第8話

 5月の連休が明けたある日、金太のクラスに転校生がやって来た。

 転校生は、福岡から移って来た、「柳田やなぎだトオル」というメガネをかけて、痩せてえらく背の高い生徒だった。金太はひと目見てニックネームを「ノッポ」と決めた。

 しばらく標的を失っていた大基たちイジメグループは、早速新しい獲物としてノッポに照準を合わせる。

 数日は黙って様子をうかがっていたのだが、ある日ついに牙を剥いたハイエナは、満を持してノッポに襲いかかった。

「おい、柳田、おまえ福岡から来たんだろ?」

 中曽根大基はどこにでもいる中学生だが、そばに近寄ると威圧感を感じる。ノッポも大基と同じくらいの背丈はあったが、体格では見劣りした。

「そうだよ」

 ノッポはまだその時点で自分が標的になっていることを知らない。

「なんで引っ越して来たんだ?」

「トウさんの仕事でこっちに来たト」

 ノッポはそう言ってから、しまったという顔をした。これまで言葉のひとつひとつを注意して、なるべく博多弁を出さないように気をつけていたのだが、ここにきて、それもイジメグループの前で出てしまった。

「キタト? おい、みんな聞いたか? こいつ変な日本語しゃべるぞ」

 大基は、嘲笑いながらほかの3人の顔に言った。

「もっとほかにもしゃべってみろよ」

 健太が1歩前に出ると、ノッポの左肩を小突いた。

「――」

 ノッポはそこではじめて自分がイジメの獲物であることに気づいた。

 運よく1時限目の数学の先生がドアを開けて入って来たために、そこで一旦風がやんだ。

 だがいびりはそれがきっかけとなって増幅の兆しを見せはじめる。大基たちは聞き慣れない言葉を口にしたノッポを見下し、なにかあるとすぐに博多弁をまねてからかった。

 ノッポへのイジメは、クラス中から四面楚歌の目に遭った金太のときと同じように、イジメグループが先頭に立っての「無視」からはじまった。おそらく彼らは、本格的な手段に移るまでのウォーミングアップと考えていたに違いない。

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