8-47話 シャドー・グレイ

 ──刀梟隊には隊員同士の深い『絆』がある上に、戦っているのは愛弥だけでないことが強く伝わる。


 に導かれてに染められたBlue-MODEは、60年に1人の逸材と呼ばれる愛弥に相応しき潜在能力だった。愛弥の分身とも呼べる氷の剣グレイシャル・ブイも第2形態となり、切れ味抜群のレーザーソードと化した。

 100秒という与えられた時間制限とも戦う愛弥は、強化されたクリスタリック・ストリームでユウジを凍結させる。今回派遣された虹髑髏の中では坪本と並ぶ血の気が激しいやべー奴だが、上半身動けなくしたら怖くもなんともない。


「1人づつ相手してたらBlue-MODEが終わるぞ愛弥! 残り40秒になるがいけるのか?」


 いくら序の口と言っても、100秒しかないのに凍結するペースがいくらなんでも遅すぎる。まだ3人もいるのだから、もっと上げないと終わってしまうぞ。

 俺はたしかに100秒計っているもの、Blue-MODEの説明後にすぐ腕時計を見ただけだ。説明時間も含めているため、正確なものとは言い切れないが嘘はつけない。


「こんなときにコーチ気取りかよ令? お前に言われなくてもあいつの脳内時計は狂ってねぇし、戦闘力に限っては普段のあいつ以上に超越してるんだぞ」


 愛弥のことには隙のない毅がまた俺をおちょくるが、刀梟隊だけあって毅の方が俺以上に愛弥を知るのは事実。雑な言い方故に理解しきれない部分もあったが、ここは毅に従うか。


「半分以上時が過ぎているBlue-MODEのわたくしを令さんは心配してくださってますが、わたくしの辞書に

「愛弥……Blue-MODEにかけた君を信じよう」


 愛弥本人が冷静かつ豪壮な状況でいるし、Blue-MODEでいられる時間も把握してなければ使ってすらいない。そのことを考えたら、俺が残り時間を教えたのはむしろ蛇足だったかもな。

 仕方ない、Blue-MODEが終わるまでは愛弥の辞書を信じて戦いを黙って見届けようかな。そうすればだって黙るだろうし、俺が喋るのはこの任務が終わってからでも遅くはない。


「令さん達と絡むのはここまでにして、貴方達を今から粛清します。ご覚悟なさい!」


 愛弥は今の俺達に絡む暇なんて全くないし、Blue-MODEも残り30秒程度だから迅速な応対が必須。今度は愛弥が正面を取るべく、勢いよく奴らに向けて氷の剣を右手で持ちながら突っ込もうとする。

 なんだろう、最終決戦を境にして俺の胸が段々と凍えていってる。そこまでBlue-MODEの『力』が強大なものなのか、それとも愛弥の存在自体が雪景色そのものなのか。


「あの女の変身が解除されるまでになんとか逃げきるぞ! テツオ、タクヤ!」

「何言ってるんだスグル、ユウジや坪本を放置していいのかよ?」

「そんなこと言ってる場合かタクヤ、逃げるが勝ちということわざが古くから伝わってるだろ。ユウジのことは忘れて、あの女から逃れる以外他にないだろ」


 愛弥のBlue-MODEが解かれるまで、金田さざなみ公園から撤退しようとする残りの標的3人。仲間の心配より己の自由が欲しいなんて、つくづく愚かな奴らだな。

 こういうときは何かの間違いで心を入れ換えるべく、自首して今まで犯した罪を反省したらどうだ? そんなことしても愛弥はもちろん、俺も含めてここにいる全員が許す気にはならないがな。


「それはそうだけどさテツオ、とにかく滑るんだよー」


 無理もないことだな、金田さざなみ公園の地べたは凍りついており、奴らはスリップ状態のまま満足にこの先から抜け出せない。さっき使ったBlue-MODE版クリスタリック・ストリームに、こんな恩恵もあったとは考えもしなかった。

 その影響でタクヤが体勢を崩れて転倒してしまい、残るスグルとテツオも手こずった状況だ。これまでの奴らを見ても自業自得かもしれないが、奴らの醜態を見ても愛弥の冷たき心は許しはしない。


「わたくしから逃げようなんて甘く見てはいけません、こちらから参ります!」

「え、消えた?」


 地べたが凍りついた状態のなかでも、愛弥は全く苦戦せずに滑り続ける。ハイヒール履いているから思ったのだが、愛弥のバランス感覚は異常すぎないか? なんでハイヒールのまま軽々滑れるんだよ?

 それはともかく注目なのは動作の方だ、愛弥は氷の剣を一振りした瞬間に姿が若干ながらも消えはじめた。この俺でさえも目がついていけないくらい、奴らをすり抜ける勢いで瞬間移動してゆく。


「は、速すぎるだろ!?」

「いいえ、貴方達がです。わたくしの高速技、シャドー・グレイから逃げようという愚かな思考はやめた方がいいでしょう」


 再び姿を見せた愛弥は、未だ滑りに苦戦中の奴らの元へと近づく。シャドー・グレイはほんの一瞬だったとはいえ、マジシャンのように軽々と消えるだなんて思いもしなかった。

 幻想とも呼べるBlue-MODEの愛弥から逃げようだなんて、来世まで待たないといけなさそうだな。下手したらスピードに自信のある俺でさえも、簡単に捕まってしまうのが今の現状であることを受け止めるか。


「では、そろそろこの任務もフィナーレと参りましょうか。はぁあ!」


 本来なら今日は休暇だったはずが、追加任務も順調に遂行していく愛弥は最後の大一番に出る。ただ、愛弥は肝心の氷の剣を消した分に両手を大きく広げた。せっかくレーザーソードに変化したのに、また別の手段があるのかよ?

 雄叫びをあげながら両手を上空に向けた愛弥の周りからは、氷柱の大群が次々と現れる。この氷柱達が、奴らを終わらせてこの場で極刑を執行か?


「愛弥様、まさかを? いくらなんでも危険ですぞ!?」

「おいおい何かの冗談だろ……今日の任務の登場人物で、1番血迷ってるのは奴らではなく愛弥じゃねぇか」

「久しぶりに強すぎる愛弥隊長を拝めるとは、やっぱり刀梟隊は愛弥隊長がいなければ始まらないな」

「愛弥とやら」

「愛弥隊長」

「愛弥隊長……いっけー!」

「二木愛弥!」

「Blue-MODEになったからには、やるしかないのです……刀梟隊隊長の名に懸けて」


 刀梟隊の隊員達も究極の技をここで使うことに驚くが、愛弥は刀梟隊の看板を背負っているためにやっている。究極の技と聞いて刀梟隊でもない俺や加藤、桜井さんや大和田さんもワクワク感が止まらないまま愛弥の名前を叫ぶ。

 Blue-MODE中の戦闘力と刀梟隊も警戒する禁じられた技の融合は、まさしく人知を越えた領域だ。こんな凄そうな技をきっちり拝まないと、今後愛弥と戦うときに対策ともなるからな。


「わたくしのこの重圧なる100の柱達で、貴方達は極上の寒さを味わいながら自らの愚かさを実感しなさい! ハンドレッド・スティーリア!」


 ハンドレッド・スティーリア、技名や外見だけで迫力かつゴージャス感がある。Blue-MODEの制限時間に合わせた100の強き魂の氷柱、これが愛弥におけるというものなのか? ただ残り時間が少ないぞ──

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