8-23話 レイラの手紙と2つの追い風 ※たかこ視点

 ──完全に愛宕達の作戦にまんまとはめられたわ、そもそも私達と違って初めから


 天須さんの新たな闇のダークボルテックスによって、あいつらの自慢の砂嵐を振り払うことに成功する。しかし、私達が砂嵐に閉じ込めてるあいだに、愛宕と合流したと同時に愛宕が運転する車によって逃げられてしまう。

 まさか、あの僅かな時間に愛宕がここまで来てたってことでしょ? 愛宕の気も全く感じられなかったし、もしいたとしても私達には一切攻撃をしてこなかった。


「何よこの手紙……おかしなことしてくれるわね」


 なんとしても愛宕を追うために駐車場から出るが、行く途中にたかこのババアへと書いてある私宛ての手紙が地べたに置いてあった。


「たかこ先輩、レイラが書いたのだから罠かもしれませんよその置き手紙」


 アニメやゲームとかではよく落とし物を拾って情報を手にする習慣はあるけど、現実だとそんなこと稀だわ。りりっちの言う通り罠という可能性もあるこど、何か有力な手がかりがあるかもしれない。


「罠も何も読まないと話が進まないわ」

「せっかちですね、たかこ先輩は」


 りりっちの言うことを無視することになってしまったけど、私は手紙の文章を読み上げる。なんだかんだ言いながら、りりっちもこっちに来てるじゃない。


「どれどれ、『見事に私達の作戦にまんまと嵌まったなたかこのババア共』」


 冒頭から私を怒らせる文章するわね愛宕ったら、作戦なんてどうせあいつらを使った時間稼ぎってことかしら?


「『かわいい部下達を使ってお前達を遠くまでここまで誘き寄せたのは、私とジャイスの合同作戦によるものでね。加藤炎児の捕獲は金田さざなみ公園にいるジャイス達がやってくれるから、お前らは影地令と合流できないまま任務終了になるんだな……はははは』。なによこれ、べーだ!」

「私達……あの人達に嵌められたようですね」


 ふーん、まんまとあいつらを使って私達を騙したってことね。さすが小汚ないことが得意な連中だわ。あまりのイライラなためか、15年振りにくらいに舌を出しちゃったわ。


「柳先生、文章にはまだ続きがあります……」


 怒り余って地団駄してる最中に手紙を落とした私だけど、すぐに天須さんが拾いあげる。まだ文章に続きが残っており、未だ冷静のままでいる天須さんが読み上げる。


「私が読みます……『そういえば、一緒にいた俺女はRARUが盛大に痛めつけたたようだな。早く俺女を助けにいかないと、今頃死んじゃうかもな……あはは』……桜井さんがRARUに負けた……そんな……早く桜井さんも助けにいかないと」

「くっ……桜井さんの命まで奪おうとしやがって!」

 

 いくら桜井さんが自らの意思でRARUと戦うと決意しても、殺す必要までないじゃないの。丁寧に教えただけでもありがたいけど、ものすごく腹立つ書き方だわ。


「もうあいつら許さない!」

「落ち着いてくださいたかこ先輩、悔しいからって私達に変な醜態を晒しては駄目です」

「今は平常心を保ちなさいたかこ! 本性を無駄に現したら、これだと精神年齢も菜瑠美ちゃん以下ですわよ」

「姉さん……それはちょっと心に傷がつく言い方よ」


 たしかにむきになりすぎちゃったけど、はきつすぎる言い方だわ。それ以前にも、私達の方こそもっとあいつらの行動を見抜くべきだったようね。結構有能な部分があることだけは、褒めてやりたいところね。

 ま、最初はアクションゲームにおけるただのザコ敵だと思ってたあいつらが、合体技とはいえ愛宕と同等の異能を持ってたのは予想外だったわ。あいつらを途中まで甘く見くびっていた私自体が、今の戦いの敗因だわ。


