1-12話 藍のハイト

 ──激突する光と氷、俺は氷より長く生き残らなければならない。


 菜瑠美を狙う犯罪組織、虹髑髏の幹部の1人・藍のハイト。奴は俺の『光の力』を試したい為に、菜瑠美を自らの氷の罠ではめてから、俺だけとの直接対決を申し込まれた。


「お願い……つかさ……」

「菜瑠美……」


 足が封じ込まれている菜瑠美は今、高らかに祈る事だけで精一杯だ。確かに、両手だけで『闇の力』は使える。けれど、タイマン勝負を好むハイトの前では、菜瑠美が手を出してきたら、間違いなくすぐに始末される。


「俺は、そこでじっとしてることしかできない菜瑠美の為にも、ここでお前を倒さないといけないんだ!」

「信頼する天須菜瑠美の為か……俺も"七色"の一員にして、組織から伝授された氷の能力、『STYLEスタイル-Oオー』の継承者だ。影地令、今ここでお前を氷漬けにする」


 ハイトにも負けられない理由があるというのも、俺と同じだ。その『STYLE-O』とかいう悪しき氷がどんなものか知らんが、『光の力』で捩じ伏せてやる。

 

「では俺からいかせてもらうぞ、んぬぅううう!」


 雄叫びをあげ、ドラムスティックを使用した氷技を主軸とするハイトは、霰のようなものを振り回し、俺の体に当てようとした。威力も高くはなさそうだし、ハイトの奴はまず小手調べでもする気か?


「そんなものばらまいて、俺に当たるとでも思うのか?」


 俺はハイトと菜瑠美に、少しでも俺が、すごい所を披露したかった為か、前方宙返りからの捻りで霰をかわすし、ハイトの目の前へと向かった。


「なかなか、軽快な動きをするな影地令」

「お前の強さはこんなものじゃないだろ、次は俺の番だ!」


 相手が強敵であろうと、俺は今正念場だ。いきなり閃光球体を使って、すぐに勝負を決めてやる。俺は右手を出す構えに入った。


「隊長であるお前にも、喰らわせてやる。閃光球体!」


 閃光球体は今の俺にとっては、自信のある技だ。さっきの奴らに近い手段を取り、まずはスティックに当てに入れるか」


「その技にも隙があるな」

「なにっ? ぐはっ」


 ハイトは一旦、スティックを左手だけに所持した状態になった。そして残りの右手で、無防備の俺の左手を掴まれ、俺を地面に叩き潰されてしまう。


「ただ単に、ファルとデーバがやられてる姿を見ていたとでも思ったか。影地令!」

「くそっ、『力』を使われる前に……」

「つかさ!」


 横向けに倒れてしまった俺は、直ぐ様立ち上がろうとする。しかしハイトが、空気椅子にでも座ったような体制で、俺の頭の前に現れた。一体何をするんだ?


「ふふっ、影地令。まさか今の寝そべったお前が、俺の足腰の練習になるとはな!」


 ハイトはまるで、バスドラムに例えたみたいに、何度も俺の下半身を踏みつてきた。勝手に俺のことをドラムセットに例えやがって……なんだと思ってるんだ。

 ちくしょう、俺は『光の力』が使えないままで敗れてしまうのかよ。


「ここまでにしておこう。立てるか、影地令?」


 さすがに虹髑髏の幹部だけあって、ハイトはファルやデーバよりも格段に戦闘能力は上だ。実力は認めてやる。


「ハイト……俺がやられる前に、お前に1つ聞きたいことがある」

「虹髑髏の内部情報以外ならな」


 ハイトはさっき、俺に対して立てるかと差し伸べた時に、何か疑問視する所が見つかった。何度も踏まれ続けてた時も、そこまで強く踏んではいなかった。

 俺が降参しようと思わせてから、ハイトに質問をぶつけた。


「お前は確かに強いし、ドラム演奏も見るからに上手そうだ。でも何故お前のような、正々堂々として戦う奴が、虹髑髏とかいう組織に入ったんだ?」


 犯罪組織の幹部相手に、俺は何を言っているんだ? こんな重要なことを、簡単に喋る訳ないだろ。やっぱり疲れているんだな俺は。


「虹髑髏以外に、生きる場所がなかったからだ」


 案外素直に答えてきたが、生きる場所がない……他にも安全な場所なんて沢山あるだろ。何故、虹髑髏を選んだんだ?


