24.女騎士と女奴隷と海④
○海の家
「じゃあとりあえずー、生以外の人いる?」
「「オメーだよ!!!」」
俺と渚はヘラヘラ顔でそう訊いてきた
時刻はもう昼前。腹も減ってきたということで、近場にあるこの海の家にやってきた。
ピークタイム真っ只中とあってずいぶん時間を要したが、なんとか注文までこぎつけた。
ビーチがよく見えるテラス席。かもめの鳴き声やさざなみの音、青い空と海を堪能しながら食事できるなかなかの位置だった。
総スカンを食らった店長は露骨に嫌そうな表情を浮かべ、
「なんでよぉ、海と言ったらビールでしょ」
「あんた、ここに何で来てるかお忘れ?」
「車のこと? いーじゃん。ちゃんと酔い冷ましてから帰るって」
「「ダメ!」」
頑として禁止し続ける俺達に、箱根さんはガラにもなくしょげる。
「えー、だったらナギちゃん運転してってよぉ。免許持ってんでしょ?」
「あたしが? はっ、店長……あたしの事故率知っててそんな事言うんですか?」
「どんぐらいよ?」
「驚くなかれ。愛知県が――」
「バイト君免許持ってる?」
言いかけたところで全てを悟ったのか、こっちに振ってきた。俺は肩を竦めて「持ってないっす」とだけ答える。
退路を断たれた彼はとうとう脱力してテーブルに突っ伏した。
「嘘だろぉー。せっかくの海なのにビールなしって……。こんなの種のないスイカと一緒じゃないか!」
食べやすいな。
「ここは喫茶店とは違って、ずいぶん騒がしいところだな……」
「はい……。よほど人気なのでしょうか」
するとリファとクローラが店内を見渡しながら感想をつぶやく。こういった飲食店に連れてくるのは今回が初なので、戸惑うのは無理も無いだろう。
「しかし、こういうのを見ると山と同様、この世界の海も完全に観光スポットなのだなと感じるよ」
「今更だけどさ、リファっちは海って来たことあるの?」
「ああ。もっとも、そこは海という名の、ただの戦場だったが」
女騎士は頬杖を付きながら小さくそう言った。
何気ない質問で、またホームステイしてる留学生という設定にヒビが入った。本人達に気をつけろよとは言ってあるものの、事あるごとにこうボロを出すから困ったもんである。
「へー。何、ワイヤードって徴兵制でもあんの?」
対する渚もこのように、リファ達のこういった発言は、彼女達が「自分達のことを異世界人だと思い込んでる中二病患者」故だと判断している。なのでそういった点は話半分に聞くか、あるいはそれにあやかってからかって遊んだりする始末。
結果オーライと言えばオーライだけど、なんか釈然としないなぁ。
「ああ。あることにはある。私は志願兵だったが」
「ふーん、じゃあ海で魔物とかと戦ってたんだ」
「魔物もそうだし、海上から他国が攻めてくることも度々あったからな。思い出せるのはそう言った者達と戦ったことのみだ」
「へぇ。クロちゃんは?」
問われたクローラは、グラスに注がれた水をちびちび飲みながら答える。
「いえ、私はそういったところはそもそも連れて行ってもらえませんでしたので」
「えっ、じゃあまさか初めて? 海見るの。海渡ってきたのに?」
「ええまぁ。でも、人から聞いたり、本を読んだりしてどんなものなのかと色々想像はしてました。いい意味で裏切られちゃいましたけど」
照れくさそうに奴隷少女は話した。
海を戦場としか認識してこなかった少女。本物を見たことがなく、想像だけでしか知らなかった少女。
そんな二人が、海を見て思うことは一体何なのだろうか。
ふとそう物思いに耽っていると、店員がオーダーを取りに来た。
「らっしゃーせー。ご注文お伺いしゃーす」
やる気のなさそうな若いバイトがけだるげにそう言った。
すかさず渚が軽く手を上げて早口で注文する。
「とりま生四つ。あとこのおっさんには塩」
「まさかの客除け!? 飲み物すら頼ませてくれないの!?」
「その水に混ぜて飲めば塩分補給になりますよ」
「わざわざ金払って塩水注文するんだったら、海に飛び込むほうがよほどお手軽だよ!」
「「どうぞどうぞどうぞどうぞ」」