「柳先生、私に提案があります……レイラ達を倒したいという意思の強い柳先生は、先に金田さざなみ公園に向かってください……私と梨理亜さんと芳江さんは桜井さんを救出しに行きます」

「私1人で!? 本音としてはお望みでもあるけど」


 仕方ないけど、今は天須さんの言う通りでしかすぎないわ。年齢がちょうど倍の私なんかより全然状況を読み込めているし、私としても見習いたいものね。


「私は賛成ですわ、若い菜瑠美ちゃんこそが本当の仕切り役かしら。それと、たかこはさっきまで怒ってましたからね」

「ちょっと……怒るくらい教師なら日常茶飯事よ姉さん、私だってすぐに気持ちを切り替えることは容易なの。とにかく、私なりに虹髑髏の第1部隊達と決着をつけなくては!」


 誘導作戦に乗られたのは許せないけど、今からいけばまだあいつらをボコボコにできるかもしれない。ただ、ジャイスって奴だけはかなり強いらしいのはわかってるけど、影地くん達がやってくれそうだし今の私には眼中にない。

 今の私には怒りという3文字しかないけど、芳江姉さん達の前には少しは冷静にならないといけないわ。仮にも、この任務の女性陣のリーダー的存在なのはりりっちでも天須さんでも芳江姉さんでもなく、の私なのよ。


「私も菜瑠美さんの指示に同意……ちょっと失礼、幸谷殿から通知が来たわ」


 りりっちも天須さんの意見に賛同したなかで、幸谷さんからの通知をスマホで確認していた。すると、私達が今ピンチな状況であるのに何やら喜ばしい表情をしていた。


「いい流れが来たじゃない。皆さん、幸谷殿から2つの朗報が渡ったの」

「2つの……」

「朗報?」


 耕ちゃん達のグループも任務の収穫があったみたいね、影地くん達と別行動して正解だったことは間違いないわ。その収穫とやらを聞いてから、また私達も行動しましょうかね。


「まずは1つ目。さっきのレイラの手紙でRARU敗れたと書いてあった桜井さんなんだけど、無事に幸谷殿達と合流したとのことよ。ちゃんと写真も添付されてるわ」

「桜井さんが幸ちゃんと同行した……とりあえずほっとしたわ」


 とりあえず、桜井さんが無事であることにはホッとしたわ。仇敵であるRARUと戦うのは無茶かもしれなかったけど、私からすればよく戦ったと思ってるわ。


「桜井さんが無事であるなら、私達も直接金田さざなみ公園まで行った方がよさそうですね……私だって早くつかさと合流したいですし」


 どうやら、さっき言ってた天須さんの計画はなくなってしまったわね。手間が少し省けただけでも、今の私達にはありがたいことだけど。


「そして2つ目にして、超重要なことよ。この任務に我らが刀梟隊の隊長が緊急出動したとのことよ。これは私にとっても、予想してなかったことよ」

「刀梟隊の隊長……さん?」

「そうです。まだ詳細こそ言えませんが、私……いやこの中にいる誰よりも確実に強いと断言してもいい能力者がね」 


 これは心強い増援の出現ね、別件を終えてわざわざ木更津まで来てくれるのだから。隊長なのだから私はもちろん、りりっちや芳江姉さん達より強くて偉い方であることは間違いないはず。


「ついに、任務も大詰めね」


 加藤炎児の接触だけでなく、虹髑髏メンバーの拘束も目的となった木更津の任務も大詰めを迎える。私も余り残っている『力』で、三十路の維持を見せたいわ。


「最後の切り札となる隊長はどんな人だろう」


 りりっちの言ってた刀梟隊の隊長の存在も気になるけど、その刀梟隊の隊長が耕ちゃんと同い年の若い二木少女愛弥であること。このことは、私も芳江姉さんも天須さんも全く思っていなかった──



──────────


 次回からまた令視点に戻ります。女性陣の視点が長かったので、かなり久々の令くんが活躍します。そして、新ヒロイン・愛弥の強さも明らかになります。

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