8-10話 バーニング・ブロウ
──熱くて光輝く戦いを繰り広げたいのに、刃という邪魔が入りやがって。
任務の害となる虹髑髏の一味との接触を避けるため、金田さざなみ公園へと移動した俺と毅。そこには運よく、本日中に接触するべき相手である炎の能力者・加藤炎児と遭遇する。
「君達が俺のことをよく知ってるのであれば、君達の強さを拝見したい」
すると、加藤は俺と毅の実力を拝見したいために対決を持ち込んできた。さすが地下格闘会で圧倒的な強さを誇ってただけあって、強い能力者と戦うことに喜びを感じる表情だ。
しかし、虹髑髏が木更津をうろうろしており、いつこの場所に来てもおかしくない。今ここで加藤と戦うにはかなりのリスクがあるが、戦いを宣言したからもう避けられない場面だ。
「ところで、戦う前に君達の名前が知りたい」
そういえば、まだ加藤は俺と毅の名前すら知らなかったな。礼儀知らずと思われがちだし、せっかくだし自己紹介でもするか。
「俺は刀梟隊の隊員・小金毅だ。上層部の指示によって、今日はあんたと接触する任務が下されている」
「影地令だ。俺は刀梟隊ではないが、訳あって毅に協力しているさすらいの能力者だ」
まだ毅や加藤の前では、『光の力』の詳細について語るべきではないな。それに、毅とも今日初めて知り合ったばかりだからそこまで親しい関係じゃない。
「なんだよさすらいってよ……お前普通の高校生だろ?」
「そういうお前こそ普段は大学生じゃねぇか、刀梟隊だけ強調するな」
たしかに、毅の言ってる通りに普通の高校生であることはあながち間違ってない。刀梟隊の任務の協力はアルバイトでもなんでもないし、加藤にはまだ黙るが俺はあくまでも『わだつみ』の一員なんだよ。
戦う前だというのに毅と口喧嘩するなんて、まともに加藤相手に太刀打ちできるのか? 加藤から見ても、俺と毅のコンビ仲は良いと思ってなさそうだ。
「ふっ、刀梟隊か……少しだけ噂を聞いたことあるな、最近になって日本の能力者による秘密組織ができたということを。毅とやらがその一員なら、刀梟隊がどれ程のレベルかどうか伺えそうだ」
加藤は事前にAYBSの本部だけでなく、日本支部の刀梟隊の噂だけを知っていたのかよ。能力者内に知れ渡っているとなれば、これじゃ秘密組織でもなんでもなく俺達『わだつみ』と同じ学校の集まりに近いものだ。
「俺達刀梟隊の噂を知っているなら、遠慮なくいくぜ!」
刀梟隊の切り込み隊長として闘争心が沸いた毅は、すぐさま加藤に向けて何かを仕掛けようとする。毅の奴、俺がいることを忘れてまずはタイマンに仕掛けようとするのか?
「君達は変わったコンビだが、手加減はしない」
加藤は瞳を閉じてやや微笑みながら、一歩もこの場から動こうとしない。一気に毅が攻めることを知ったことを考え、守りに徹する気か?
「加藤、そして令! 俺の渾身の技を目に焼き付けろ! 星屑の『力』よ、目標にぶつけてやる! スターダスト・アーチ!」
大量に両手から抱える毅の星屑が、まるでバットを振るかのように加藤へ当てようとする。あいつ、口先通り超攻撃的に攻めているな。
毅の星屑は戦闘前に見せた以上に煌めいているが、威力も相当なものであることを察した。毅の奴、一撃で加藤を仕留める気なのか。
「この星屑……俺の炎で燃えつくしてやる! バーニング・ブロウ!」
一方の加藤は、左手に出していた炎を地面に叩きつけた。叩いた反動でそのまま炎の壁を作り、加藤自身を毅のスターダスト・アーチを防ごうとする。
「こんな炎の壁……がはっ、熱い!」
いくら毅が能力者だとはいえ、人間が炎に触れることはまずない。両手で攻めた結果か、毅の両手は火傷寸前の手となっていた。
今はまだ敵同士ではあるが、この行動は加藤の方が上手だったな。それでも、毅はまだ加藤に歯向かう姿勢をしている。
「いきなり攻めたことは褒めてやろう毅とやら」
毅と加藤が交戦してる中、俺は2人の強さを見続けていた。これじゃ、車の中で毅の言ってたことの逆パターンじゃないか。
「毅、次は俺が加藤と交戦する。お前は少し休め!」
「へっ……お前にこんなこと言われるとはな」
バーニング・ブロウのダメージも効いてるし、毅を一旦下げないと駄目だな。それだけでなく、俺だって加藤と戦いたくなってきた。
初任務だというのに、ガチの戦闘モードじゃないか。『わだつみ』と刀梟隊が金田さざなみ公園に全員揃ってない中で、2人だけ本気だすのもあれなんだがな。
「来いよ、君もいきなり攻めるのか?」
「それはどうですかね?」
先程の戦いで加藤の戦法が少しわかったんでね。近づくとまたバーニング・フラットを仕掛けてくる、ここは俺の自慢の身体能力を活かして加藤を撹乱させるか。
「こんなところでいいパーティーをしてるじゃねーか?」
加藤相手にどう行動するか迷っている中で、1人やけにトーンの高い男性の声と高速の刃が突如加藤に襲いかかる。
「ん……誰だ? なっ?」
声のおかげで無事に加藤は刃を避けることができたが、俺でさえこの5秒の間に何が起こったのがわからない。
「大丈夫か加藤?」
「まあな、この刃……ただの刃ではない、いったい誰が?」
俺は刃を見て少し困惑する中、金田さざなみ公園にまたしてもトーンの高い男の声がした。その男は両手をおでこを抱える謎のポーズをとりながら、俺達3人の前に顔を見せる。
「きゃははは! どうだぁ!? この俺様の優れた刃は?」
「つ……坪本迅馬!?」
刃を繰り出したのは、木更津アウトレットでレイラやRARUと共に喫煙をしていた坪本迅馬だった。坪本は高笑いをしながら俺達に素顔を現すが、悪人のくせに変に格好つけて登場するなよ。
俺と毅が加藤と戦っている最中に、都合よく現れやがってよ。やはり、アウトレットの駐車場で俺と毅がいたのは知っていたのか。
「レイラやRARUより先にここに1人で来て正解だったぜぇ! 探したんだぜぇ加藤炎児さんよぉ!」
「なんだあいつは?」
「あいつは加藤さんを狙う悪党です、あなたを洗脳しようとしてます」
「俺を洗脳……だと? ふざけるな」
俺だって坪本を見るのは初めてだが、悪党であることは事実なのだから加藤に悪党だと説明する。
虹髑髏に狙われていることを知った加藤は、状況が一変して俺に敵意を見せるのをやめた。そして、敵対する相手を俺と毅から坪本へと変える。
「君達、悪いが一時休戦だ。先にあの狂った奴を燃やすぞ。俺の気分がすごく変わった」
「あんたに言われてもわかってるぜ。あんたに受けた火傷をなんとかこらえて、こんな糞野郎をさくっとやっつけてやる」
「任務内容が変更となったか……坪本は見た目からして気に入らないし、俺の光で切り裂けないようにするか」
自称令和の切り裂きジャックこと坪本が乱入してきたせいで、目的が加藤と共に坪本を倒すことに急遽変わったな。
このあとにはレイラやRARU、そしてジャイスまでがここに来るはずだ。俺達の増援が来るまでに、まずは坪本を懲らしめて加藤からの信頼を獲得するか──
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