6-10話 互いの条件
──両手に武器のような物まで所持、これが藤野の異能か。
2019年5月23日16時55分
菜瑠美と藤野との戦いが始まる5分前、俺は行田公園に到着した。俺は先に制服のまま1人で来たのだが、今回は2人の戦いに一切手出しはしないということは心に誓っている。
まだ学校にいる菜瑠美の準備に少し気になるのだが、藤野に本気で勝とうなんて思ってるのだろうか?
「誰もいないな……」
それにしても随分と静かな公園だな……まだ日が暮れているわけでもないのに、人の気配を感じない。戦いには適した環境ではあるけどね。
藤野の奴もまだ来てないのかと思ったら、それは大きな間違いだった。
「来たな、影地令」
「しまった……藤野か」
公園にある大樹から既に藤野が登っており、俺を待ち構えていた。そして、俺に奇襲攻撃の蹴りを仕掛けるかのような感じで降りてきた。
「俺の挨拶代わりの奇襲を避けるとは。それでも、天須菜瑠美と戦う足慣らしはしたから良いか」
今のが足慣らしだと? たしかに、動きは今まで見てきた能力者の中でも屈指のものだ。間違いなく、この動きをされたら菜瑠美も苦戦しそうだ。
これは、すでに戦闘オーラがありふれている証だよな。本当、血の気が激しい牛島がいないだけ助かった。
「藤野、お前に聞きたいことがある! 何故菜瑠美に近づこうとした? 牛島が補習であることを見計らって、1人で菜瑠美と戦いたかったからか?」
俺は後から会話に割って入ったのだから、藤野が菜瑠美に接近したのか理解していなかった。戦うのであれば牛島と攻めるんじゃ駄目だったのかよ。
「俺は中間試験のこともあって先に天須菜瑠美に接近することを決めた、あんたはその後だ。むしろ、あんたは牛島が目を付けているから、俺の方から無理な手出しはしないよ」
「ふっ、牛島は俺のことを大変気にいられたようだな」
この前の強盗を捕まえたときも、牛島は俺と古今後戦う前のウォームアップと言っていた。あいにく、俺からしたら2人まとめてかかってほしいんでね。
正直言うと、俺だって今ここで戦いたいさ。牛島がバカでなかったら良かったんだけだな。
「それにしたって天須菜瑠美がまだ来ないな」
「知らんな……菜瑠美は準備すると俺に言ったきりだ」
約束の時間まであと1分を切った。菜瑠美が時間を破ってしまったら、俺に八つ当たりしそうな感じするんだよな。
その時、公園からコツコツと響き渡るハイヒールのような足音が、俺と藤野の近くまで聞こえてくる。
「お待たせしました……つかさ……藤野さん」
「来たか……天須菜瑠美。あんたの実力を拝見させてもらうぞ、俺の方も牛島もいないし少し変わった気持ちで戦うつもりでいる」
約束の時間ギリギリで、戦闘服姿の菜瑠美が到着して俺と藤野の前で姿を見せる。今から戦うとはいえ、公園で派手すぎる格好すんなよ……と胸もかなり揺れてるし不安になってしまう。
「おいおい菜瑠美……まさか、学校で着替えたんじゃないよな……」
「いいえ……そこのトイレでこっそり着替えました。戦う前なのに、変な妄想はやめてください……つかさ」
そりゃそうだよな……学校であんな格好して帰宅したら問題にも程があるし、胸も大きいから道端でも注目の的になるとしか思えない。
「言っておくが天須菜瑠美、俺はあんたのその刺激的な服で誘惑する人間じゃないぜ」
「これは私が重要な時だけに着る服です、そういうあなたこそ油断はしないでくださいね」
菜瑠美の方からも忠告はしているが、同世代の男子でここまで菜瑠美のプロポーションに興味ないのは珍しいな。これで、藤野にはお色気が通用しないのはわかった。
「藤野さん、戦う前に1つあなたにお願いしたいことがあります。私とつかさは、2週間前の襲撃事件の犯人達が所属していた悪の組織と戦っています。組織を壊滅するにはソードツインズの協力が必要です、私が勝てば私達の能力者チームに入ってください」
「悪の組織と戦っているか……面白い、俺が負けたらその条件を飲んでやる」
こりゃ驚いた、菜瑠美がこの戦いに勝てばソードツインズを『わだつみ』に加入させる条件を閃いたことをな。悪の組織という言葉を聞いた藤野も、思わずこのことに感心している。
「だったら、もし俺が勝てば天須菜瑠美が弱者であることを判断し、その誘いは破棄する。そして、俺の気が変わってそのまま影地令との戦いに移る。牛島には申し訳ないが、それでいいな」
「待てよ藤野、俺には無理な手出しはしないと言っただろ」
「文句言うなら条件を付けた天須菜瑠美に言ったらどうだ?」
藤野側もとんでもない条件を出してきたな、菜瑠美が負けたらすぐに俺と戦うとか今の俺には自信すらないぞ。これじゃ、俺にも高いリスクを背負ってしまったな。
藤野の言う通り、文句は菜瑠美に言うべきだ。こういうのは、戦いを終えて藤野が菜瑠美の実力を認めてからにした方が都合いいだろうが。
「菜瑠美、本当に大丈夫なのかよ? 俺さえも巻き込みやがって」
「つかさ……私は勝つ気でここにいます、安心してください。藤野さんの条件、受けて立ちます!」
菜瑠美は片手から
「ふっ、天須菜瑠美が自らの闇の異能を出してきたか。それなら俺もあんたらに見せつけてやろう。はっ!」
「きゃっ、これは風?」
「あいつ、武器まで持っていやがる」
藤野の両手から、凄まじい勢いの風が吹き出してきた。また、右手には剣のような武器を、左手には銃のような武器を手に所持している。
牛島と共に物騒な奴だとは思っていたが、能力者の上に二刀流の使い手かよ。これは本当に強敵になるな、俺もこの場で戦うかもしれない。
「相手にとって全くの不足はありません、いきますよ藤野さん!」
戦闘に入る前に、菜瑠美は装着している長手袋をしっかりと手のひらまで伸ばす。果たして、藤野が持つ風の異能と二刀流の武器はどのような技を所持しているのだろうか?──
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