22.女騎士と女奴隷と海②

「では、この崖から一緒に飛び降りましょう。ご主人様!」

「待て待て待て待て待て待て!!!」


 開幕早々何だこれは!? 何で俺らこんな断崖絶壁に立たされてんの!?

 一体この世のどこに身投げのシーンから始まる作品が存在するんだよ! 

 タイトルに「海」が入ってるからって、誰が海に投身自殺なんて予想して開くんだよ! この時点で10人中10人がブラバするレベルの詐欺だよ! 

 ていうか、前回の最後の文章と何の脈絡もないんですけど! なんて言ったか覚えてる? ねぇ? 自分達で言ったこと覚えてる?


「私をマスターの恋人にするのだっ!」

「クローラをご主人様の恋人にしてください!」


 そーだ。間違いないよね? 一言一句全部合ってるよね?

 で、ここから想像すること何よ?

 日の当たるビーチを腕くんで歩くとか、海の家で一緒にかき氷食うとか、パラソルの陰で日焼け止め塗ってあげるとか!

 ジョーシキ的な頭なら、普通やることってそういうもんやぞ?

 だ の に! 

 下には荒れ狂う大波と尖った岩礁。江ノ島海岸にこんなとこあったか? え? 岩手の三陸海岸あたりにワープさせられちゃったりしてんじゃないの?

 何故だ、どうしてこうなった。渚や箱根さんだけでなくお前らもそんな能力使えるんか?

 だが、隣に立って可愛らしくこちらを見上げてくるクローラ・なんとかは微笑んでただこう言うのである。 


「うふふ。仮ではありますけど、他人を欺くためにはそれらしいことはやっておかないとですね」


 欺きのレベル高すぎだから! これ一つで完全に未来永劫全人類欺き続けられますから! 期限はこの海にいる時だけで結構ですんで、マジで!


「でしたら永久にこの海で一緒に眠りに……」

「永久が嫌だって言ってんだよ! ちゃんとここから帰るっていう終着点を設けろ!」

「しかし、ワイヤードでは海は万物が生まれ、また死ねば還る場所であるという言い伝えが――」

「家 に 帰 ら せ ろ や !!」


 ただマイホームに戻るだけのことが、漢字が変わるだけで生命サイクルの話に飛躍。日本語恐ろしいなオイ。


「あ、あの……心配しなくても、クローラは大丈夫です」

「うん俺が大丈夫じゃないから。配慮するベクトルもうちょい考えて」

「あ、そうですね。飛び降りた時痛くないかどうかですよね? それについても、この高さなら問題ないかと」

「飛び降りるって選択に問題大アリなんじゃぁぁぁぁぁ!!」


 そう魂の雄叫びでツッコんだ時、背後の方でわざとらしい咳払いが響く。

 振り返ってみると、リファレンス・なんとかが腕を組んでこっちに蔑んだ瞳を向けていた。


「まったく見てられんな。これが恋人同士のやることか」


 まったくだよ。お前にしては珍しく正論ティーだよ。贅沢言えば今までのアホ発言と今の正論の比率入れ替えてくれると嬉しい。


「で、でも……クローラが知っている『恋人らしいこと』なんて、これくらいしかなくて」


 じゃあこの世に愛なんてないんだよ。

 まぁ奴隷だからそういうことをよく知らないとしても無理はないけど、なんで数少ない所持知識がソレなん? 手をつなぐとかもうちょいライトなのじゃダメだったん?


「そ、それももちろんありますけど。やっぱり私は奴隷……ご主人様とはつり合わぬゆえ、フリだとしても周囲から迫害を受ける可能性が高いです」


 人差し指をつつき合わせながら女奴隷はモゴモゴと言った。

 ずっと前からこの世界に身分の違いなんてない、と説明してはいるが、どうもそういうところだけは転生前の価値観を引きずっているらしい。

 「俺の奴隷」という体で住まわせてもらっているため、その肩書を失ってしまったら自分が自分でなくなりそうだから、とかなんとか。だから、「常に下で」の精神を忘れないようにしてるのだと。

