1-13話(第一章最終話) ただの弱者

 ──俺は、この光の一撃を信じるだけだ。


「ケリをつけるぞハイト!」


 強敵・藍のハイト相手に、俺自身が編み出した『光の力』を使う2つ目の技、雷光十字ライトニングクロスを初見で繰り出した。

 小さい時に俺は、格闘技が好きだった父の影響で、雷光十字の元となるフライング・クロスチョップの真似はしていたが、さすがに暴力ごとなので人前に対してはしていない。

 空中戦はどちらかといえば得意だが、特に呼べる程自信がある訳ではない。ただ昔を思い出して、この技を光と共に信じ、全力でハイトにぶつけた。


「うらぁあああああ! 雷光十字をくらえ!」

「ふふっ、冷凍壁フローズンウォールでこんな光は……なっ! なんて威力だ……」


 本当に光が氷を打ち砕いたのか? 初めての雷光十字でこの成果は、合格点にも程があるぞ。


「まさか……影地令に、ここまでに強い光があるとは」

「今日この『力』が受け渡ったのだから、まだわからないさ。俺の雷光十字で、お前に受けた光がな」


 こんな未知数の技をいきなりやって成功するなんて、俺はギャンブラーかよ。まあこの一撃だけで、既にクタクタだがな。

 もう1つ、自信が持てる根拠があったのは、『光の力』と共に菜瑠美に渡されたペンダントだ。何かの錯覚かもしれないが、ペンダントに俺にしか見えない何かの輝きが見えたからだ。


「これで俺の優勢だな! 今度こそお前に、こいつを受けさせてやる」


 冷凍壁が壊れ、ハイトには隙ができていた。俺はハイトに、閉めの閃光球体フラッシュスフィアで決着を着けようとした。


「残念ながら、こちらにも切り札があってな」

「なにっ?」


 ハイトにも切り札が存在してたか。さすがの虹髑髏第6部隊長だけあってか、とっておきなものが用意してあったか。


「ここまで俺を本気にさせたんだ。見せてやろう、俺の奥義技! パラディドル・アバランチ」


 ハイトは袖に隠し持っていたスティックを使い、エアドラムで叩きつつ、雪崩のような激しい斜面で俺に襲いかかってくる。

 なんだよこの勢いのある雪崩は。寒さに加えて、本当に今俺が雪山で遭難してるかのような感じだ。


「くそっ、最後の最後で俺は……」

「勝負あったな、影地令」

「つかさ! 立って……」


 またしても閃光球体を使えず、俺はハイトの奥義技をくらい、再び横向けに倒れてしまう。もう俺は限界だ、折角勝利を確信したのに。

 するとハイトが、スティックで俺の首に触れようとした。なんとか動ける体であるが、首に刺されて俺は始末されるのか。


「ハイト、俺の負けだよ……」

「いやぁあああああ、つかさ……」


 俺は負けを認めて、死を確信した。すまない菜瑠美、俺は1日だけの『光の力』の継承者だったようだ。キスまでされたのに……。

 俺の不甲斐ない顔を見たハイトは、突然スティックをしまった。もしかして命拾いしたのか?


「とどめを……刺さないのか?」

「今日はあくまでも、影地令と天須菜瑠美の接触を図ったことと、影地令の『力』を試しにきただけだ。それに、殺しは俺の趣味じゃない」


 犯罪組織の幹部が、水くさい発言するなよ。でもここで殺されなかっただけでも、俺としては天と地ほどの違いがある。


「影地令、お前は間違いなく、令和を代表する能力者になるだろう。次お前と会った時は、今日のケリは着ける」

「おい待てよハイト!」

「あと、俺は有言実行させてもらったぞ。影地令」


 ハイトはコートのポケットから、霧のようなものを散らばりはじめ、その場から離れて行方を眩ました。

 かなりの強敵だった……ハイト以外にも、同レベルの幹部級が、他にも6人いるんだろ。こんなの、俺がより『光の力』を扱えないと、太刀打ちなんて不可能だ。

 

「藍のハイト……次は必ず、お前に打ち勝つ」


 ハイトが消えた途端、菜瑠美に張り付いていた氷が溶けはじめ、身動きが出来る状態となった。

 敵だからか、俺はハイトを信用していなかった。でもハイトの公言通り、菜瑠美には一切手を出さなかった。ハイトって、意外と紳士的なんだな


「大丈夫、つかさ?」

「ああ……なんとかな。あと俺は、もう今日は限界のようだ……」


 菜瑠美は俺の元へと向かい、しゃがみながら泣き崩れた。その上に、菜瑠美の涙が俺の顔に当たっていた。

 恥ずかしいな俺、出逢って最初の日なのに、菜瑠美を泣かせちゃったよ。


「つかさ……初めて使う『光の力』で、ハイトと互角に争えるとは思いませんでした」

「互角……違うな、今のは全ての場面で俺の劣性だ」


 菜瑠美は互角と思っていても、俺は全く思わない。それに、ハイトは一切疲れを見せていなかった。下手したら首切りされる所でもあったし、明らかにハイトの方が格上としか考えられない。

