3-6話 お弁当

 ──菜瑠美から、予想もしないサプライズが待ち受けていた。


「菜瑠美、空いてるから座っていいよ」

「私を気遣ってありがとう……つかさ。では、座ります」


 新八柱駅に移動している間、電車の座席が空いていたので、俺はそのまま立ち続け、菜瑠美には座らせた。

 とにかく菜瑠美は、痴漢に遭われそうな体と胸をしているしな。座っておいた方が安全だ。

 いくら俺がいても、平気でやってくる奴も中にはいる。今、電車内が混雑してなくて助かったぜ。

 電車に乗っているから、なるべく私語はやめておくか。菜瑠美を見ているだけでも、今の俺は満足だ。

 


◆◇



 俺と菜瑠美は、新八柱駅に到着した。またここから歩いて、21世紀の森と広場へと向かった。

 今日の菜瑠美を見て、1つ気にかかるものがある。初めて俺の前に見せた紫色の綺麗な指輪だ。


「その綺麗な指輪、とても似合ってるし……気になるな」

「そう言ってくださって、ありがとう。この指輪は……高校の入学祝いに、雷太爺から貰いました」


 どうやら雷太さんからの貰い物のようだ。ただ、菜瑠美の瞳色と一致しているし、『闇の力』とも何か関係があるものではないのかと、俺は思った。


「この指輪もまた、今の私における大切なものの1つです。あなたが今、所持しているペンダントと同じく、学校での持ち込みは禁止されているので、今日あなたに初めて見せました」


 俺が所持するペンダントと菜瑠美が所持する指輪、この2つには何か特別な意味を持っているのか?

 指輪もペンダント同様、値打が付きそうだし、虹髑髏も欲しそうなものだな。


「そろそろ着きそうだ」

「どんな所か……楽しみです」 


 菜瑠美の指輪のことばかり考えていたら、森のホール21が手前にあった。ホールがそこにあることは、目的地はもうすぐだ。


「階段を降りれば広場だ」

「このあたりも……良い場所ですね」


 中央口の階段から向かった先には、広々とした21世紀の森と広場であった

 日曜日だけあって、大勢人がいるな。中にはコスプレをして、広場に駆けつけている人もいる。

 

「いい場所ですねつかさ……」

「ああ、遠出しておいて正解だったな」


 写真だけでしか見なかったこともあってか、本当に広い場所だ。広場を先に探検したい気分だが、今日は目的か違うからお預けだな。

 