 そう考えると少し不憫ではあるかな。


「でしたらっ、恋人として添い遂げるためには、一緒に死んで身も心も一つにする他ないかと!」


 で、最終的に行き着くところがコレだもんなぁ。どうなってんだよ異世界の恋愛事情。


「ワイヤードでは身分が違う者同士の恋愛が禁止されているわけではない」


 リファがつまらなそうに説明を始める。


「実際、庶民から貴族に嫁いでいく女もいることにはいるし、騎士団の中にも郊外の農家の娘をめとったヤツもいた」


 禁止されているのは、あくまで他国の人間との交際のみ。おそらくこれは国家機密の漏洩阻止を目的としたものだろう。それさえ守れば、双方及び親族の合意が取れりゃ好きにしろ的なルールだったらしい。

 なら別にいいじゃん。と思うのが普通だが、その理由はすぐにわかった。


「禁止されていないということは」


 クローラが目を伏せながら静かにこう言った。


「堂々とできるということと同義ではないのですよ。ご主人様」


 奴隷なはずの人間と真剣に付き合っている。

 奴隷のくせに上流階級と対等に交際している。

 当人達はそれでよくっても、周りが送る視線は白く染まるということか。

 要するに一般的ではないということ。今リファが言った例もかなりレアケースだったのだろう。


「で、いつまでもそんな肩身の狭い思いをするくらいだったら共に人生に幕を……という事件があったんです」

「え? そんなんあったの?」


 俺がリファに目配せするが、彼女は肩をすくめるだけだった。


「あ、いえ……ただ奴隷とその主人が同時に行方不明になっただけなんですけど……。そのお二人がすごく仲が良さそうで……よく噂になってたんです」

「なんだ、じゃあ夜逃げとかそんなんじゃねぇの?」

「帝国は外部との行き来に非常に制限がかかってますし、記録も取られます。だからその線はないでしょう……すると残されるのは」


 死亡しかないってことか。それで過去の様子から見て、そういう結末を選んだのではないかと勝手に思ってるわけね。


「それでも、どんな形であれ二人は幸せに結ばれてるんだろうなぁってクローラは思います」

「……」


 んなもんを幸せと呼べる世の中の異常さよ。

 でも、日本も人のこと言えない面もあるかもな。ことさら恋愛に関しては。

 LGBTだかなんだか知らんけど、それ関連で揉め事が起きるのは今に始まったことじゃない。


「クローラがそういったものを恋人との行為だと考えてるのはわかった。だが、ここでは間違ってる」

「? リファさん?」

「何度も言うようだが、ここはワイヤードではない。この世界ではこの世界なりの恋人としての振る舞い方がある」


 リファがビーチの方面を顎で示しながら言った。意外と近くだった。三陸海岸じゃなかった。じゃあなおさらなんだよこの崖。


「ここに来る途中で、すでに何組かの男女を見てきたが、いずれもワイヤードで見てきたような付き合い方ではなかった」

「……確かに」

「つまり、ここで間違った恋人のフリをしていては、それを看破されてしまうかもしれない。それすなわち、またマスターが『なんぱ』の被害にあうかもしれんということ」

「!」


 その言葉にクローラの目が大きく見開かれた。


「そうでした……私、ご主人様の恋人になれるってことしか頭になくて、本来の目的を忘れておりました」

「うむ。この海という場所は、恋人同士が最も多く訪れる場所の一つだという。ここで徹底的に学習して、マスターをお守りせねば」

「ですです!」


 よくわかんないけど、どうやら身投げルートは回避できたってことでOK?

 すると、リファが俺が半裸の上に着ていたシャツの裾を引っ張って、


「さぁ、戻ろうマスター。今度は私が実践してみせよう」

「お、おう」


 そのまま引っ張られるまま、俺は彼女のあとについていった。

 なんだか、今日のリファはいつもよりしっかりして見えるな。恋人のフリなんて言われたから、いつもみたく動揺してポンコツっぷりにギアがかかるものかと思ってたのに。



 そしてさっきの海岸にて――。



「介錯つかまつる」

「わかった。わかったよ、お前ら俺と戦争したいんだな。上等だよ」


 いきなり砂浜に座らされて剣を抜いたかと思えばこれだよ。一瞬でもしっかりしてるとか思ってた俺がバカだったよ。

 だがリファは無表情で100均ソードを天高く掲げながら自慢げに言う。


「心配するな。この剣はレプリカだが、すでに元素付与エンチャントで斬れ味を強化してある」


 だから何でお前らの心配ポイントはいつもそうわざとしか思えない方向にズレてんの? さっきの正論言ってたリファちゃんはどこ行っちゃったの? さっきのここで他のカップルの行動を学習するとかいう会話は一体何だったの? ねえ?