「君ら絶対に今度減給してやる……」
恨み言をブツブツ言ってるおっさんはもう放っておいて、俺達はそれぞれの食事を頼むことにした。
「リファ、クローラ。何頼む?」
「ふぇ? え、えっと……うぅ、品名を見てもどんなものなのか想像ができない……」
「い、いっぱいありすぎて……なにがなんだか」
目をぐるぐるさせながら、二人はメニュー表を食い入るように見つめた。
確かに今まで食べたことのあるのもある。だが、カツ丼、ポテトフライ、フランクフルト、唐揚げなど、大部分は異世界人には未経験のものばかりである。迷うのも無理はない
家で作ったりとかしないのか、って? まぁ揚げ物とかは面倒だからしゃーない。
「あっ、リファさん! カレーがありますよカレー!」
「おぉ、本当だな。ではそれにしよう」
もっとも食べ慣れたものを発見した彼女達は揃ってそのカレーに決定した。
俺、渚、箱根さんもそれでいいやということで、全員同じメニューで頼むことに。
しばらく談笑しながら待っていると……。
「おまたせしましたー。カレー5つと生ビール4つ。あと塩でーす」
やってきました。湯気の立つ熱々のカレーライスと、キンキンに冷えてやがる生ビール。あと塩。
これには異世界人も俺達も思わず目を輝かせて感嘆する。
「なんだか……見慣れた料理のはずなのに……いつもより美味しそうに見えますね」
「でしょでしょー! そいじゃ早速乾杯しよっか!」
渚の号令のもと、全員でビールの入ったジョッキと塩水のコップを掲げる。
「えー、それでは! こんな素敵な場所に連れてきてくれた店長に感謝の意を込めて!」
「君らの感謝の意の現れがこの仕打ちだというのなら、流れる涙もさぞ甘酸っぱいだろうなぁ」
「はいかんぱーい!」
四人のジョッキが一斉に爽快な音を立ててぶつかり、それを俺らはグイッと呷った。
そして半分くらい一気に飲んだところで……。
「かぁーーっ!!」
犯罪的だっ……! うますぎるっ……! 染み込んできやがる……体にッ……!
大学生活始めて以降、ビールなんて事あるごとに口にしてきたが、こういうところで飲むとまた格別な味がするぜ。
「ビールか……前に何度か飲んだことがあるが……やはり独特な味がするな」
「ちょっと苦いけど……でもなんだかきゅーってきて美味しいです!」
「でしょぉ! 加えてこの絶景! 美味しさもまた格段に増すってもんよ!」
ほんわかした顔で仲良く語り合うお三方。なんだかんだいって気は合うよなこいつら。
「あんまり飲みすぎるなよ。特にリファとクローラはそんなに強くないんだから」
「う、うむ。わかってる」
「はい。気をつけましゅごひゅじんさま」
早くも呂律が危うくなってる奴がいるがまだ危険区域じゃない。この二人のデッドラインはアルコール度数にもよるけど、中ジョッキで一杯目まで……つまり約500ml。それを超えたら恐ろしいことになる。
まぁ今回はそもそも頼まなければいい話だけど。油断は禁物だ。
「さ、ビールもいいけどカレーも食っちまおうぜ。食べながら飲むと酔いも回りにくくなるらしいし」
「そ、そうれふね。……おや?」
スプーンを取り、カレーに手を付け始めたクローラはすぐにその手を止めた。しかもなぜかプルプルと方を震わせ始める。一体どうしたんだろう。
「ごひゅじん様……これ、具が入ってないれす」
「え? あ、そうだな」
こういうところで出るカレーといえば、具無しがデフォというのはありきたりな話だ。
稀にじゃがいものかけらとか、肉の破片が混入しているところもあるけど、基本はルーのみ。店側の手間を考えれば別に大した問題でもないのだが……。
「度し難いれす……。こんなのカレーじゃありませんっ!」
テーブルに拳を打ちつけて、クローラは悲痛な声で叫んだ。ほろ酔いのせいか、若干気が強くなってるようだ。
「カレーというのは、じゃがいもと人参とタマネギとお肉が入ってこそなんれす。こんな何もかも欠いたカレーなんてカレーじゃないれす! 種のないスイカれすっ!」
