1-5話 旧友と再会・入学式
──日本って意外と狭いんだな。
「君、もしかして影地令なのか?」
教室を開けようとした時、1人の生徒がフルネームで俺に声を掛けてきた。後ろを振り返れば、かつて共に過ごした懐かしき顔であった。
「まさかあんたはカズキなのか、4年振りだな!」
「また君と会えるなんて信じられないよ! まさか4年後に同じ制服着られるとはね」
若干細めな体型をした彼の名前は
しかし、カズキが小学6年生の時に、家族の都合上関東に引っ越すことになってしまう。当時は小学生だったため、お互いスマホも所持してなかったから連絡先も知らなかった。
もう二度と会えないものだと思ってたが、まさか同じ海神中央高校の生徒として旧友と再会するとは。こうカズキとまた話せるなんて天にも昇る気持ちだ。
「そういえば君、いつのまにか瞳の色が金色に染まったんだ?」
「えっ、瞳か? これは中学校の時に理由あって、赤色から変わったんだよ」
さすがに今日瞳色が変わったなんて誰にも言えないよな、しかもこの学校の中にいる人間によってな。
なんだろうか、さっきまでは菜瑠美と別クラスで残念がってたはずが、1人でもクラス内に話せる人物がいたのは今の俺にとってはかなり大きいだろう。
カズキとの再会を経た俺は共に教室へと入り、前列の席へと座った。もしカズキがいなければ、新しい教室の良い空気を吸えなかったかもしれない。
他のクラスメイト達は新しい友達を作っている中で、俺は今カズキといるだけで十分だ。まあ教室に入る前は、友達を作らずに菜瑠美と共にいたかったことしか考えない気でいたしな。
「なあ令。せっかく久しぶりに会ったことだし、今すごくいい話があるんだ、是非聞いてほしい」
「高校生活が始まったのに何かいいことでもあったのか?」
カズキが俺にとっておきの話があるみたいだ。まあ入学式開始まで時間はあるし、折角だから聞くことにした。
「他の男子もさっきから話題の持ちきりになってるんだが、今年の新入生に何組かは知らないけど滅茶苦茶可愛い女子がいたんだ」
滅茶苦茶可愛い女子なんて個人差の範囲だし、それだけじゃ特定はできないがまさかな……。
「ふーん、特徴は?」
「髪型はロングヘアで髪色は薄い水色、さらにはすごく胸の大きい女子なんだ」
「は?」
「令、興味沸かないか?」
カズキに特徴を聞いたら水色の長い髪でかなりの巨乳……間違いなく菜瑠美のことだ。思わず即反応してしまった。
既に校内でも話題の人物だったか、いくら旧友のカズキの前でも菜瑠美について知らないふりしないとな。
「どうしたんだ令? 少し顔が赤いぞ」
菜瑠美だとわかったせいで、顔が表に出てしまった、さすがに赤く隠せるのは厳しかったか。
「えっ、そうか? それに俺さっき学校に着いたばかりだから、校内の女子にどんな人がいるかまだ把握できてないんだ」
「入学式の時にも注目になると思うぜ、何せ巨乳・美脚・童顔の三拍子揃った完璧美少女だ。僕もあんな容姿端麗な女子と付き合ってみたいな、いっそ彼女のネクタイになりたいくらいだ」
「カズキ……あんたそりゃ夢を見すぎじゃないのか?」
相変わらずカズキは昔から女に対する妄想が凄まじいが、カズキも俺と同じ菜瑠美の第一印象持ってたか。
カズキの話しによると、他の男子達も菜瑠美を狙っているような感じはする。特に、菜瑠美と同じクラスの男子が積極的に来るだろう。どうやら旨く菜瑠美と会えそうにもない気がするな。
「あたっ」
「カズキ、あんたまた美少女の話してるの? ここにも美少女がいるでしょうが」
肥満体で緑色のカチューシャを付けた自称美少女のクラスメイトが、不満げそうな顔をして自らの鞄でカズキの頭を叩いた。
「話を聞いてたのかよ絵美? 教室内で暴力はまずいって」
「何よ! 勝手にワタシの席座っておいて、そこどきなさい」
「仕方ない、僕は立つか」
カズキは絵美と名の女子の席から離れて、俺の隣へと移動していった。
「あらキミは確かワタシの前の席である……結構いい男じゃん。私は
出席番号が俺の次で、後ろに座る彼女の名前は川間絵美。カズキの中学校からの同級生で、長らく腐れ縁のような関係だ。
川間さんは初対面で俺のことをいい男と言われたが、そこまでイケメンなのか俺は? まあ、ただのおちょくりかもしれないし。
「ああ、こいつは影地令だ。僕が四国にいた頃の友達さ、いい奴だから仲良くしてくれよ」
「カズキ、折角の機会だから俺の方から紹介してくれよ」
「かげちつかさね……キミは確か令和の『令』と書いて『つかさ』と読むんだよね、新時代に相応しい名前してるわ」
「まあカズキの友達であるのなら、俺ともこれからも頼むよ川間さん」
「影地くん、こちらこそよ」
カズキの方から、俺のことを川間さんに紹介してくれた。まさか令という名前であることを初めて誉められたか、これが新元号が令和である恩義なのか?