「さてと、特訓するか」

「つかさ……くれぐれも、『力』を使うときは他の誰かに見られてることは忘れないでください」


 確かにそうだな、人間がそう簡単に手から輝くものや邪悪なものは出せないしな。人が少なくなった時に、『力』を出してみるか。

 まずは体慣らしが先だな。まだ菜瑠美に対してアクロバットなことはしてないし、中学時代に熱中したパルクールを少し見せつけるか。


「あらよっ、こんなの俺には朝飯前だ」


 俺は壁に向かって走りだし、バク宙返りを何度も繰り返し続けた。

 ただワンパターンにはしたくないから、ひるがえる時のポーズは変えておくか。


「こんな感じだな」

「つかさは軽快な動きが出来て羨ましい……私には難しいです」

「菜瑠美だってできるさ」


 菜瑠美にもいつかは出来ると俺は励ましたけど、菜瑠美は自慢の胸を見ながら厳しいと主張した。


「今は感覚だけだが、とりあえずやっておくか」


 次は閃光球体フラッシュスフィア雷光十字ライトニングクロスの動作だな。この2つも重要な技だし、しっかり磨いとくか。

 敵は虹髑髏だけではない。世界には俺の知らない能力者がまだいるし、1日だけで強くなろうだなんて思わないが、とにかく俺は強くなりたいんだ。


「私も……特訓しないといけませんね」

「菜瑠美。この場所まで来たんだから、髪型もいつもの長髪にして、マスクと帽子を外してもいいんじゃないか?」

「そうですね。普段通りのままだと、動きやすいですし」


 菜瑠美も立ち上がり、変装していたものを全て取り、今日俺に初めて素顔を見せた。

 初めて会った時に使っていた闇の球体や、闇の糸ダークストリングを動作だけで練習しているな。特に闇の糸は、絡まれたら相当厄介なことになるからな。

 菜瑠美は自分の身を守る為に、強くなりたいんだよな。



◇◆



 特訓開始から1時間以上が過ぎ、気付けば昼を迎えていた。特訓を一旦中断して、昼飯にするか。


「菜瑠美。そろそろお昼にしたいのだが、菜瑠美はどうする?」


 俺は食べ物を持ってきてない為、パークセンターの中にあるカフェテラスで昼飯にしようとした。菜瑠美は何か持ってきてるのだろうか?


「つかさ……実は私、今日あなたの為に……お弁当を持ってきました」

「菜瑠美が作った弁当だと!?」

「はい……昨日の夜、一生懸命つかさの為に作りました。昨日、私をつかさの家に泊めたお礼も込めてます」


 驚いたことに、菜瑠美が手作り弁当を持ってきていた。昨日言ってた、菜瑠美からのお礼が弁当だったとは意外だな。


「本当か? 食べてみたい」

「そう言ってくれて……嬉しい……つかさ」


 これで食費も浮くから、カフェテラスには行かずに菜瑠美が作った弁当をいただくか。

 今閉まったばかりのレジャーシートを、また引くとは。先に弁当を持ってきたと言えばよかったのに。

 なんだか、すごくわくわくするな。何せ、菜瑠美が作った自慢の弁当だからな。


「弁当、開けていいか?」

「はい」


 中身を開けたら、ケチャップにつかさと書いてあったオムライス弁当だった。これは愛情こもっていそうだし、美味しそうだ。


「何を作ろうか迷った所、つかさの所持する『光の力』のことを考えて、黄色い食べ物のオムライスにしました。これを、あなたの持つ光だと思って食べてください」

「へぇー、新しい発想だね。では、いただきます」


 発想が斬新だな。確かにオムライスは黄色いから、俺の光だと思って作ったのか。

 俺から見たら、なんかオムライスが光輝く見えてしまいそうだ。では、遠慮なく食べさせてもらうか。


「つかさ……食べる前に、私からのお願い聞いてくれます……」

「お願い?」


 俺はすぐさま弁当食べたいから、はやく言ってほしいな。何を言い出すんだろう。


「オムライスの一口……私のスプーンで、つかさにあーんしていい?」

「なんだとっ!?」


 確かに、デートではよくある展開だけどさ、俺達はあくまでも今日は特訓が目的なんだぞ。

 菜瑠美も顔がまた赤くなってるし、何やら嬉しそうな感じをしている。

 俺はまだ菜瑠美が作った味に関しては未知数だが、そんな自分の作った弁当に自信があるのか?


「わかった、いいだろう」

「では……いきますよ」


 菜瑠美のあどけない顔を見ながら、俺は大きく口を開いた。

 菜瑠美は、ケチャップに書いてあるつかさの『つ』の文字が入ったオムライスの一口で、俺の口に食べさせようとしている。


「つかさ……あーん」


 俺は、菜瑠美にあーんされたオムライスを口に入れた。菜瑠美の料理の腕は、どれ程なのかわかる瞬間だ。

 卵の味はというと、すごくふわふわしてやわらかい。これは、俺の口に合うぞ。

 ケチャップの文字も、しっかり書かれてただけあって、卵と同じ感覚で味わえる。

 

「どうですか……味は?」

「うん、美味しい! この味なら何度もまた食べたい」

「よかった……つかさの口にあって」


 菜瑠美の手作りオムライスは、とても美味しかった。いつかは、他の手料理も食べてみたいところだ。

 容姿端麗・頭脳明晰に加えて料理堪能でもあるなんて、菜瑠美は運動神経と性的な本性を除けば完璧だな。


「よし! 美味しい弁当も戴いたし、午後の特訓も頑張るか」


 これで、『光の力』の特訓に対するモチベーションが上昇した。今日は既存技の強化だけでなく、新技も編み出してやる──

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