「む、失敬な。ちゃんと学習した上での行動だぞ」


 君の辞書の「学習」という項目にどういう説明が書いてあるのか小一時間問い詰めたい。

 そこでリファはそっととある一方向を指さした。俺とクローラが共にそちらに目を向けると……。

 ぱかんっ。

 という音と、


「わーい、割れた割れた!」

「ナイスヒットだね、ナギちゃん!」


 そんな楽しそうな声を上げている二人の男女。

 店長と渚であった。

 彼らはブルーシートの上で、そこに散乱している砕け散った何かを見て騒いでいる。

 球体で、外皮は緑と黒のゼブラ模様、中身は輝く薄赤色。

 スイカであった。


「あ、センパーイ! 今スイカ割りやってんですけど一緒にやりますー?」


 こちらに気付いた渚が、こっちに向かって手を降ってきた。

 それを見たリファが鼻を鳴らして、


「ほら、渚殿達も似たようなことをやっておったではないか」

「仮にあれを見て学習したとして、どうして叩き割る対象がボク自身なのかな」

「腹を割って話せる仲になりたくて」

「一人で切腹してろ」


 一時休戦。






 ○スイカ割り


「うひゃはははは! まさかの逆パティーンかぁ! こりゃいい意味で予想はずれたわぁ! あっはっは!」


 事情を聞いた渚は腹を抱えて笑い転げている。

 どうやら俺に恋人のふりを依頼するのはコイツの指示で、その時は「リファとクローラがナンパされるのを防ぐため」という名目でさせるつもりだったらしい。

 でも実際ナンパに遭ったのは俺。そりゃツボにもハマるだろうよ。


「なるほど、この果実を目隠しをして刻む訓練か」


 笑い話もそこそこに、箱根さんから一通りスイカ割りの説明をスイカを食べながら受けたリファ達。


「そう。訓練にもなるし、割ればあとは美味しく食べられるし、一石二鳥だろ。どうだい、興味ある?」

「うむ。視覚に頼らずに戦うというのは、夜間での戦闘の際などに大いに役立つ。いい機会だし、やってみよう」


 人一倍乗り気なリファは早速渚から木の棒を受け取ると、目の前のスイカの前に立つ。

 ってかまだスイカあったんだ。と思っていると横の箱根さんが語りだす。


「いやね、最近親戚から届くお中元がこればっかりなんだよ。一人で食べるには多すぎるし、こういうところで有効活用してもらおうかなって」

「嫌がらせですねー」

「まぁ去年は僕が親戚にやってたことなんだけどね」

「仕返しですねー」


 結局俺達ゃただの事後処理担当要員かい。美味しいからいいけど。


「しかし、こういうのが恋人同士のやることなのか? 些か違うような気が……」

「まぁどっちかっていうと大勢でワイワイやるヤツ向けだよねー」


 他人事みたいに渚は種を皮の上に吐き出しつつ言う。

 確かにこれじゃあ、いつもとやってるどんちゃん騒ぎとそう変わらない。

 と考えていたところ、リファがチラチラとこちらを何か言いたげな目で見つめてきていることに気がついた。なんだよ、と俺が訊くと。


「そ、その……差し支えなければ……マスターも手伝ってくれないか?」

「は?」


 いきなりな提案に俺達は変な声を上げた。

 手伝うって、どういうことだ? そもそもスイカ割りってみんなに位置を知らせてもらいながらやるものじゃないのか?