「俺は元々、友人達と地下バンドでドラムをやっていた。だがある日のライブ中、酔っていた観客が、俺の所属したバンドと暴力事件を起こしてしまい、俺も巻き添えとなり、バンド活動は無期限活動休止になってしまう」

「悪い奴らに仕えてるお前に、そんな過去があったとはな」

「音楽の道を失い、無職同然となった俺だったが、救いの手を差し伸べたのが虹髑髏だった。その時は、俺の潜在能力を見込まれてのスカウトだったが、今の俺は、虹髑髏の幹部という立場に何の不服もない」


 なんだよそれ。別の意味として捉えるなら、虹髑髏が犯罪組織であることを知らなかったハイトは、利用されてのスカウトになるじゃないか? 

 でも今のハイトは、菜瑠美を狙う組織に属しているんだ。話は聞いてもらっても、お前を許さない気持ちに変わりはないぜ。


「話はその辺にしておこう。念のために、これを出しておくか」


 ハイトのスティックから、分厚い氷の壁を出してきた。これで攻めることだけでなく、守ることも完璧となったか。


「俺は攻めだけでなく、守りをできることもお前に教えてやろう。俺はこの壁を、冷凍壁フローズンウォールと呼んでいる」


 ハイトは今攻撃と防御共に、万能な状態だ。俺は奴にどうやって近づけばいい?

 頼みの『光の力』が使えているのは、今右手だけだ。菜瑠美は朝の時に、両手でも使えてたということは、俺も左手に宿っているはずだが、左手が輝いている気配が感じていない。

 その前にハイトの補助技である、冷凍壁をどうにかしなければな。もやもや考えてたら、またハイトが接近戦を仕掛けてくる。


「影地令、今の俺は攻めも守りも完璧だ。その程度で実力であるなら、そこでじっとしている天須菜瑠美も、失望しているだろう」

「うっ……」

「に、虹髑髏なんかに俺は……」


 俺はもう体力の限界に等しい。確かにハイトを止められるのは、今の俺としても無理そのものだ。

 肝心の菜瑠美だって、もう俺がやられると思って、見てられない状況となっている。顔も菜瑠美の長い髪の中に、隠れていた。

 でもよ、菜瑠美の名前を出されちゃ、そういう訳にはいかないんだよ。お前らが菜瑠美を狙うせいで、俺は今日の朝までは一切無関係の存在から、菜瑠美に認められた男になったんだ。俺はもう、この両手に掛けるしかない。


「これで勝負を着けさせてもらうぞ、影地令!」

「俺はまだ、負けを認めたつもりはない」


 俺は右手に輝いていた『光の力』を、左手にも移させて無理矢理輝かせた。そして両手に輝く『光の力』で俺は、手を十字の構えに入り、ハイトの冷凍壁を壊しにかかろうとした。


「つかさの左手にも光が……そして両手に合わせて、一体何をするのですか」

「見ててくれ菜瑠美。俺は今、第2の光の奥義で、ハイトを倒す」


 こんな大ピンチな場面で、俺は閃光球体に続く、2つ目の『光の力』を使った技で、ハイトにぶつけようとした。

 これならハイトの冷凍壁を、光で壊せることであると俺は確信した。とても簡単にできるものではないかもしれないが、俺はただ虹髑髏を許さないハートだけで、冷凍壁を壊すことが可能なことを。


「ほう、その光で俺の冷凍壁を壊そうとするのか。面白い、敵ながら褒めてやろう」


 ハイトもまた、冷凍壁が壊れないものだと思って自信満々だったが、両手を輝せた俺を見て、油断できない状態となった。


「いくぞハイト! 今の俺が持てる最大の技を喰らわせてやる、雷光十字ライトニングクロス!」


 俺はとんでもない行動に入った。まだ使ったことすらない新必殺技を、強敵相手に初めて使おうとした。

 今日だけで『光の力』を使った技を、2つも生み出すなんて、力を譲渡してくれた菜瑠美に感謝しかないな。今は俺に祈りを捧げることしかできてないが、これに賭けている。


「つかさ……あなたを信じています」


 見ていてくれ菜瑠美! 俺は藍のハイトを倒してから、今は足を氷で抑えられている君の元へ会いに行く──

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