君らのいうスイカはスイカバーのことじゃないんか? それなら納得できるんだけど。
文句を言いつつ、クローラがその具無しカレーを睨みつけていると、横のリファが鼻で笑った。
「ふん、見苦しいぞクローラ。むしろ私はこういう素材の味がそのまま楽しめる方がよほど魅力的だと思うがな」
「な、なんでれすかっ!」
食って掛かる女奴隷に、女騎士はカレーをすすりながら飄々と答える。
「カレーというのはルーの味があってこその料理。マスターの作り方にケチを付けるわけではないが、具がゴロゴロ転がっていると、必然的にルーの量が少なくなる。そういうのより、こういう無駄なものを一切廃したものの方が、よほど本来の味が感じられるというものだ」
「そ、そんなの違うと思います! お野菜の旨味とかお肉の食感とか……そういうの全部ひっくるめてカレーなんれす!」
「卑しい奴め。どーせルーだけじゃ腹の足しにもならんから、具が大量に入ってないと食った気にならんだけだろう。そういうことだから前の時みたく太るんだ。食事をする時は量より質を重視することが肝要なのだぞ」
「うぅ、リファさんみたいに肘ついてくちゃくちゃ音を立てながら食べる方に質とか言われたくありません!」
「なっ、なんだとぅ! 最近はそんなにやってないもん!」
「やってますー!」
戦争、また勃発。今度は論争ですか。なら次に始まるのは冷戦か?
たかが具が入ってるか入ってないかで、くだらないことこの上ない。
だけど、そんなくだらないことで大真面目に語ったり主張したり争ったり……。
なんだか……平和だな。
「なんだか平和だねぇ」
すると、俺が今考えていることと全く同じことを箱根さんが言った。
彼はスプーンでカレーをかき混ぜながら、せせら笑うように続ける。
「戦うことが全ての騎士様、何も与えられることのなかった奴隷。そんな彼女らがこうやって料理一つの好みで真剣に争ってるなんて……平和というよりほかはない。そう思わないかい、バイト君」
「箱根さん……?」
「彼女らはここで多くを学ぼうとしている。でも学ぶためにはその環境に馴染んで、自分がそこの一員になることが大切だ。この日本の、一人の住民として」
そこで箱根さんは塩水を一気に飲み干し、息を吐くと俺を見据えた。
「君はどうだい? 彼女らを見て身近に感じるかい? それともまだワイヤードという国の人間というイメージのままかい?」
その目は、いつものヘラヘラしたものではなく、かといって真面目に訊いているようなものでもなく。
まるで、こちらがどう回答するのかを試しているかのような、そんな挑戦的な目。
俺はビールの泡のついた唇を拭いながら短く答えた。
「……よくわかりません」
「おや」
「むしろ意識してこなかったんだと思います。あいつらと話してたり、一緒に暮らしてたりすると……そういう壁というか……隔たりを感じないんですよね。なんか妙に親近感湧いちゃって」
「へぇ」
「そこにいるのが当たり前っていうか、他人と感じないっていうか……そういう意味では身近に感じてるのかもしれませんけど……それすらもはっきり自覚してないんです。親しくなったヤツに向けるようなそんな感情じゃなくて……まるで――」
そこで俺は言葉が詰まった。
まるで……なんだ? 一体俺は、彼女達をどう感じ取っている?
その先に続けるワードが見つからず、俺はビールの表面に移る自分の顔を見ながらしばらく黙り込んだ。
だけど考えても考えても思いつかず、諦めて笑ってみせた。
「やっぱり、よくわかんないっす」
「……そうかい」
箱根さんはそれ以上何も追求してくることはなく、二度三度頷いて目を閉じた。
「まぁ、特に問題を抱えているわけじゃないならそれでいいさ。君の役目はただ一つ。彼女らをここでまともに暮らせるように支えてあげること。そうだろう」
「え、ええ」
「ならそのまま頑張りたまえ。大変だと思うけど色々教えてあげなよ。それこそ……」
そこで言葉を切り、箱根さんは片目を開けて俺をその瞳で捉えた。
「ワイヤードなんて世界を忘れてしまうくらいに」
……え?
