7-16話(七章最終話) 桜井の決意
──これは意外すぎた、自ら志願して俺達と行動を共にしようとするとは。
2019年5月24日18時5分
俺と菜瑠美は海神中央高校に戻り、柳先生が所有するプレハブに戻っていた。菜瑠美の家の場所から考えてこれはとんぼ返りになってしまうが、校内に戻る約束は柳先生と大和田さんにしていたからな。
なかなか生徒会の会議が終わらないため、今回起きた出来事は大和田さんが戻り次第始めるつもりだ。牛島の異変に関しては、既に桜井さんが柳先生に言っていたようだ。
「今度こそ本物の桜井さんだよね」
「影地……あんた何聞き捨てならないこと言ってるんだ? 俺のことを偽者だというのか?」
「影地くん、桜井さんのことを偽者と決めつけるなんてひどいこと言うわね」
柳先生の呼びかけにより、『わだつみ』のメンバーではない桜井さんもプレハブの中で待機していた。カズキと塚田は別件があるためここにはいないが、あの2人の場合は柳先生に説教間違いないからいなくて正解だ。
桜井さんは2週間の襲撃事件では麻衣に、さっきの東船橋ではRARUによって変装された。このプレハブで桜井さんと再会した時、また誰かが変装しているかどうか俺は先行して疑いはじめてしまう。
「大丈夫ですつかさ……そこにいるのは本物の桜井さんで間違いないです、私が保証するので大丈夫です」
「おいおい天須まで言うのかよ、また俺に化けた奴と遭遇したっていうのか?」
ま、菜瑠美が言うから本物の桜井さんであることは間違いなさそうだ。以前プレハブの収納庫で監禁された嫌な思い出があるから、桜井さんも察しがよいな。
「桜井さん、実はなのですが……桜井さん達が東船橋から離れた後、あなたのことが大嫌いと言っていた
「嘘だろ、あの志野田が! この俺に変装して騙した挙げ句、闇堕ちしてソードツインズをあんな目に……絶対許さねぇ!」
おっと、ソードツインズに関する一連の事件の黒幕がRARUと聞いて、桜井さんの怒りが頂点に達したな。真久間中時代に何があったか知らないが、相当RARUに怨みを持っていることが伺えるな。
「そのRARUって子、あなた達と同じ高1なんでしょ? まるで、愛宕と同じ道を進んでるんじゃない、更生する必要があるわね」
柳先生はレイラの件以降、闇堕ちした女子生徒を許さない心を持っている。RARUに敵対心を燃やすのはわかるが、今からでも更生したいとしか思ってなさそうだ。
「影地と天須、さっきあんた達がここに戻る前に柳先生が俺に言ったんだ。あんた達はこの前俺を監禁させた奴や志野田のいる悪い奴らと本気で戦っていることを」
柳先生ったら桜井さんに俺達の秘密を言うなんて……桜井さんは『わだつみ』達やソードツインズに深く関わってしまった以上、ここは俺からも言うしかないな。
「桜井さん……ああそうだ。俺達やソードツインズ達は普通の人間は所持できない異能力を持っている。これが俺が所持する『光の力』と……」
「私が所持する『闇の力』です……」
ここはプレハブの中だから僅かしか出すことができないが、桜井さんに向けて俺と菜瑠美の持つ『力』を見せつけた。
本当は一般の生徒達にはこういうことはしたくなかったが、いずれはこうなることはわかっていた。当たり前だか、菜瑠美にキスされて異能を手に入れたとは口を避けても言えない。
「私やもうすぐ来る副会長は所持能力の都合上ここでは使えないけど、影地くんや天須さんと同等の『力』を持っているわ」
「柳先生達が昨日までのソードツインズ以外に、別の目的で悪者達と戦っていたなんて驚いたよ。柳先生達、実はすごいんですね」
桜井さんは嘘みたいな顔をしているが、これが今の俺達なんだ。いや、俺達だけでなかったな……今や虹髑髏の工作員となったソードツインズもな。
すると、桜井さんは突然として俺達に向けて丁寧に頭を下げた、これは一体何を言おうとするんだ?
「柳先生、お願いします! 俺は柳先生達みたいな異能は持ってないけど、できる限り協力したい。この俺を仲間に入れさせてください!」
「桜井さん!?」
まさか桜井さん、能力者でもないのに『わだつみ』に自ら志願するなんて。これは初めてのケースだが、今の俺達は危険が大きすぎることをしている。
俺からすれば反対ではないのだが、どうすればいいかわからない。俺だけ素直にお断りしますと言えないし、菜瑠美も少し困ったような顔をしている。
「大歓迎だ、君みたいな勇気あって志願するような逸材は『わだつみ』に欲しいところだった」
「ちょっと耕ちゃん!?」
「悪いな君達、会議が異常に長引いてな」
俺自身の決断を下す前に、生徒会会議を終えた大和田さんがプレハブに入ってきた。大和田さんは桜井さんの『わだつみ』入りを賛成している。
「私も桜井さんが入ってくれるのはとてもありがたいわ。あなたはこの前のスポーツテストでは学年の中でもトップクラスだったし、身体能力に関しては私は評価していたわ」
「本当ですか!? しかも、あの柳先生に認められて俺は感激です」
柳先生は反対すると思ってたが、桜井さんの身体能力の高さを買うのか。大和田さんと柳先生が賛成をしたからには、俺の答えはもうこれ以外考えられない。
「桜井さん、君が自ら願って来るなんて予想外だよ。改めて『わだつみ』としてもよろしく頼む」
「桜井さん……あなたとはいい友達になりそうです、『わだつみ』でも宜しくお願いします」
「影地……天須……『わだつみ』としてあんた達に迷惑をかけないように俺は頑張るよ。みんな俺を認めてくれてありがとう」
「一人称を俺という女子も珍しいからな。といっても、たかこ先生も君の噂は聞いていたからな」
俺も菜瑠美も桜井さんの『わだつみ』入りを受け入れた、これで満場一致となったな。改めて、『わだつみ』にようこそ桜井さん。能力者集団の主観から外れているが、虹髑髏を潰すという利害は一致している。
これで桜井さんも晴れて『わだつみ』か……異能は所持していなくても、影で支えてくれるムードメーカー的な人物もいて助かりそうだ。
「『わだつみ』に入ったのだから、これから過酷なことが待ち受けているぞ桜井さん」
「わかってる。さっき牛島の前では絶縁すると言ってたけど、俺はやっぱりソードツインズが心配なんだよ! 俺も『わだつみ』として、ソードツインズを救いたいんだ」
桜井さんにとっては、ソードツインズを救うことととRARUとの過去の因縁を付けるために加入したものだ。この1つの新たな戦力が、非常に大きなものとなるだろう。
新メンバーも増え、5人に増えた『わだつみ』は打倒虹髑髏に対する意欲もかなり高まっただろう──
「ソードツインズ! RARU! ジャイス! お前らは『わだつみ』に勝てないことをわからせてやる」
第七章・復讐のサンダーバッファロー 完
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