8-32話 悲劇のヒーロー

 ──経験者だからわかる身だが、人前でをするとは思ってもなかった。


 再び金田さざなみ合流に舞い戻った狂喜乱舞の坪本は、未だに立ち上がることができない毅を目掛けて殺しにかかる。俺や加藤はテツオに、愛弥隊長はタクヤとユウジの2人に、それぞれ立ち塞がれてしまって毅を助けられない。


「合流するのが遅くなってすまないが、俺達も戦わせてもらうぞ」

「とにかく、そこにいる奴らを捕まえるぞ」


 毅が殺されるという絶対絶命な状況で、こちら側も頼もしい助っ人が現れた。俺や毅と同じ車で木更津まで来た大和田さんと和俊さんが、金田さざなみ公園に到着したと同時に坪本とテツオに攻撃を与える。


「うわぁぁあ、坪本とテツオが!」

「まさか、俺達の都合がいいときに奴らの仲間が来るとはー」


 おっと、タクヤとユウジも俺達の仲間が来て驚いてるが、他人や仲間の心配よりも自分の心配をしたらどうかな? 


「貴方達、隙を見せましたね!」

「な、げふ!?」


 タクヤに掴まれていた両腕が緩くなった隙に、肘を使ってタクヤの腹部を叩きつける。タクヤは苦しい顔して両手で腹部を抱えているし、かなりの威力だったことが伺える。


「がはっ!?」


 連続してユウジに掴まれていた両足も、タクヤの反動で離してしまう。愛弥隊長は怯むことなくハイヒールでユウジの股間部を蹴りつけ、ユウジもまた苦しそうに愛弥隊長を恨むかのように眺めた。

 ユウジは本日2人目となる愛弥隊長のハイヒールの被害者となったが、普段なら氷の剣を使って悪人と戦ってるから今までにない展開なのだろう。


「わたくしに歯向かったことが、どれだけ愚かなことがわかったでしょう」

「ひぃ……」


 愛弥隊長に危害を与えられ、ひたすら怯え続けたタクヤとユウジ。奴らを見て情けなく感じるな……大の大人が16歳の少女に格闘で負けているのだから。

 愛弥隊長はそのまま連続バク転をしながら、毅の方へと向かってく。俺を襲ったテツオも今は視界が見えないし、口先だけの坪本もダウンしている。合流するのも今のうちか。


「バク転を決めるのはいいが、……」


 そもそも愛弥隊長、身体能力に自信のある俺でさえ連続バク転はたまに失敗するのに、愛弥隊長はバランスを崩さずに決めている。女性で連続でできる時点でもすごいのに、ハイヒール履きながらやるから度肝を抜くわ。

 今はタイトスカートだからなんとか見えてないけど、今日菜瑠美が履いてきた制服のプリーツスカートならだぞ。

 さっきはスグルに幸せ投げでパンティーを強制的に見せてきたが、こんな緊縛した場面で変な妄想しちゃ駄目だ……愛弥隊長に叱られる。


「愛弥隊長、無事ですか? 自慢の氷刀が使えずに、かなり苦戦してるみたいですな」

「申し訳ありません……和俊殿、貴方に助けられるとは刀梟隊の隊長として失格です。あいにくですが……わたくしとそこにいる者達は、逃げられた者RARUによって一定時間能力が封じられてるままです」


 先に和俊さんと愛弥隊長が合流を果たし、俺達が今はRARUのキャパシティ・ロストによって一切能力が使えないことを説明する。愛弥隊長も自ら年上部下に対しても不甲斐なさを認めるあたり、隊長の自覚がかなりあるな。


「愛弥様! 我輩も到着しまし……」

「ううっ……」

「……毅、どうしたんだ? お前らしくないぞ!」


 半蔵さんも遅れて金田さざなみ公園に到着し、全くやる気のない毅に気付き唖然とする。同じ刀梟隊の隊員で養父なのだから、さすがに真っ先に注目と心配するよな。


「半蔵さんと和俊さん、実はですね……実は13歳の七色・ジャイスが吐いたんだよ、毅の母親を殺した犯人が今は亡きジャイスの曾祖父だってことをな」

「なんと……11毅の母親を殺害した犯人がジャイスという奴が言ったのが?」

「そのせいで毅はさっきからあの状態なのか……」


 木更津にいる間はずっと共に行動した俺が説明するか、ガキのジャイスの曾祖父が毅の母親を殺したことをな。これを聞いた半蔵さんは、毅に近付いて顔を向けようとする。


「こら毅、くよくよするなんてお前らしくないぞ! 母親の仇を討ちたいんじゃないのか?」

「ううっ半蔵……悪いが今は1人にさせてくれ」

「毅……お前はそこがまだ


 半蔵さんからの一喝を受けても、それでも毅は立ち上がろうとしない。半蔵さんにはまだわかっていた、毅はまだ能力者としてであることを。

 呆れてしまった半蔵さんは後ろを向き、まだ毅と不仲だと思われてる俺に対して意外な一言を口にする。


「令くん、我輩にはなんとなくわかるぞ。あんなに仲が悪かった毅と木更津で友情が芽生えたことを」

「え?」


 たしかに、大和田さんの寺で初めて会ったときは毅のことは嫌な奴としか思ってなかった。車で移動中のときに毅の過去を聞いて、少しだけ見方は変わったのは事実だが。

 だが、木更津に到着してからは加藤との出逢いや虹髑髏との戦いによって、毅の方からも次第に俺のことを認めてきた。俺からすれば、毅は今かもしれない。


「毅さん……」


 今度は愛弥隊長が毅に近付こうとする、能力はまだお互い使えないのに何をするんだ?


「なんだ愛弥……お前も来るなよ」

「貴方はこんな人間ではないはずです……申し訳ありませんが、


 愛弥隊長は毅の顔を見て何やらしゃがみはじめるが、下手したら毅は戦意喪失中でも愛弥隊長のパンティーに興味あるかもしれないぞ。そんなこと考えてる俺の方が変態か。

 だが愛弥隊長、まだ虹髑髏との戦いが終わってないのに顔が赤くなり、毅の顔を一気に近づけようとする。


「ちゅっ」

「ん!?」

「なにー!?」


 なんと、愛弥隊長は毅の頬を手に添えて瞳を閉じ、そのまま丁寧に口を咬まして。まさか、毅が戦意喪失してるからって、なのか?

 他の仲間や虹髑髏がまだ見てるかもしれないのに、突然のキスをやり出した愛弥隊長。下手したら、初対面でだぞ──

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