4-12話 闇の祈り
──ピンチであった俺を窮地から救ってくれたのは、パートナー……いや恋人の存在だった。
互いに多くの技を繰り出す柳先生との異能戦。手合わせとはいえ、全力で戦いに挑んだ俺は雷光十字で柳先生のラフ・ウォーターをはねのけて命中させたが、この一撃で柳先生を本気にさせた。
「本気の私を前にするのだから、全力を捧げてこのブルーダスト・ハリケーンを影地くんの前に撃つわ」
ジャージを脱ぎ捨てた柳先生は、海の一族の奥義技であるブルーダスト・ハリケーンを俺の前に見せようとする。
「おっとたかこおばさん、あの技を令くんに使うみたいだな。悪いが菜瑠美ちゃん、本当は手荒な真似はしたくないが、これはたかこおばさんのためだ」
「私との戦いから逃げる気……きゃっ」
大和田さんも柳先生がブルーダスト・ハリケーンを使うのを察したのか、交戦中だった菜瑠美を突き倒し、そのまま柳先生のいる場所へと移動していく。
「そんな……これが、大和田先輩が柳先生のことを信頼してる証……はっ……つかさ!」
大和田さんの一撃をくらった菜瑠美は、体力と心共に痛んでいた。だが、そんなこと関係なく俺の元へ向かっていく。
「菜瑠美、今はこっちに来るな! 来たら君もやられてしまう」
「でもつかさ……私は……」
菜瑠美は心配しに俺の方へと向かって来るが、菜瑠美までもブルーダスト・ハリケーンの餌食になってしまう。それでも、菜瑠美は俺の忠告を無視して俺の隣にやってきた。
「天須さんもこの竜巻に流されたいみたいね! 影地くんと共に、私が持つ竜巻を受けてみなさい!」
「くっ……」
柳先生自信満々にブルーダスト・ハリケーンを放ったが、信じられない速度と強風で襲ってくる。
俺はこの強烈な竜巻を菜瑠美と共に受けてあっさり敗北するのかよ。だが、菜瑠美はこんな状態の中、両手で目を瞑りながら祈りを捧げていた。
「お願い……私の
「菜瑠美! 一体何を?」
こんな祈りをしただけで、ブルーダスト・ハリケーンを防げるとでも菜瑠美は思っているのか? 俺はそんなものでは無理だと判断した。
すると、俺と菜瑠美の周りには紫色の丸いシールドが張られていた。どうやら俺は、菜瑠美が張ったシールドで守られてるみたいだな。
「驚いたよ菜瑠美、祈りをしただけでこんなものが出るとは」
「天須さんにそんな補助技があったなんて……でも私の竜巻の方が上よ」
「私の祈りで……つかさと共に守って見せます」
ブルーダスト・ハリケーンの中心部が俺と菜瑠美に直撃する。菜瑠美は今高らかに祈っているが、俺も菜瑠美が持つ闇の隠った祈りの『力』の強さを祈るしかなかった。
「ううう……きゃぁあああ」
「菜瑠美! うわぁあああ」
途中までは防いでいたもの、シールドが破壊されてしまい、最終的にはブルーダスト・ハリケーンの餌食になってしまう。
「私のブルーダスト・ハリケーンは全力を出して繰り出した。まさか、天須さんの祈りでここまで防ぎきれるなんて……」
柳先生は悔しがってるかもしれないが、菜瑠美がいなければ俺は最悪死もあった程、ブルーダスト・ハリケーンは強烈な一撃だった。
それにしても、菜瑠美はただ単に祈りをしただけかと俺は思っていた。ここまでブルーダスト・ハリケーンを防いだことと、俺をなんとしても守ってくれたことは今でも信じられない。
「その分の代償はあるわね、でもここで倒れるつもりはないわ」
柳先生は左手で右肩を抱えており、息もついていた。こんな大技を使えば、体力もそれほど残ってないだろう。
一旦後方へと下がっていったが、まだ大和田さんが前に立ちふさがっている。柳先生をここで倒せば勝利は見えてくるのに……。
