第7話 エピローグ
ストーカー事件の次の日、会長は帰り道で俺に話したことを全員に打ち明けた。
反応は、大体想像してた通りで皆、それで? みたいな感じだった。
会長としては拍子抜けな反応に胸のつかえがとれたのか、それから会長は今まで以上に元気だ。
それはさておき今日は四月三十日、とうとう俺の(仮)が取れる日だ。普段と変わらない活動にはなるだろうが、それでもいつもよりドキドキしている。
そしてドキドキしながら放課後を迎え、生徒会室に到着する。なんとなくそーっと扉を開けてみると
「お、藤村。ようやく来たか。早く席に着け、体育大会の打ち合わせをするぞ」
そこには思った以上にいつも通りの風景があった。
……うん、分かってたけどね。俺みたいな奴のためにわざわざ何かすることは無いって。
でもさすがにいつも通りすぎやしないだろうか……、帰るまでには誰か聞いてくれますよね……? どうするの? って。
不安に駆られながら、椅子に座り荷物を置くと、藤ヶ谷先輩が我慢できないとばかりに叫びをあげる。
「藤村さん! そんな悲しそうな顔をしないで下さい! 大丈夫です、ちゃんとパーティーの用意はしてますから!」
藤ヶ谷先輩の言葉に、会長と副会長はやれやれと肩をすくめ、敷島先輩は責めるような目で藤ヶ谷先輩を見る。
パーティーってそれはもしかして……、言い方的に俺の歓迎パーティーってことでいいんだろうか。
「ごめんなさい、藤村さんがあまりにも悲しそうな顔をしてらしたもので……」
「……分かるけどね、可哀想になるくらいだったし」
「俺そんなに顔に出てました!?」
自分としてはポーカーフェイスのつもりだったけど、端から見るとバレバレだったのだろうか。
「ああ、今だって『ポーカーフェイスのつもりだったけど、端から見るとバレバレだったのだろうか』って顔してるしな」
「そこまで分かるのは俺じゃなくて副会長がおかしいんだと思います!」
そこまで具体的な顔をしながら今まで生きてきたのなら、恥ずかしくてもう外に出られない。
「そ、それとパーティーってどんなことを?」
今まで自分主役のパーティーなんてしてもらったことが無いから、期待に胸をソワソワさせながら聞く。
「……うん、ワクワクしてること悪いけど、普通にケーキを買ってきたってだけだよ」
「ケーキまで用意してもらってるんですか! ありがとうございます!」
敷島先輩の言葉に俺は力強く答える。
その勢いに敷島先輩は引いているように見えたが、きっと気のせいだろう。
だって、誕生日でもないのにケーキを買ってきてくれてるなんて! そりゃこんなテンションにもなりますよ!
「ごめんなさい、本当はウエディングケーキを用意して私と藤村さんで入刀したかったんですけど、皆様に止められまして……」
「そんなことしたら別のパーティーになりますからね」
藤ヶ谷先輩は残念そうに言うが、俺は歓迎パーティーが結婚式にならなかった事に胸をなでおろした。
一生に何回も無いパーティーをここで消化するのは避けたい。……テンション上がってたのに冷静になってしまった。
「ちなみにそれは俺のファインプレイだ。後、敷島がプレゼントと称してロッカーの中にあるガラクタをお前に押し付けようとするのも止めておいた」
「ありがとうございます!」
俺は全力で副会長に頭を下げた。
敷島先輩は唇を尖らせて、ガラクタじゃないのにとか言ってるが無視だ。自分でも始末に困ってるものを人に押し付けようとするのはやめていただきたい。
ワイワイと騒いでいると、会長が手を叩き皆の注目を集める。
「まあ、あれだ。本当は終了間際まで焦らしてネタ晴らしするつもりだったんだけどな」
「バレてるようだから言いますけど、結構不安だったんですからね。もしかして忘れられてるんじゃないかと」
「すまないな、サプライズにした方が活動中の藤村の様子を見て楽しいんじゃないかという提案があって」
……恐らくそれを提案した犯人である敷島先輩をじろりと見ると、敷島先輩は目を逸らし、吹けもしない口笛をふーふーと吹いていた。
いや、いいんですけどね……、それで楽しめるのなら……。
自分の中で納得して、敷島先輩から顔をそむけると再び会長が話し始めた。
「聞くまでもないが一応聞いておこう、今日で君は仮役員を卒業するが明日からもここに来る意思はあるか」
会長は微笑を浮かべて、こちらの反応を待つ。
ああ、本当に聞くまでも無い。答えは決まってる。それでも言葉にして初めて俺はここの一員になれる。そうやって色んな決断をして理想の自分に近づいていくんだ。
「もちろんです」
そう告げると会長はバッと手を広げ、大きな声で宣言する。
「では改めて、夕凪高校生徒会へようこそ! 私たちは君を歓迎する!」
――――そして俺はまた新しい一歩を踏み出す。
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