8-9話 加藤炎児と毅の星
──ようやく接触する相手を見つけたが、本人がまとめてかかってこいと言うのならば従うしかない。
加藤をいち早く探し出したい俺と毅は、和俊さんらの承認を得て2人だけで木更津のアウトレットの駐車場に踏み出す。
「レイラにやべー新手がいるなんて聞いてないぞ」
そこには憎き仇敵・レイラの愛車が停まっており、喫煙所にレイラとRARUが未成年喫煙しているのを目撃する。おまけに坪本迅馬という、見た目も経歴も危険すぎる男が虹髑髏の暗躍に協力していることも知る。
アウトレットにうろつくのは大変危険だ。奴らの視界から避けて駐車場から出ることにしたが、俺は加藤がアウトレットにいないことを信じた。
「ここの反対側にある金田さざなみ公園にでも行くか、そこで和俊さんや菜瑠美達と再度待ち合わせするか」
「仕方ないな。今ここで人間として低レベルな奴と戦っても、加藤と戦えなくなるからな」
俺は毅を説得して、近くにある金田さざなみ公園に向かうことにした。女性陣も先程木更津に到着したと連絡が入り、良い時間に合流できそうだ。まずは、奴らとの視界から離れることが先決だがな。
木更津に到着してから30分も経ってないが、夜に大事な予定があるせいでゆっくり探すことはできない。金田さざなみ公園に加藤がいることが、最後のチャンスだと思い切るか。
◆◇
「なんだよ令、誰もいないじゃないか」
「俺もこんなはずじゃなかったんだかな……」
10分歩いた末に、俺と毅は金田さざなみ公園に到着した。しかし、公園には人間どころか動物さえもいない……つい先程までいたアウトレットとは違って、淋しい雰囲気しか感じられない。
ここはハズレだったのか、いや来たばかりだしまだ決めつけてはいけない。しばらく俺は海岸を眺めていたが、毅は西の方向を見て何かを察していた。
「おい見ろよ令! ここに訪れたのは偶然とはいえ、来て正解だったんじゃないのか? お前も目がいいんだったら、よーく見な」
俺も目はいい方だし、毅と同じく西の方向へと体を向けるか。たしかに、そこには赤色の髪をした1人の男性が遠くから見えるがまだ加藤と決まったわけではない。
「行くぞ令」
「お前なー、少しは俺のことも考えろよ」
それでも、毅は加藤らしき男性の方へと近づこうとする。さっきまでは毅の能力よりも俺の力量を見たいと言ってたくせによ、実はせっかちな性格じゃないか。
俺は刀梟隊の正式な隊員じゃないから詳しくはわからないが、毅は普段からも李理亜さんら他の隊員達にもこんなことしていそうだな。俺よりかは3歳年上でも、まだまだ若いことは事実だ。
◇◆
毅の行動に反対意見を言えずに、加藤のいる半径5m以内まで到着した。このまま俺と毅は通行人のフリをして加藤に接触しようというのか?
たしかに、半蔵さんのパソコンにあったデータだけを見た限りでは、顔つきや体格は加藤そのものだ。加藤はただ単に公園で立ってるようにしか見えないが、何か目的とかあるのだろうか?
「そこにいな令」
「おいお前、いきなり加藤と話すのか?」
「ああ、それ以外に何があると?」
さっきまでは加藤に気付かれないように用心深く歩いてたのに、本格的な任務モードとなり積極的に出た毅。一方の加藤は、雰囲気的から見て口数が多いようには見えない。
「突然だが失礼する、加藤炎児というのはあんたか?」
加藤は地下格闘会最強という肩書きがあるせいで、荒くれ者にして声掛けするには抵抗のあるイメージが俺にはある。それでも、毅はそんなことに気にせず加藤に声を掛けた。
「そうだが……そういう君達こそ何者だ?」
意外だな……自分が加藤であることをあっさり認めた。それに、俺と毅が怪しい奴ではないのかと疑っており、用心深い応対をしている。
「4月にも別の場所で俺を狙ってきた連中がいたな。ただそいつらは、『俺達の組織に加えてやろう』と俺の興味のないことを言っていた独特語尾の2人組だったな。その時は俺が振り払ったが、君達は仲間か?」
もしかしてファルとデーバのことか? この前菜瑠美から聞いた話だと、奴らは任務に失敗してアナーロに協力していたが、その任務は加藤の捕獲だったのか。
「俺はそいつらと同類じゃない! 俺はあなたに……」
俺が虹髑髏であることを加藤は疑い、再び標的の的にされていることを痛感していた。それにさ、虹髑髏の中でも下級の連中達であり、先月の襲撃事件で逮捕される奴らと一緒にしてもらっては困る。
とにかく今の俺は加藤に反論しかできない、ファルやデーバと違って悪ではなく正義に協力したいことを。
「慌てるなよ令」
俺は少し血迷ったせいで、毅が右手を使って止めに入った。発端は先に毅が声を掛けたんだし、毅なりにけじめがあると俺は実感する。
「予想してみよう、君達はやり手の能力者のようだな?」
「ああ、俺と隣のチビはあんたの噂を知ってここまでやってきた。そして、あんたは俺達の仲間にしたいんだ」
「チビって、もっとまともな言い方できねぇのかよお前」
こんなときに毅の奴、俺の方が先輩で10cmくらい高いからってチビと言いやがった。これじゃ、毅に対する印象が大和田さんの寺にいた時と逆戻りだ。
「ならば、2人まとめてかかってこい。俺を仲間にしたいのであれば、まずはどれ程の強さなのか俺に見せてみろ!」
加藤の左手に眠っている手のひらから、熱く燃え上がる橙色の炎を俺と毅に見せつけてきた。用は実力を確かめてから仲間になるか考えるわけね、加藤の方から戦いの誘いが来るのは意外だ。
「こんなことになるとはな……共に戦うぞ令!」
「おう」
毅の両手から、無数の星が散らばりはじめて綺麗に輝き始た。この輝き、まるで俺の『光の力』と似たようなものを感じる。
なんだよ、性格や態度が悪い癖にこんな善良な『力』を持っていたとはな。母親からの遺伝であるなら納得するが、どこで性格がねじまがったんだよ……駄目だ、戦いに集中しよう。
「加藤炎児。あなたに怨みはないが、戦いたいのであれば俺達の全力をぶつけます」
「ふふっ、いい心構えだな。久しぶりに俺を熱くさせてくれ!」
俺よりも6歳年上だしまだ悪人とも限らないから、今は敬語で加藤に接するとするか。言うほど好戦的ではなさそうだし、実はいい人だった……なんてパターンもあるからな。
炎使いである加藤だけでなく、星を自在に操ることができる毅に今は注目しないとな。ただの大口を叩くだけではない、流星の如く戦う毅のベールが明らかとなる──
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