今、なんて言った?
「うんうん、海でカレー談義。それもまたアイカツだね!」
ガシャン! と大きな音を立てて渚が空のジョッキを乱暴に置いた。
顔はこのメンバーの中じゃ一番真っ赤に染まっている。完全に酔っ払ったなこいつ。
「とはいえ、リファっち&クロちゃんよう。このカレーはそんな舌戦繰り広げるためのネタじゃないんだよ。これはあくまで午後のエネルギー補給のための回復アイテムでしかない。ここで喧嘩してたらそのための体力まで使い果たしちゃうぞ」
「? どういうことだ、渚殿」
「考えてもみなよ。ウチらが午前中にやったことと言えば、スイカ割りと砂浜で山作りくらい……肝心の海に入ってないじゃん」
「……確かに」
「午後は日照りも強くなるし、マジで水ん中に入ってないとやばいよ~。でも泳ぐなら泳ぐでそれなりに疲れるから、ここは具があろうがなかろうが、キチンと食べておかないと」
と言って、渚は更にがっつくようにカレーを食らう。その姿はリファ以上に汚い。
「……でも」
「それに、途中で力尽きたら、午後のセンパイの恋人役は務まらないしねぇ。そうなったら変わりにあたしが代役を――」
「ごほん! ここは無駄な争いをしている場合ではなかったな」
「ですです! 具がたっぷりはいったカレーは、いつでもご主人様が作ってくださいますから。ここは甘んじていただきましょう」
戦争ははからずも第三国の介入によって終結したのでありましたとさ。
まったく、こいつら……本当に気が合ってるよな。不思議とそう感じずにはいられない。
俺はそんな彼女達を見て微笑ましい思いに浸りながら、ジョッキに残ったビールを飲み干すのだった。
「ところで、生ゴミさんは具なしのカレーと具ありのカレー、どっちがお好きなのです?」
「あたし? シチュー派だよ。カレーとかガキの食いもんでしょ」
戦争ははからずも第三国の失言で再び始まったのでありましたとさ。
○海水浴
それから午後。
渚の言う通り日差しは強くなり、気温もますます上昇してきた。確かにこの暑さじゃ、水の中にいないとキツイな。
しかしリファは水中を「溺れる危険なところ」と信じて疑わず、クローラも初体験の海に足を踏み入れるのが怖いと連呼しまくる始末。
そんな彼女たちに箱根さんが用意してきたのが……。
「浮き輪かぁ……なかなか便利だな」
「はい……これさえあれば溺れずに済みますね」
「そーだな」
俺達三人は、それぞれ浮き輪に身を預けながら、並んで水面をゆらゆらと漂っていた。
泳ごうかとも思ったが、周りの人が多いせいですぐにぶつかってしまうため、こうしてただ浮かぶだけにとどまってるのである。
「不思議な感覚だな……ワイヤードだと最も危険な場所に、こんな無防備な格好でいるなんて」
「私も……聞いていたところとずいぶん違うので、ちょっと驚いてます」
二人は眩しい空を眺めながら感慨深そうにそう言った。
「同じ海でも、世界が違うだけで全然違うものに見えてくる。人や魔物との戦いの場所……血の飛び散る音と叫び声ばかりの場所。でもここでは、人の楽しそうな声しか聞こえてこない」
「ですがそれは、人がこの場所に遊び場という価値を見出すか見出さないかの違いに過ぎないのですよね。もしかしたら私達の世界でも、あり得たかもしれませんね」
と、クローラはバタ足をして軽く飛沫を上げた。
リファはその意見に目を閉じて静かに頷く。
「そう、私達はただ……エレメントのため、漁業のため、戦いのため……そう言った視点でしか見ていなかったに過ぎなかったのだ。結局は人の価値観の問題……毎回毎回文化の違いを目にしてきたが、どれも最終的にはそこに行き着く気がする」
異世界。というのはもちろんこことは違う世界。
では、なぜ違うのだろうか。そういうことを考えると、筆舌に尽くしがたいものがある。
色々あるだろうけど、一番の理由は、やはりそこにいる人の考え方だろう。
その世界をどう発展させていくか。どうやって利用していくか。どうやってそこで生きていくのか。
