5-11話 1年7組の戦い Part3

 ──巡りついた先には、まだまだ俺の知らない闇があった。


 未衣と麻衣の姉妹によって、1年7組の教室は荒らされていた。大和田さんと教員は、1年7組の生徒と担任の運河先生を安全な場所へと避難した。

 一方、教室に残った俺は柳先生と共に、姉妹との対決に挑もうとする。校内で柳先生と共闘するなんて、入学式の日の校門で初めて会った時から嘘のような関係になってしまったな。


「影地くん、私は麻衣を相手にさせて。桜井さんに変装してまでここを荒らしたんだし、彼女の分まで戦いたいの」


 柳先生は教室から離れた桜井さんのためにも、麻衣と戦いたいようだ。ここで勝つことができたら、桜井さんも万々歳だろう。


「ほぉー、俺俺ちゃんの分までねー。よく言うじゃない」

「つまり、私はつかさくんを殺せばいいってわけねー」


 俺は未衣に狙われたか。あのおちゃらけた態度をしているのに反し、残虐な行動を取る未衣をどう対抗したらいいか。

 レイラの時もそうだったが、俺は女と戦うことに特別抵抗は持ってない。ま、俺や菜瑠美を狙う悪い奴らに性別は一切関係ないしな。


「さてと、先手必勝よつかさくーん。これでもくらいなさい、ていっ」


 未衣は俺に破壊されたナイフに代わり、教室にあるチョークを武器として俺に投げつけた。ったく、チョークは黒板に書くものであって人に投げるものじゃねーよ。


「つかさくーん、逃げてばっかじゃ私つまんないなー。お次はこれよ」

「なっ、こんなもん人に向けて投げるのかよ」


 今度は、椅子を俺に投げつけてきた。おいおい、この椅子は7組の生徒が勉強する大切な椅子だぞ、壊したりしたらどう責任とるんだよ。


「おっと、私と力比べする気なのかしら? おばさん」

「次私のことをおばさんと言ってみなさい、その両腕へし折るわよ」


 一方で、柳先生と麻衣の方は女同士による両腕の力比べか。柳先生は本来なら、海の一族の技をぶつけたいと思ってるのに、ここは教室だから使うのは自粛するようだな。

 俺が知っている範囲の技を使ったら、教室が水浸し状態になり校内ごと被害を及んでしまう。


「あんた私より少し小さいくせにやるわね、色々見くびっていたよ」

「私はあなた達のような悪女に負けるわけないわ」


 今は互い同等といったところか。言っておくが、柳先生は体育教師をここでしてるから、異能力だけ強いんじゃないんだぞ。

 柳先生と麻衣の戦いをチラ見しながら、俺は教室をバク転しながら未衣の器物破損に等しい投てきからかわしてるけどな。


「少し麻衣を見いってー、あんたの相手は私よ」

「ぐっ、しまった」


 この俺が一瞬の油断をしてしまった。柳先生を少しチラ見していた隙に、未衣が投げたチョークに左腕が当たってしまう。


「油断大敵とはこういうことよー、つかさくーん」


 くそっ、少し柳先生が気になりすぎた。左腕の痛みはまだあるものの、1つの掛けを行動に出ようとする。

 未衣は今、教卓に余裕こいて座り込んでいる。左腕をこらえながら、ここが教室であることを利用する戦いをするしかない。


「そろそろ終わらせるわよ、つかさくーん」

「いや、お前が終わりにしてやる。雷光ライトニング十字クロス!」


 こんなことはしたくなったが俺は机に乗り、教卓に座る未衣に飛び込んで向けて雷光十字をぶつけた。

 未衣がまたチョークを投げつけようとするが、チョークくらいは俺が弁償してやる。未衣の保険は払いたくもないがな。


「来たわねー。その技は虹髑髏全体がマークしている技だから対策済みなのよねー、つかさくーん」

「なっ、がはっ」


 未衣は俺が雷光十字を出すことを気付き、すぐに教卓から飛び降りた。逆に俺は、勢いが余って黒板にぶつかってしまう。