 どう足掻いたって今のは、俺のボロ負けだ。まだ『光の力』が扱えてない証ともいえる。

 菜瑠美からこの『力』を託されたというのに、他の能力者に敗れるなんて、にしか過ぎないんだよ。


「俺は……もっと強くなりたい! 『光の力』を使いこなせて、虹髑髏を懲らしめてやりたいんだ」

「その気持ちは、『闇の力』を持つ私にもわかります……でも、今のあなたには休息が必要、明日からまた学校でしょ……」


 菜瑠美の言うとおりだな。今の俺は、もう歩くことで精一杯だ。明日からまた学校だし、今日はゆっくりするしかないか。



◇◆◇



「今日は、私の家に泊まっていいわつかさ……」

「ありがとう、菜瑠美」


 海浜幕張駅まで向かいながらも、再び俺は菜瑠美の家にお邪魔していた。

 あろうことか、今日出逢った同級生で、しかも別クラスの女子の家に一泊するなんて、学校の人達は誰も信じないだろう。

 その上に、雷太さんが昔着ていたパジャマを、俺に貸出しするなんてな、さすがに汚れてしまった制服のままじゃ無理があるだろう。


「今日は色々ありすぎて、1人でいたい気分なんだ」

「わかりました。私の隣の部屋が今空いてるから、そこでゆっくり休んでください……」


 菜瑠美は、俺を見て少し照れていた。本当は2人でいたいと思ってるかもしれないが、そんなの俺からお断りだ。

 確かに機会があれば、一緒の部屋で1日過ごしていいかもしれない。でもいきなり共にベッドで寝るなんて、さすがの俺にも抵抗がありすぎる。


「また明日な、菜瑠美」

「おやすみなさい……つかさ」


 菜瑠美との別れの挨拶を終えた俺は、菜瑠美から借りた隣の部屋に移り、直ぐ様ベッドに寝そべって考え事をしていた。


 今日はとても長かった。この1日だけで、数多くの何かを手にいれた。

 本当だったら部活にも入らない、ごく普通の帰宅部として過ごすはずだった。それが、虹髑髏とかいう犯罪組織に追われる運命となった。

 虹髑髏は恐ろしい連中だ。奴らの目的は、俺と菜瑠美の持つ互いの『力』以外にも、何かあるはずだ。

 少し気になったのが、ハイトが立ち去る時に、俺のことを『令和を代表する能力者になる』と言ったのが。

 もしかして虹髑髏は、令和の日本を変えるのが目的なのか? そうなれば、令の名前を持つ俺が許さないがな。


 海神中央高校に関しても、生活指導兼担任の柳たかこ先生に、入学式から目を付けられてしまったが、悪い先生ではなさそう。

 意外な出来事だったのが、旧友の増尾カズキと高校で再会したことだ。カズキ以外にも、川間絵美さんという個性的なクラスメイトとも知り合った。

 しかし俺は挨拶もできずに、2人と別れていった。カズキは不満げなさそうだったが、川間さんは不服であった。


 そして最も重要なのは、天須菜瑠美の存在だ。彼女のキスで『光の力』が譲渡されたことによって、俺の高校生活が180度も変わった。


 最初はただ単に、推定Hカップ以上を持つ巨乳ばかりに目が入り、初日だけにも関わらず、校内一の美少女と称された程の容姿端麗でもあった。

 その菜瑠美と俺は入学式前、虹髑髏に追われていた所で、運命的な出逢いをして、今回のような出来事が起きた。

 菜瑠美に関してはまだまだ謎な所が多く、所有する『闇の力』にしては、禁断の能力であると雷太さんから言われている。

 俺自身だって、実物は僅かしか見たことがなく、『闇の力』の能力者として、どれ程の実力なのかは今の俺には興味深い。


 菜瑠美から、肝心の力が受け渡った『光の力』も、まだ未知数なものだと思ってる。

 今日だけで、閃光球体・雷光十字という自ら生み出した2つの技も習得した。だが、虹髑髏に対抗するには、より多くの技を得ないといけないし、今持ってる技も更に磨かないと虹髑髏には勝てない。

 同じく、菜瑠美の母親の形見とされるこのペンダントもな。どうやら『光の力』と連動してるらしいが、これも詳しいことはわかっていない。


 令和が始まるなんかよりも、明日からもまた新たな運命に遭遇するかもしれない。正直言って、明日が既に怖い。

 今日の1番の重大な出来事を挙げるとしたら、これしかないだろう。天須菜瑠美、君にキスされて『光の力』を手に入れたことだ──




 第一章・4月9日の邂逅 完

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