第2-1話転校生になれたものの

「初めまして、八見東やみひがし2校から来ました、賀手 燐里がで りんりです」


 翌日、無事に転校生になれた魔法少女りんりこと、燐里だったが。


「うまくいかないもんだね。席をターゲットの隣にしたのに、1度も視線を向けようとしないんだもん」


 午前の授業が終わった昼休み。燐里は屋上でため息をつき、野菜ジュースを飲んだ。

 教師の許可がなければ屋上に出られないので、こっそりとだが、誰もいない分、ハリネズミの姿をした相棒と食事がとれる。


「その前に八見東2校じゃなくて闇東2校だろ。と言うより燐里、今は私立じゃないか」


 ハリネズミの針田は、小さすぎる手から器用に人間サイズのおにぎりを頬張った。


「アリジュガーラネッモ学園なんて、人間世界じゃあ浮きまくりじゃないのよ。

 前にいた学校の方がしっくりくるし」


 コンビニの袋からタマゴサンドを取り出し、異世界の味を堪能している横で、ペットボトルの緑茶を器用に飲んでから、針田は原因を口にする。


「人間界に存在しないゾンビモンスターに追いかけ回されたんだから、仕方がない。

 それどころか、自分自身も魔法少女に変身してしまう。

 元の姿に戻った時『これは夢だ、そうだ夢だ。夢なんだー』と叫んで逃げたから、相当ショックだったろうな」

「…だよね。

 こっちから話しかけようにも、他のクラスメイトに転校生の質問攻めで、それどころじゃなかったし。

 4時間目の体育はマラソンだったし」

「それ関係ないだろ」

「人間の体は、重くて、すぐ疲れるのよ。これじゃあ5時間目は絶対、寝ちゃうよ」

「保護者として、それは困る」


 ハリネズミサイズのどこに収まって納まっているのか、針田は次のおにぎりを手にした。


「放課後、他のクラスメイトに学校案内してもらう約束しちゃったから。

 今日のチャンスは今しかない」


 燐里はタマゴサンドを持っていない手で、スカートのポケットをさぐり第1関節ほどの小さな小瓶を取り出した。


「じゃーん。ガデバウム様から借りてきた欠片」

「かなり小さいな」

「でも正真正銘の欠片だから蓋を開ければ、同じ欠片を持っているターゲット、来池河 静馬を呼び寄せられる」


 燐里はタマゴサンドを口に加えてから、コルクの蓋をポンと開けた。


「本当にくるのか?」

「欠片どうしが共鳴するから、魔力を持たない人間でも違和感を感じて、来る…かもって、ガデバウム様が言ってたよ」


 燐里たちは辺りを見回したが変化はなく、昼食を再開して待つことにした。

 タマゴサンドを食べ終え。ミックスサンドイッチの封を開けて、レタスサンドかツナサンドのどっちを先に食べるべきか迷っている間も、屋上は平穏のままだった。

 不安の言葉を吐き出そうと燐里は口を開いたが、にやりと笑うための勝利の笑みのために形を変える。

 その直後、屋上の扉が開き中から人が現れた。


「おい、これ、何とかしてくれ」


 燐里たちの姿を確認したターゲット、来池河静馬こいけがわ しずまは1人と1匹に走って近づいた。


「……。効果はあったな。

 ただ、魔の属性を持つ者たちも、欠片欲しさにおびき寄せるはな」


 来池河静馬の後ろから『ぶーん』と音をたててくる、複数の蜂がいた。

 人間世界で見る黄色や黒ではなく赤とシルバーカラーの蜂が大軍となって。


「シルバービー? 高級イチゴの花しか蜜を採集しない、プレミアム ビーじゃない」

「いや、あれは、プレミアムなシルバービーじゃなくて、レッドビーの方だ。目が赤い」

「じゃあ、高級ハチミツをゲットできる方向に持っていけないか、残念」

「呑気に話してる場合か、刺されたら大変なんだろ」


 後方を振り返り、大軍に青ざめる少年に対し、燐里は余裕だった。


「まあ、ターゲットが来てくれから、結果オーライって事で」


 燐里は立ち上がり、スカートのポケットからスマホを取り出した。

 魔法少女に変わるため。



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