6-7話 藤野動く

 ──そちらの方から菜瑠美に接近してくるとはな、恋人の立場である俺から見たらいい度胸してるな。


 2019年5月21日11時40分

 いつどこでソードツインズが襲来するかに備え、俺は単独としても菜瑠美と合同での特訓に集中していた。特訓ばかり目がいってしまったせいで、土日の間は期末試験の勉強のことをすっかり忘れていた。


「国語91点、地理88点、英語84点、理科86点……俺としてはよくやったのかな」


 昨日と今日にかけて、中間試験の結果が続々と返されていく。頑張った報いがあったからか、俺は今までの教科で全て80点以上を出している。


「ここまではよい……残りは


 今日の4限目に、俺が1番苦手としてあかた数学が返ってくる。これで80点以上を越えてれば大満足なのだが、最後に迷った2問は間違えてそうだし少々厳しいか。


「次、影地令」

「はい! ん……やっちまったか」


 答案を見たら目標の80点に届かず、77点だった。最後の最後で目標として挙げていた全教科80点以上は未達成か。

 全体の平均点も59点と高くなかったとはいえ、80点を越えられなかったのは悔しい限りだ。期末試験は数学に取り組むべきだな。


「ただ、全体的に見たら俺としてはよくやった方だな」


 入学式では並くらいの成績でいいやと思い込んだ俺も、菜瑠美や大和田さんの影響を受けてまあ満足な点は取れたな。あとは何位に着いているかが気になるな。

 勉強に関しては安定してするようにして、放課後はまた自主トレだな。もちろん、今日英語の授業で出た宿題もやらないとね。


◆◇



 2019年5月23日15時30分


「はぁぁ影地くん……」

「川間さん……一体何があったんだ」


 帰宅直前、川間さんがため息をついており、見るからに良いことではなさそうだ。こういう時におちょくるカズキはもう下校したみたいだし、話を聞くか。


「実はねワタシ、国語の中間試験で赤点間際の32点だったのだけど、廊下で運河先生と会った時に今日と明日は補習を受けなさいと言われたの」

「まぁ……川間さんは国語が苦手だし、もう2度と受けないように出るべきでは?」


 そうか、川間さんは赤点ギリギリだったのか……俺はしっかり国語を教えたつもりだったが、飲み込みが悪かったかもしれないな。

 補習さえ受ければ俺なんかよりも運河先生の高い指導力で、期末試験はせめて40点は取れるように頑張れと心の中で祈ろう。


「それとね、補習の受講者には1組の牛島くん、5組の塚田くん、7組の馬込くんらがいるらしいの」


 こりゃ随分と問題児が揃っているな。全員川間さんより点数低そうな感じするし、菜瑠美を狙っている奴らばっかりじなないか。

 いっそ、菜瑠美が特別講師すればいいじゃんと思ったが、さすがにそうだと補習どころではないだろうなと。菜瑠美も確実に断りそうな感じしそうだな。


「じゃあ俺は帰るよ、補習頑張ってな」

「バイバイ影地くん」


 俺は補習を受ける川間さんと別れ、教室から出ようとする。受講者の面子を聞いた限りでは、川間さんガンバレとしか俺は言えない。

 あの中に俺もいたらとばっちりを受けること間違いないからな、ま、俺は勉強はできる方でね。


「バカ相手に浮かれてる場合ではない」


 家に帰って特訓する前に、1年生向けの掲示板を見ておくか。もしかしたら、中間試験の成績上位者が掲示されていそうだし寄るか。


「おっ、上位10名が掲示されているじゃん」


 今回の5科目の合計点は426点だった。平均点のことを考えれば、いても下の方だろうしじっくりと見るか。


「さてさて……1位天須菜瑠美 ・494点、2位藤野健・492点」


 やはり、菜瑠美と藤野が1位争いをしていたか。俺としてはさすがの一言だが、満点ではないことには互いに満足はしてそうにないな。

 おっと関心はせず、期末試験ではこの2人に割って入る使命が出てしまったようだ。掲示板を見ただけで、勉強のモチベーションが上がったのも1ヶ月前には絶対なかったことだ。

 菜瑠美と藤野に関してはこの辺にして、3位以下をじっくり眺めるか。3位が451点ということを考えれば、いかに菜瑠美と藤野の2強なのがわかるな。

 それ以降も俺の名前があるかどうかドキドキした。9位が428点となると10位に名前があるのかもしれない、その時はそう思っていた。


「うわまじか!? 10位の生徒の合計点は427点だったのか……1点の壁がすごく勿体ない」


 なんということだよ、わずか1点差で10位以内を逃したのであった。苦手だった数学をもう少し力を入れていればなれていたものを、ものすごく勿体ないことをしてしまったようだ。

 それでも、最初の試験で1年生が279人いた中で11位なのは良いとは思うのだが、悔しさが余計目立ってしまう。

 俺は2週間前の襲撃事件を解決した英雄扱いされてるのに、これで10位に入っていれば勉強もできる影地令くんと言われそうだったのにな。


「では帰るか……ん?」

「おい、こんなとこにいたか影地! あんたを探してたんだよ」


 中間試験の成績上位者の閲覧が終わり、今度こそ帰る途中に桜井さんが俺の前に現れ呼び止めた。今の桜井さん、ものすごく慌ててるけど何があったんだろう?


「桜井さん、どうしたんだ?」

「とりあえず俺と一緒に理科室まで来てほしい、話はそれからだ」


 俺を探していたってことはよっぽどのことだろう。案外、ソードツインズにまつわることかもしれないし付いていくか。



◇◆



「そろそろ説明してくれ、桜井さん」

「悪いな影地、でも今は静かにしてほしい。とにかく、あれを見てくれ」


 桜井さんの指示に従い、俺は理科室の近くを壁際に隠れて覗くことにした。すると、いつものようでそうでもないような光景を目にする。


「あ、あれは菜瑠美? 一緒にいるのは……藤野か?」

「そうなんだ、理科室で待機していた藤野の方から天須に話しかけてきたんだ」


 藤野の方から菜瑠美に接近しにきただと? やはり、俺と菜瑠美がソードツインズの賞金稼ぎとしての顔を見たのに気付いていたのか?

 本当、この場面に牛島がいないだけ助かったぜ。まさか藤野の奴、中間試験の結果も兼ねて菜瑠美に接近したのか。


「男子1位の藤野と女子1位の菜瑠美がぶつかりあうとは」


 学年の男女別総合1位同士が、一体何を語っているのか? 勉強面のことか、それとも能力者としてのことなのか?

 この出来事が、後にソードツインズのとは到底思っていなかった──

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