「柳先生に攻撃を与えるためにも、俺はなんとしても立ち上がらないといけない……ん?」
地面に両手を付いていた俺は、柳先生と大和田さんに再び戦う姿勢を見せたいために立ち上がった。強烈な一撃を受けたのに、まだ戦える気力があるのは菜瑠美が祈りをしてくれたおかげだな。
しかし、前にいた菜瑠美がややふらつきはじめた。祈っただけではさすがにきつかったのか? だが、菜瑠美は突然後ろにいた俺に向けて倒れそうになる。
「きゃっ」
「ぶぶっ!?」
なんらかの偶然なのか幸運なのか、倒れこんだ菜瑠美の尻が俺の顔に当たってしまう。しかも、戦闘服の後ろ姿から見える綺麗な生尻だ。
手合わせ中なのに、とんでもない一時を味わってしまったな。これは、ある意味で仲間に攻撃された気分だ。
「ごめんなさいつかさ、こんな時に……大丈夫ですか?」
「あ、ああ……まだ戦える。菜瑠美ももう少し頑張ってくれ」
「はい……つかさのためにも、最後まで全力を尽くします」
本当だったらここで倒れたいのに、ラッキースケベなんかで俺が戦闘不能になったらお笑いものだ。しかも、どちらかが戦闘不能になった時点で負けなルールの中でな。
「まだ君達は戦えるみたいだな」
俺と菜瑠美がぐだぐだしてる間に、大和田さんがこっちに向かってくる。俺は菜瑠美が祈ってくれたおかげでまだ戦えるが、さっきまで少しふらついていた菜瑠美の体力が心配だ。
「君達はよく頑張った。俺達のチームに必要不可欠な存在であることは認めるが、実際は俺とたかこおばさんの方が上だということをこの技で証明しよう」
この4人の中で大和田さんはまだ体力に余裕があるし、次に出す大和田さんの自信満々な技を受けたらその時点で負けてしまう。
それに、俺でなく体力の消耗が激しい菜瑠美を狙う可能性もある。今度は俺が菜瑠美をここで守れなかったら、それこそ恋人失格だ。
ここは、菜瑠美が考えた作戦のアレに賭けるしかないか。問題なのは、今の菜瑠美の状態だ。
「この技で最高の手合わせを終わらせよう! クエイク・スプラッシュを受けるがいい!」
大和田さんは両手で地面を叩きつけた。そこから下から上に噴水のようなものが吹き出した。
いかにも、力がこもった大技だ。攻撃技だけでなく、壁技としても使えそうだな。こんな技を持っているとなれば、どうしたらいいんだ。
「今はどんな技かを披露したが、次は本気で君達に当てに行くぞ!」
今度は全力で俺と菜瑠美に狙いを定め、再び両手で地面に叩きつけてクエイク・スプラッシュが襲いかかる。
「つかさ……手を繋ぎましょ」
「菜瑠美……ああ」
菜瑠美の提案により、最終手段として考えていた光と闇の結界をここで使おうとした。
よく考えたら、柳先生のブルーダスト・ハリケーンを出した時にでも手を繋いでもよかった気はするが、あの時は急な展開だったし、突然菜瑠美がやって来たからな。
「令くんと菜瑠美ちゃんが手を繋いだところで、俺のクエイク・スプラッシュは防げないぞ! くらうがいい!」
今回のルールはどちらかを戦闘不能にすれば勝ちだが、柳先生も大和田さんも2人同時に戦闘不能を狙っていた。
どうせなら、俺と菜瑠美の方からも2人まとめて戦闘不能にしてやる。俺からすれば、気分爽快かつ大きな達成感が得られる。
「行きますよ、大和田先輩!」
「これが俺の光と」
「私の闇です!」
ここで大和田さんのクエイク・スプラッシュに撃ち勝つ方法、それは俺の激しい光と菜瑠美の優しい闇を合わせた光と闇の結界だ──
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