 俺の自慢の技・雷光十字が知れ渡っていたとは……だが、この痛みに俺は負けてたまるか! こんなんじゃ、菜瑠美すら救えないまま終わってしまうのだから。


「あいにく、力比べもここでおしまいにさせてもらうよ」

「えっ……きゃっ、こんなの反則よ!」


 柳先生の方も苦戦中だ。麻衣は今回もマスクの下に隠し持っていた毒霧を吐き、不意打ちを受けてしまう。

 なんか、麻衣の顔からして少し急いでいそうな顔をしている。その後、姉妹は教室の窓の方へと近づきはじめた。


「あんた達の戦いは面白かったけど、私達はこの教室から退かせてもらうよ」

「ふふふ、教室でひと暴れはできたしそれなりに満足だよ」

「おいお前ら、何処へ行く?」

「ここまでしておいて、逃げる気でいるの?」


 姉妹は突如として、教室の窓から飛び降りようとしている。ここは4階だぞ、飛び降りてここから逃げようと考えているのか?


「待てよ、自殺するつも……なにっ?」

「じゃあねー、つかさくん、おばさん」


 俺と柳先生は急いで窓を見渡したが、姉妹は窓から飛び降りたのではなかった。

 姉妹が付けていた特殊な手袋と靴によって、校舎をまるで蜘蛛やスパイ映画の如くよじ登り、学校の屋上へと向かっていた。


「あんた達と戦ってる間、アナーロさまからの緊急命令があったのよ。だから、私達も屋上に行くしかないのよ」

「はははははおにさんこちらー、なーんちゃってー」

「あいつら、どこまでやりたい放題なんだ!? まじでシャインだ死ねよ!」

「あの2人、侵入者でもありながら校舎にも指紋までつけるなんて、本当許せないわ」


 7組の教室を襲った時点で許されない行為だが、俺と柳先生との戦いを途中放置して上司と再合流するなんて、本当どうしようもない邪悪な姉妹だわ。


「影地くん、あの姉妹を追いに屋上へ向かいましょう。天須さんもそこでアナーロに捕まっているはずだから」

「そうですね。アナーロがここで姉妹を呼んだということは、菜瑠美に何かあったに違いない」


 今やることはただ1つ、菜瑠美を救うために屋上へ行くことだ。アナーロは下品な男だし、美しい菜瑠美の身に何か起きなければいいのだか。



◇◆◇



「屋上……一体、ドアを開けたら何が待っているのだろうか」


 俺と柳先生は、屋上手前のドアまでたどり着いた。ここに菜瑠美がいるとなれば、すぐさま開けることしか考えなかった。


「菜瑠美、無事か……どうしたんだ菜瑠美!?」


 ドアを開けた先に、全身紫色に染まったような姿をした、普段とは変わり果てた菜瑠美の姿があった。

 一方、菜瑠美を誘拐したアナーロは地べたに倒れこみ、俺達より先に屋上へ来てたはずの姉妹は、菜瑠美の闇の糸ダークストリングによって縛られていた。


「どうしたのかしら天須さん……まるで、何かにとりつかれてるみたい」


 俺と柳先生は今来たばかりだから、何が起きたか全くわからない状況だ。第4部隊も今は壊滅状態に等しい。

 まさか、菜瑠美は新たな異能に目覚めたのか? 今の菜瑠美を見た限りだととんでもない『力』を持っていそうだが、精神が不安そうな目付きをしている。


「何があったんだよ菜瑠美? 説明してくれ!」

「これは、覚醒した私の姿と言っておきましょう……つかさ、あなただけにはこの姿を見せたくありませんでした……私がアナーロを絶対に許せないばかりに!」


 より覚醒した菜瑠美の闇か……どうやってこの強大な『力』が目覚めたのかが気になってたまらない。近くにいる──



──────────



 次回はまた菜瑠美視点になります、何故菜瑠美が覚醒した『闇の力』を得たのか描きます。

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