「令、あまり絵美を怒らせちゃだめだぞ。外見は太ってるけど、見た目によらず俊足の持ち主だから、追いかけられたら滅多撃ちにされるぜ」
「太ってるとはどういうことよカズキー! あんた高校生になってもまたワタシにしばかれたいの!」
「ひぃーっっ、ごめんなさーい!」
川間さんは随分と個性的で見るからに元気ありそうな女子だし、菜瑠美とは別の女友達と見て良さそうだ。
クラスにいる間は、余程のことがない限りカズキや川間さんと共にいるだろう。この2人とは良いクラスメイトとして信頼を得たい。
◇◆◇
入学式が始まった、俺は菜瑠美が何組にいることだけを今気にかけていた。
4組の一同が座る前に、前に座っていた1組から3組の生徒を後ろ姿だけで眺めたら、菜瑠美のような薄い水色で腰まで届いている長い髪のような女子はいない、つまり5組以降か。
ずっと新入生達を後ろ姿で見るのもあれだが、気になって仕方ない。5組、続けて6組にも菜瑠美の姿が見当たらない。最後の7組か?
「おい見ろよ新入生の7組の一番前に入場する女子、話題な子かな? 可憐な容姿に加えてやたらと胸でかくないか?」
「本当だな、まるでトップモデルが新入生にいるみたいだ」
7組の新入生が入場した瞬間、新入生の後ろに座る在校生達がざわつき、とにかく揺れまくる大きな胸に興味深々であった。
大事な入学式であるにもかかわらず、もの悲しい顔をした先頭に入場する菜瑠美の姿が全校生徒の注目の的となる。
新入生達も菜瑠美の姿を見たいが為に、体を後ろに曲げた男子が数多くいた。
「……」
「……気付いたのか?」
仕方ないから俺も菜瑠美の方向を見たがその瞬間、菜瑠美は遠くに離れた俺を見つめて、頷き始めた。これは本当に俺に対して頷いた合図なのか? それとも頷きはただの偶然なのか?
「あれがカズキも言ってた例の可愛い子ね、まさか影地くんもあの子の方向見てたし実物を見て興味が出たの?」
「え……き、興味ないな」
今はチラッと顔を見るだけにしよう。他クラスの生徒ガン見なんてしてたら、隣の川間さんに言われそうだし、周りの生徒にも怪しく見られるだろう。
これで菜瑠美を注目する男子が、同級生だけでなく全校生徒に拡大された訳か。本当入学式前に出会ったのが奇跡みたいなものだ。
「ねぇ影地くん? キミの手なんかさっきから輝いている気がしてるんだけど、気のせい?」
「き、気のせいだって。人間がそんな手が輝けるものじゃないと思う」
川間さんの指摘で思わずバレそうになったが、なんとかセーフだ。まあ今は思った以上に強い感じで輝いてはない。
こんな大事な式典の時に、手が大きく輝き出すなんて勘弁してほしい。この未知なる『力』が拡散なんかしたら、学校の大問題になってしまう。
菜瑠美が7組にいることがわかったし、今は入学式が終わるまで何も考えずに、校長や教員の長話を聞くことにしようか──
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