人間が違えば、当然生まれる文化や技術が変わる。そこにおける価値観も変わる。
それは長い時間を経て受け継がれ、完成されていく。そして出来上がったものが、異世界なんだ。
だって文明を作るのは……他ならぬ人間なのだから。
「でも、ワイヤードのその価値観も全然ありだと思うけどな、俺」
「え?」
「実用的な付加価値にスポットを当てる。別に至ってまともな目の付け方だろ。少なくとも、その考え方は間違っちゃいない」
「マスター……」
そう、ものの見方に正解も不正解もない。
どう感じ取って、そこからどう動くかも、人それぞれ。その個人の意思が、時に人の共感を得たり、時にはぶつかりあったりして大きくなったり、増えたりしていく。
そうやって人類は進化してきたんだ。いや、進化を続けているんだ。今も、これからも……。
「ものの見方に正解も不正解もない、か」
「ワイヤードの掟。『確たる自分の意志を持つこと』なんだかご主人様の言ってることを表しているようですね」
「そういえば、そんなのもあったっけな」
だが、最も真っ当な掟であるなと俺は思う。
少なくとも、この周囲に流されるのが世渡りの常とされるような世界よりは。
「でも私は……こっちの世界の考え方のほうが好きです」
「クローラ?」
気がつくと、彼女は俺の浮き輪に自分のを軽くぶつけると、俺の腕に抱きついてきた。
「だって……こんなにも楽しいんですもの」
「ウェ?」
「わ、私も!」
それを見たリファも、慌ててこっちに泳いでくると、俺のもう片方の腕にしがみついてきた。
まさに両手に花。いきなりな行動に俺は内心ドキッとした。
「ま、間違ってるとか正しいとかは、正直私達にはわからない。これまで見てきた中で、いいところも悪いところもたくさんあった。だけど……生きる世界は二つに一つ。ならどう判断すればいいかと言われればやはり……。好きかどうか、だと思う」
顔を赤らめながらリファはボソボソと言った。
「マスターと一緒にいられると、私はとても楽しいから……だから、そんなふうにさせてくれるこの世界の方が……ずっといい」
「クローラもそう思います。たとえワイヤードにご主人様がいらっしゃっても、今のような生活はできないと思います」
この世界で、俺と、リファと、クローラの三人がいて、初めて成り立つこの暮らし。
彼女達はそんな場所を自ら選んだ。俺という
そしてそれを好きでいると言う。これも立派な意思だ。この世界で、生き続けるための。
それが彼女達の、一人の人間としての意思なんだ。
「俺も……好きだよ」
気がつくと、そう言葉を発していた。
途端にもともと赤かったリファとクローラの頬が更に紅潮した。
「マスター……」
「ご主人様……」
「ばっ、馬鹿違ぇよ! そういう意味じゃなくて、その……退屈しなくて楽しいとか、そんな感じで……!」
しまったと思い、急いで取り繕っても余計図星を指されてるようなリアクションになる。
それを近場で見ていた数人の海水浴客がクスクスと笑う。
「何あれ……チョーかわいい」
「カップル……? いやハーレム?」
「修羅場には見えないけどねー。ホント仲良さそー」
……。
穴があったら入りたい。海なら潜ればいいんですかね? 教えて偉い人。
非常に恥ずかしい思いに駆られている俺とは対象的に、両隣の異世界人はとても嬉しそうに笑っていた。
何がおかしいんだよ、と訊くと、二人はほぼ同時に答えた。
「決まってるだろう」
「決まってますとも」
「え?」
そして突然浮き輪から身を乗り出して、こちらに顔を接近させると――。
ちゅ。
と、頬にとっても柔らかくて、とっても温かい何かが触れた。
一瞬頭が真っ白になった。
意識がはっきりしてきた時には、既に二人は俺から顔を離しており、トロンとした目で見つめてきていた。
そして、照れくさそうにはにかみながら、こう言ったのである。
「恋人のフリ、大成功」
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