

「静馬君なら、忘れ物を取りに帰ったよ」


 暗雲漂う発言後に、燐里のスマホから会話式メールが受信を告げる。


『燐里、モンスターが接近しているから、静馬と共に向かう。

 なので、その人間を戦闘に巻き込まれないように安全な所へ連れてってくれ』


 『グッドラック』の文字が描かれたハリネズミのスタンプと共に。


「…」


 後方を振り向くと、もう小さなハリネズミのぬいぐるみは姿を消していた。


「そういえば、まだ、燐里ちゃんから自己紹介を聞いてなかったね。

 さあ、聖菜お姉ちゃんの胸の中で、可愛がれながら、ゆっくり教えて」


 燐里は身の危険を感じた。


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