「そ、そうではなくてだな……こう、この棒を二人で持って……一緒に、というか」


 なんだそりゃ、意味わかんね。

 だがリファはなおも棒を両手で握りしめながら、提案してくる。


「き、きっとそうすれば、スイカの気配も二倍に感じ取れるし、作業効率も二倍に上がると思うのだがっ!」


 そんな理屈が通るなら二人三脚がソッコーで運動会の種目から外されちまうよ。あれで苦労して一位を取ったことのある俺の輝かしい過去の栄光を返せよ。


「く、クローラもそう思いますっ!」


 と、そこで便乗してきたのが我が家の女奴隷。

 お口周りにスイカの種をいっぱいつけたまま、顔をスイカの中身みたいに真赤にして。


「そ、それに……恋人らしくするって何より常に一緒にいることだと思うんです。だから……こういうのが恋人のすることなのかはわかりませんが、少なくともリファさんの言う通りにしておけば、一応フリとしての効果はあるのではないかと!」


 まぁその論理は的を射てはいるんだけど、だったら別にスイカ割りじゃなくてもよくね? って話になるわけで。


「じゃあ三人一緒にやれば?」


 ムシャムシャとスイカにかぶりつきながら渚がサラッととんでもないことを言う。


「三人は今恋人の関係なんでしょ? ならクロちゃんだけ仲間はずれってのはダメだよねー。そう思わない? クロちゃんもやりたいようだし」


 そう言われた途端、クローラの顔が火がついたかのように更に赤みを増す。


「く、くくくくくクローラは別に……そうしたかったから言ったわけではないですけど……でもでも……やりたくないといえばそうでもなくて……ご主人様さえよろしければ……ゴニョニョ」


 頭から煙まで出始めた。

 まったく毎度毎度余計に煽るなっちゅーに、このおませギャルは。


「そんなそんな、物笑いの種にしたいだけなんて全然考えてないっすよ。ス イ カ だ け に」

「飲み込んで胃の中で畑作ってろバーカ」

「え? センパイの(物笑いの)種があたしの中に入って畑を……? つまり『俺の子供を産んでくれ』ってこと……?」


 勝てないなぁ。


「なんだもう~お二人との関係に飽きちゃったんなら早く言ってくれればいいのに~」


 人を浮気性男みたいに言ってんじゃねぇよ、失礼な。

 すると渚は、セクシーな白と黒の斑模様のビキニのブラをくいっとつまんで。


「もしリファっちとクロちゃんで満足できないんなら、恋人のフリ……あたしとします?」

「「ダッ、ダメぇ!!」」


 言った途端に、リファとクローラが同時に俺の前に割って入ってきた。


「い、いくら渚殿でもそれはダメなのだ! マスターは渡さないのだ!」

「そ、そーです! ご主人様が離れてっちゃうのはイヤなのです!」


 わぁ可愛い。こんな一途な女の子達に慕われて俺は幸せだぁ。

 こんなに俺のことを大切に思ってくれてるんだから、一緒に心中しようとしたり首を斬り落としにかかったりするようなことは当然しませんよねぇ、お二人さん?


 というわけで。


「ちょっと見てよ、何あれ……マ?」

「男一人と女二人で一本の棒を持ってるー、すっごいアゲぽよ~」 

「もしかしてスイカ割り……? やだエモーい」

「うっわマジ卍。インスタにあげよ」


 などなど、数々のギャラリーに注目されることとなった俺達である。


「はっはっは、こりゃスイカ割りというよりかはケーキ入刀みたいだねぇ」


 箱根さんがヘラヘラと笑う声がする。俺達は目隠しをしているため、彼はもちろん俺達を笑う海水浴客達の姿も見えない。

 拷問の種類の一つに、頭に袋被せられて拘束された状態で犬に吠えられ続けるってのがあったらしいけど、それと同じだ。


「よし。ではいくぞ」

「お、おう」

「はいっ」


 準備OK。まずは渚がどこかにスイカを配置する。合図があったらスタートだ。


「はい、設置完了。いいよ三人共。レッツゴー」

「バイトくーん。お箸持つ方にあるよ!」


 渚のコールと同時に、すかさず箱根さんがヒントを出す。するってぇと右か。


「は、箸を持つ方……ど、どういうことだ? なぞかけか?」

「な、何かの暗号でしょうか……?」


 だが両端はそれを理解できずに混乱。早くも弊害出ちゃったよ。この時点で効率激減だよ。


「あ、そっか。留学生だからお箸だとピンとこないか。えっとじゃあ……フォークとか持つのはどっちの手かなー」

「フォークを持つ……? なるほどそういうことか!」

「クローラもわかりました!」


 そこまで言われてピカンときた異世界転生コンビ。意思が揃ったところで、いざ方向転換!

