第八章 刀梟隊と炎の能力者

8-1話 夏の始まりと衣替え

 ──高校生になって最初の『夏』を迎える、この夏の始まりが俺にどう影響を与えるか。


 2019年6月3日7時55分

 ソードツインズが虹髑髏に渡ってから結構な日が経ち、気付けば6月を迎えていた。季節も春から夏に変わり、環境にも変化が見られる時期だ。

 言ってしまえば、今まで通りに学校生活を送るだけの話なんだけど、屋外は暑くなる見込みでもあるからな。能力者の俺が夏バテなんてしたら、『わだつみ』のメンバー達に笑われそうだ。


「なんか、ブレザーを着てないから体が気軽だな」


 朝起きて支度して気付いたことだが、6月は衣替えの時期でもある。1枚脱いだだけでも身なりの手間は省けた、それでもネクタイを付けるのはいつでも面倒だけどな。

 夏服になって初の通学ではあるが、先週からずっとソードツインズのばかりを考えていた。あいつらが虹髑髏所属になったのが未だ信じられない……本当なら『わだつみ』側にいたからだ。

 先月起こったソードツインズの一連の件にまだスカッとしてない、先週の学校の話題はあいつらのばかりだったしな。余計虹髑髏を憎むのに無理はない。


「とにかく、未だソードツインズのことを念に持ってる。厄介ごとになったのは間違いない」


 ソードツインズの処遇に関してだが、学校からは揃って行方不明で退学扱いにはならず、家族からも捜索願いも出ている。牛島が犯した殺人に関しても未成年なためか、世間に知れ渡ることなく警察が極秘で進められている。

 それに、牛島が殺人犯であると校内で出回ったら生徒達だけに限らない事態になるからな。他校からの海神中央高校の評判が一気に下がるし、来年度に受験する人なんて現れなくなるだろう。

 藤野に関しては女子生徒からの人気も高いせいで、藤野を心配しすぎて学校を休んだ生徒もいたという。ソードツインズは菜瑠美と共に、ここ2ヶ月の海神中央高校を賑わせたのは紛れもない事実だからな。


「次に会ったときは今度は俺達の敵としてな……と藤野が言っていた」


 藤野が牛島を連れて東船橋から出ていった言葉がずっと頭から離れない……完全にソードツインズとは敵対関係となった以上、俺はあいつらに対抗する強さを持ってないといけない。いくら、菜瑠美との連携技を持っていてもだ。


「それでも、『わだつみ』には実はソードツインズ思いの桜井さんが入った」


 こっちにはソードツインズとは中学時代からの同級生の桜井さんが『わだつみ』に加わったわけだし、よりソードツインズと『わだつみ』との関係が深くなったのは事実だ。

 今後敵として遭遇した場合、あいつらの洗脳を解かせて牛島には罪を償わせてやる……メンバー全員がそう実感しているはずだ。


「ん、あれは……?」


 ソードツインズのことばかりを歩きながら考えていたら、前には1台のタクシーが停まっていた。この時間でこの場所に降りるなんて、1人しかいないよな。


「やっぱり菜瑠美だ」


 タクシーの乗客者は菜瑠美であった、季節が変わってもタクシー通学は継続か。降りようとする前に俺に気付いたのかわからないが、お互い目を合わせようとした。 


「あら、おはようございます……つかさ」

「おはよう菜瑠美」


 タクシーから降りる菜瑠美とすれ違うのは初めてだが、何の違和感を感じないのは恋人同士だからなのか? ただ、今の菜瑠美を見て1つ気になるところがあった。


「つかさ、さっきから私のことばかり見ていますよ……そんなに私の夏服が気に入ったのですか?」


 参ったよ。鋭い菜瑠美に見抜かれてしまったが、気になっていたのは菜瑠美の夏服姿だ。休みの日でもブレザー制服のままでいたことがあったし、俺としてもブレザーを着ている印象が強い。

 ブレザーを封印した上半身は、紺色の校章付きのセーターにしっかり上まで締めているネクタイ。まだ6月の初めなのか、ブラウスはまだ長袖を着用している。

 そして注目の下半身は、褐色のパンストから紺色のごく普通のソックスを着用している。すらりと伸びる生足姿の菜瑠美はなかなか見てなかったし、俺としても嬉しいな……パンストを履いている菜瑠美も最高だけど。

 菜瑠美も初めて人前で夏服を披露しているからか、少し恥ずかしくなって顔が赤くなっているな。


「まあな、とても似合っているよ。冬服並みに好みだし、相変わらず優等生の雰囲気を感じている」

「ありがとうございます……ブレザーとパンストを封印したので、夏服は微妙と言われずによかったです」


 何いってるんだよ菜瑠美、恋人がそんなこと言うわけないだろ? 、俺の理論だがな。


「ではつかさ……ここで立ち止まっているのもあれですので、人だかりが少ない間に学校へ……あれは?」

「どうしたんだ菜瑠美?」


 学校へ向かう前に、菜瑠美は何かの気配を感じていた。その気配は段々大きくなり、こちらに近づこうとしている。


「つかさ……あの人、川間さんではないのでしょうか?」

「本当だ。しかも、学校から逆方向にこちらへやってくる」


 いつもだったら川間さんはこの時間なら既に教室に着いているが、表情を見た限りでは何かを焦っているような感じだ。いったい彼女に何があったんだろう?


「顔を合わせるのに問題はないが、ここで俺と菜瑠美の関係だけは川間さんに知られたくないな」


 なんてこったい、菜瑠美の夏服をじっと見ている場合じゃなかったな。川間さんは菜瑠美との関係は希薄ではあるものの、入学式の放課後は怪しまれてたから色々怖いんだよな。

 通学中に菜瑠美と通りすがったのは事実だが、川間さんのことだから何をやらかすのかわからない──

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