第五章 覚醒する闇

5-1話 影地正

 ──もうすぐ40も近い親父なのに、やはり菜瑠美との初対面はそこに目が行くか。


 学校の担任と先輩でもあり、能力者チーム『わだつみ』のメンバー同士との手合わせを終えた後、俺は戦いで疲れ果てていた菜瑠美を俺が暮らすアパートの204号室に迎え入れた。

 家に着いてすぐにシャワーを浴びている菜瑠美に対し、俺は部屋を整理している間にチャイムが鳴る。インターホンを見た先にはなんと、出張続きから戻ってきた俺の親父・影地正だった。

 そして、親父は俺が今恋人がいるということを知らずに家の鍵を開け、中に入ってきた。


「ただいま令! 顔を見るのも久しいな」

「改めて親父、おかえり」


 親父は今、某王手会社の運送業でドライバーをやっており、全国横断している最中だ。5月の始めに会社の都合よく連休を手に入れたため、この家に戻ってきたのだ。


「それはともかく、帰ってくるのなら何かしら連絡してくれよ。こっちにも色々と事情があるんだよ」


 親父はこう見えても稼ぎの筆頭らしく、俺が今1人だけで暮らせるのも親父のおかげだ。海神中央高校は1年生でのバイトは禁止されてるから、金銭面的には余計に助かる。


「せっかく令和というお前に相応しい時代なのだから、一種のサプライズとして今すぐに会いたかったんだ。驚かせてすまないな」


 俺に令という漢字があるのは紛れもなく事実だが、何が一種サプライズだよ。親父が何かしら突発的なことをし出すのは、昔から好みじゃない。

 それと、俺の名前を付けたのは1年足らずでスピード離婚した母だろ。自分が令という名前を付けたような感じにしやがって。


「親父の転勤で千葉に来ただけで、俺は全てが変わったと言っても過言ではない」


 よく考えると、親父が転勤さえしてなければ俺はまだ八幡浜で過ごしていた。菜瑠美を始めとした海神中央高校の関係者とも会えなかったし、異能力とは無関係の日々を過ごしてたという見方もあるな。

 それはつまり、俺はまだ恋人すらできていない可能性が大いにあった。


「ん? 令、お前いつから瞳の色が変わってるし目もぱっちり開いてるんだ?」

「それはちょっとね。途中で突然変異みたいなものにかかってしまったね」


 やはり、この金色の瞳は目立つよな……元々きつい目付きの赤い瞳が、今ではこんな輝かしくなったんだよ、この家の中にいる人によってな。


「ついでに言うと、1ヶ月も見ないうちに随分とたくましくなったな。何か部活とか入ったのか?」

「いや、何も入ってないさ。ただ、近い将来の身に起きることがあって今少し鍛えてるんだ」


 意外と部活とかじゃないんだよな……それに、俺は一昨日1つ歳をとっているんでね。

 悪いが親父、俺は高校生になってから親父の知らない中で大きな宿命と異能を背負っているんだ。当然だが、親父を巻き込むようなことは絶対したくない。


「ん? シャワーの音がするな。この家の中にお前以外いるのか?」

「あ……ああ、今日は学校の友達が来てるんだ。なんかそいつ、シャワーを浴びるのが大好きでどうしても入りたいとお願いしてきたんだ」


 親父と話してる間にシャワーの音が大きくなり、親父がこの家に親子以外に誰かがいると察した。案外親父は聴力が良かったんだよな。

 ここは、恋人ではなく学校の友達ということで済ませとくか。性別も隠した方が無難だろう。

 俺の頭の中に色々迷いがあった中、シャワーの音がしなくなった。

 これはまずいぞ、菜瑠美が風呂場から出てしまう。親父との初対面で菜瑠美の刺激的な格好を見せるわけにはいかない。


「親父すまない……ここで友達を説得したいから、しばらくの間ここで待機してくれ」

「仕方ないな……お前に新しい友達ができたことを知らないまま、家に戻って来てすまなかったな」


 ようやく親父の悪い癖を認めたか。なんとか俺は親父を説得させて、着替えを準備して菜瑠美のいる風呂場へと向かう。



◆◇



「菜瑠美! 緊急事態だ」

「どうしたのかしら……つかさ」


 さすがにブラジャーとパンスト越しのパンティーでの姿を見たくないため、ドア越しで菜瑠美に話しかけた。


「実はな菜瑠美……親の親父がこの家に帰ってきたんだ。かごの中にこの前貸したのと同じ服を用意しといたから、今はそれに着替えてくれ」

「つかさのお父様が……どんな方なのか気になります」


 菜瑠美は俺の答えに応じた、さすがに初対面から下着一丁で親父に合わせるなんて前代未聞だしな。こういう時に戦闘服も洗っちゃてるし、なんで鞄の中に下着しか持って来なかったんだよ菜瑠美は。

 初対面で適正な服となれば、俺自身も見慣れてる制服や可愛らしさ満載の昨日来ていたゴスロリ姿だよな。俺の服なのに文句言うのもあれだが、なかなか地味さが目立ってしまう。


「つかさ……準備ができました……あなたのお父様と会うの緊張します……」

「仕方ないだろ、君が他に服を準備してなかったのにも問題があるぞ。当たり前だが、恋人同士であることだけは絶対言うなよ」


 菜瑠美は風呂場のドアを開け、俺が貸した服を着て玄関で待機している親父の元へと向かう。

 親父と菜瑠美とのいきなりのご対面だから、俺の方も随分と緊張してしまうな。果たして親父は菜瑠美の第一印象をどう思うのだろうか?



◇◆



「待たせたな、親父」

「つ、令!? お前の友達がこんな滅茶苦茶可愛い女の子だったとは思わなかったぞ!」


 親父は近所迷惑になる程の大声を出しながら、菜瑠美を見て驚いているな。しかも親父、顔よりも胸に集中して見てるじゃないか。どうやら親父も、菜瑠美の破壊力抜群の巨乳にノックアウトしたようだな。


「この方がつかさが以前仰っていたお父様……自己紹介します、私は天須菜瑠美と申します。つかさは……私にとってです」

「令とは大切な友達か、令と君はまだ思春期の真っ只中だしな。これから良い関係になってると良いな」


 クラスも違うわけだし、ただ単に学校の友達だけとして考えるなら本当の菜瑠美との関係は見抜かれなさそうだな。

 親父があんなに驚いてたのに、菜瑠美は不安なく親父と接しているな。男性への対応力が上がった証拠だ。


「今は親父と菜瑠美との関係は順調に進んでるな」


 俺と菜瑠美はのに、まるでお見合いするな感じになってしまったな──

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