 ――といこうと思ったのに。

 どてーん!

 と、無様な音を立てて俺らは盛大にすっ転んだ。

 どうやら左に行こうと思った奴がいたらしい。逆方向に引っ張り合う力が働いてバランスを崩してしまったようだ。


「いたた……なにをやっているマスター! フォークを持つと言ったら左手だろう!」

「ご主人様ぁ……なんでそっちに行くんですかぁ~」


 目隠しが外れ、リファとクローラが涙目に抗議してくる。

 そりゃ確かにナイフも持つんならフォークは左だけどさぁ。箸って最初言ってたんだから、そのへんで察しようや……。

 しょっぱなから大失態を晒してしまったことで、見物人達はますます大爆笑。恥ずかしいったらありゃしない。


「くっ、屈辱……次こそは……このままではただの道化集団だとバカにされかねん」

「クローラは諦めません! ちゃんと恋人っぽく振る舞ってみせます!」


 目隠しを付け直し、いざ再戦。


「センパーイ。信号を渡る時にはまずどうしますかー?」

「はぁ? お前何言って――」

「く、クローラ知ってます! 右見て左見て右見てだからその通りに――」


 転倒。

 やりなおし。


「バイトくーん、君のお尻にはホクロがあるわけだけど、どっちについてたっけね?」

「はっ、私知ってるぞ。右だ!」

「いいえ、左です。クローラはこの間確認しました!」

「何を言うか! 私だって直接この目でしかと見たのだぞ!」

「何勝手に人のケツ観察してんだお前らぁぁぁぁぁ!」


 転倒。

 リトライ。


「センパイセンパイ。前の穴と後ろの穴どっちでスるのがお好きっすか!?」

「もうそれヒントでも何でもねぇだろ!?」

「……」

「……」

「お前らこういう時だけ俺に委ねんじゃねぇよ!」


 タイムアップ。

 コンティニュー。

 ・

 ・

 ・


「くそっ……何故だ……何故できない……」

「あぅ~、目が回りますぅ」


 あれから何度か挑戦したが、棒はカスリもしなかった。

 周りの人間達も、最初はみんな笑っていたが徐々にシラケ始めて、もう殆ど残っていなかった。

 浜辺にへたり込む俺達を見て、渚が瓶コーラを飲みながら苦笑する。


「ありゃりゃ、やっぱしダメだったかぁ」

「まぁでもいいじゃないか、結構面白い写真も撮れたし」


 ぱかんっ。

 と、箱根さんが自分でスイカを棒で割りながら言う。

 覚悟はしてたがやっぱ撮影されてたか。時折シャッター音も聞こえてたし、絶対今頃ネットでも笑いものにされてるんだろうなぁ。最悪だ。


「目隠ししているとはいえ、相手は動きもしない小さな的なのに……これでは騎士の名が廃る……」


 だがそれ以上にショックなのはリファだったようで、心底悔しがっていた。たかがスイカ割りでそんな大げさな……。


「大げさではない! 私は……恋人以前に、警備隊としてもマスターを守る役目にあるのに……こんな体たらくではいかんのだ!」


 下唇を噛んで目尻に涙を浮かべて方を微振動させ始める。とうとう泣き出しちゃったよオイ。スイカ割り失敗した時の慰め方ってどうすればいいんだ。


「よーしよし、泣かないでリファっち」


 そこで彼女の頭を優しく撫でたのが渚だった。 


「渚殿……」

「辛かったね。任務が成し遂げらんないその気持ち。わかるよ」


 嘘つけ絶対その心笑ってるゾ。


「そんな深く考えることないよ。相手はただのスイカなんだから」

「でも……。それにすら私は勝てなかった」

「いい、リファっち? もっと野望を大きく持ちなよ。あんな野菜一つにいつまでも執着してたら、天下統一なんて何億年かかったって成し遂げられないんだよ」


 何の話をしている。


「野望を……大きく……」

「そう。あんたが倒すべき相手はもっと強いヤツ。ブチ割るのはスイカではく、そいつの頭……」

「強い……ヤツ」

「さぁ、思い浮かべて……身近にいる強い人。あんたが力を認めた人」

「……それは」

「それは?」

「マスター」

「その通りだ、殺れ」


 戦争、再開。

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