6-9話 非公式のビッグマッチ

 ──俺の恋人に手を出す時点でいい度胸してるかもしれないが、頂上決戦が異能力バトルまで発展するとはね。


 帰宅直前、俺の前に現れた桜井さんが呼び止め、急に理科室付近に連れていかされることとなる。

 壁際に隠れながら理科室のドア前を覗いたら、菜瑠美と藤野か何か秘密の話をしていたのだった。菜瑠美は何やら困惑した顔をしているから、気になるばかりだ。


「実はな影地、俺と天須は別々の目的で理科室に来たのだが、そこで藤野と遭遇したんだ。あいつ、案外紳士的な態度を取ったのもあれだったんだ」


 桜井さん曰く、本人は忘れ物を取りに行くため自習をする菜瑠美と一緒に理科室に訪れた。そこで、また別の目的を持つ藤野がたまたま居合わせたということだ。


「よく思えば、菜瑠美と藤野の人気は校内では桁違いだよな」

「さっき俺も掲示板をみたけど、あいつ中間試験で天須に2点差で負けて2位に沈んだんだよね。あの2人は色々と格別すぎるわ」


 菜瑠美は入学式早々から告白が殺到したが、当の本人は全て振るという荒業を見せている。しかも、美貌だけでなく学年成績1位というカリスマ性も抜群だ。

 一方の藤野も賞金稼ぎという裏の顔は置いときながら、イケメンで頭脳明晰で運動神経抜群。大分後の話になるが、バレンタインチョコを作りたい男子1位のおまけつきだ。


「藤野はきっと、天須の勉強方法を知りたがってるんじゃないのか」

「いや……違う」


 そんなことがあるわけない、藤野は俺と菜瑠美が能力者であることと、幕張で見ていたことに気付いているはずだ。菜瑠美の態度が急変してきたているし、もう状況が把握したくて仕方なさすぎる。

 

「悪い桜井さん、俺は菜瑠美と藤野の話に割り込む」

「おい影地! ったく……悪いけど俺は首突っ込む訳にはいかないし、この場から立ち去るよ。じゃあな」


 我慢の限界とばかりに、俺は桜井さんの忠告を無視して理科室のドア前に向かう。菜瑠美に後で何を言われるか知ったことではない、藤野がもし勝手なことをしてきたらどうするんだ?


「あっ……つかさ」

「菜瑠美! 藤野と何を話しているんだ?」

「影地令か……そこでミナミと共に覗いていたのはわかっていたぞ」


 くっ……藤野に覗いたのを見抜かれていたか。姿を見せてしまった以上、お邪魔しましたなんて言えない。


「俺は1時間後、天須菜瑠美と能力者の顔として戦うことなった。せっかくここに来たわけだから影地令、あんたも行田公園に来な」

「は? お前何言ってるんだよ? 菜瑠美より先に俺が相手になる」

「いいえ、落ち着きなさいつかさ……私は藤野さんと戦う覚悟は決めています」

「菜瑠美!?」


 菜瑠美の言葉により、俺は口を止めるしかなかった。普段は物静かで争いを好まないのに、虹髑髏以外の人間にここまで好戦的になった菜瑠美を見るのは初めてだ。


「では、1時間後待っているぞ。くれぐれも逃げるなよ天須菜瑠美」

「そういう藤野さんこそ、覚悟してください!」


 藤野は自信満々な態度と不適な笑顔を取りながら理科室から去り、待ち合わせとなる行田公園へと向かった。


「おいおい、本当に男女別学年成績1位同士が能力者としての戦いが始まろうとするのかよ」


 人気・頭脳・能力者の3つ全てが合わせ持った菜瑠美と藤野。

 菜瑠美ったらガチで乗る気でいるし、俺は巻き込まれている立場の人間だぞ。仕方ない、時間まで俺は菜瑠美と話しておこう。



◇◆◇



「君は正気か!? 何のデータもない藤野と戦おうなんてどんな神経してるんだよ」

「つかさ……これは決まったことです……私のことは気にしないでください」


 俺と菜瑠美は一旦理科室に入り、菜瑠美に一喝をいれた。幸い、中には2人きりであるのは助かった。

 藤野の持つ『力』がまだ理解していないのに、いきなりやり合おうとなんて無謀にも程がある。俺でさえも、藤野が恐ろしい奴なのかは深く理解している。


「たしかにさ、戦うことは菜瑠美の勝手かもしれない。もしアナーロに狙われた時に起きた『真の力』が覚醒したらどうするんだ?」


 あれから少し期間が過ぎたとはいえ、菜瑠美には覚醒した闇を所持している。もし戦闘中に覚醒してこれが藤野を今後苦しめるようなことがあったら、一切責任が取れないぞ。


「大丈夫です……私自身の能力はある程度制御できます。少くとも、藤野さんを苦しめない程度にはします」


 藤野はアナーロのような変態ではないとは思うが、万が一のことは心にしておくんだな。ま、セクハラなんてしたら俺が許さないけどね。

 苦しめない戦いか……これでもし菜瑠美の闇に藤野が飲み込まれたら、藤野のファンの女子達から菜瑠美は敵に回されるだろうな。


「つかさ……私がソードツインズを『わだつみ』に入れさせます。だから今日、


 そうだな、ソードツインズを今スカウトできるのは菜瑠美しかいない。菜瑠美の強さを藤野が認めたら、すぐに牛島にも伝えてくるのは違いない。たしか、牛島も菜瑠美のファンクラブ会員だったな。


「ではつかさ……私は戦う準備をしますので、あなたは先に行田公園に行ってください」

「わかった……俺からの今の助言は精神を落ち着かせろ、それしか言えない」


 まだ未知の強さである藤野を相手にするのに、大きな自身を持つ菜瑠美。俺としては菜瑠美の行動に関しては援護不能の領域まで達したが、──

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