異世界の女騎士と女奴隷が俺の家に住むことになったがポンコツだった件
コペルニクス
レベル1.異世界の女騎士が俺の家に住むことになったがポンコツだった件
0.女騎士が家にやってきた
【前回までのあらすじ】
ある日突然俺の家に爆風と共に金髪碧眼の女性が現れた。
彼女はなぜか鎧と兜という妙な格好であり、しかも自らのことを異世界に住む騎士であると名乗る。
だが突然向こうの世界で死んでしまい、その後紆余曲折を経てこちらの現代世界に転生することになったらしい。
そしてなんと、今日からこの世界で行くための拠点として、俺の家に一緒に住むとか言い出した!
大学生活二年目に突入し、ようやくこのアパートでの一人での暮らしに慣れてきたというのに、とんでもないハプニング。
一体何が起きているのか、未だに理解できない俺の運命やいかに!?
―――――――――――――――――――――――――――――――
「……とまぁ、こんなとこか」
別に前回があるわけでもないけど、こうして書けばめんどくさいとこ全部説明できるからね。
「さっきから何をブツブツ言っているのだ貴様は」
女騎士は、いきなりの展開に苦笑するしかない俺を冷めた目で見つめながら言ってくる。
だがぶっちゃけそれは俺が一番言いたいセリフだ。
前述のあらすじだけ見ればそれっぽいファンタジー小説のような展開だが、現実的に言えばコスプレしたただの不法侵入者。
異世界がどーたらいう話には興味はないわけではないが、ここで俺が取るべき行動は……。
「とりあえず、警察に通報ですな」
スマホを取り出して110をプッシュ。
prrrrrrrr……prrrrrrrrrr……。
「……」
ありゃ、おかしいな。
もしこの女騎士がただの頭沸いた泥棒だったら、ここで正気に戻って俺を止めに来るはずだが。
ちら、と彼女の方を見るとさっきと変わらず、腕を組んでこっちを訝しげに睨んでいるだけだ。
「だから、さっきから貴様は何をしている?」
「ええ……」
通報するフリをして反応を伺ってるとでも思ってるのだろうか。マジでかけてんだけど。
だが彼女は慌てるでもなく、心底不思議そうというか呆れたという感じのリアクションしか取ろうとしない。
――はい、警察です。どうされましたか!?
「あ、すいません。間違えました。なんでもないっす」
と俺は早口で謝り、通話を切った。
「……」
「……」
ふぅ、と俺はため息を付いて気を落ち着かせると、その場に胡座をかいた。
コソ泥ではないということは分かった。強盗や殺人鬼の類だったとしたら、今頃俺は殺されてるかその一歩手前だ。
あとはこいつがイカれてるかどうかという話なわけだが……。
「まぁどうぞ座って」
「なんだ、ようやく私の話を聞く気になったか」
女騎士はそう言うと、カーペットに行儀よく正座した。
素直に応じるとは……何なんだこいつ?
「先程も名乗ったが、どうやら耳に届いていなかったようなのでもう一度言わせてもらおうか」
「はぁ……」
「私の名はリファレンス・ルマナ・ビューア。かつて帝国『ワイヤード』で兵長を務めていた」
「……リファレンス……さん?」
「兵長……と呼んでもらいたいところだが、私はもうあの世界では死んだ身。ならば仕方あるまい」
勝手に一人で納得するリファレンス。
早くも奇妙な設定が出てきたが、これは聞き流したほうがいいのだろうか。
「……で? 死んで転生したとかなんとか……」
「ああ、帝国内で問題を起こしているとある逆賊を追っていたのだが……偵察中に不運にもヤツらに捕われてしまってな」
「ふーん」
「身動きが取れなくなった私を舐めるように見つめ、嘲るように笑う賊共に囲まれ、私は屈辱だった」
「ん? ………んー?」
「どうせこのあと私が受ける仕打ちは決まっている。だから私は、奴らにこう言った」
「『くっ、殺せ』?」
「そうそれ」
……。
……………。
「こほん。で、そうしたところ奴らは……」
「奴らは?」
そこでリファレンスは、いきなり自分の太ももを強く拳で打ち付けると心底悔しそうに叫んだ。
「本当に私の首を掻っ切って殺してしまったのだクソぉ!」
……なに言ってだこいつ。
「こういう時は有無を言わさず、衣服をひん剥いて慰みものにするのが自然な流れではないのか!?」
両手をわきわきさせながら迫真の表情でこちらに訴えかける女騎士。
本当に異世界からやってきた人間なのか、それとも単なるキチガイなのか判別しようと思ってたがまさかの両方とは。いやまいったね。
「実際! そうやって街の女が何人も攫われ、連中の欲望の捌け口に使われてきたのだぞ! 何故私だけこうもあっさりと! 理不尽にも程がある!」
「知らねぇよ。ってかあんたはそうされるのを望んでたのか?」
「馬鹿なことを言うな! そうすれば命ばかりは助けてもらえるからに決まってるだろう!」
うーわ、こいつだっせぇ!
「ってか、だったら素直に命乞いすりゃよかっただろ! なのになんで殺せなんて!」
「ふざけるな! 私は高貴なるワイヤードの騎士だぞ! 命乞いなぞ、そんな卑しい真似できるものか!」
「わかった! お前馬鹿だろ!? バーカバーカ!」
「だ、黙れ! 馬鹿っていうほうが馬鹿なんだぞ!」
「うっせぇ馬鹿!」
はーくっだらねぇ。なーにが高貴なる騎士だよ。中身はとんだポンコツじゃねぇか。よっくそんなんで兵長なんて務まるもんだな。
と、それはさておき。
「で、なんで死んで俺んとこに来るわけ?」
俺が尋ねると、上下させていた肩を落ち着かせて、リファレンスは呟くように答えた。
「死んでからここに来るまでの間。審判を聞いたのだ」
「声?」
「不思議な声だった。暗闇の中で、自分がどういう状態なのかもわからないまま、それだけが耳に届いた」
謎の声、ねぇ。
死んだあとだから……神様とかかな? そこから転生するにしちゃありそうな話だ。
「で、あんたはなんて言われたんだ?」
「えーと確か……」
彼女は少し黙ったあと、小さく言った。
「『こんにちは、こちらは死者処理事務局転生判定課担当の木村です。残念ながらあなたは出血性ショックにより死亡が確認されました』だったか?」
何言ってだこいつ(二回目)
俺は呆れるが、彼女の方は大真面目に話を続ける。
「木村と名乗るその声は続けてこう言った。『しかし、あなたの死は必然ではなく、偶発的に起こった事故のようなものです。よってあなたは条件を満たしましたので、生還が可能です』と」
偶発的な事故って、どう考えてもこの人のただの選択ミスだと思うんですけど。
ってか生還の条件ガバガバすぎんだろ。事務局とか御大層な組織作るならその辺の査定しっかりしとけっつの。
「とにかく、生還が可能ならなぜそのままワイヤード……だっけ? そこに生き返らなかったんだよ?」
「木村が言うには、私が元いた世界では私が死んだことは既に確定済みで、もしそこでの生還を望むのであれば赤ん坊になって別人として生まれるしかないらしい」
「……ほぉ」
「もう一つの選択肢として提示されたのが、前世の記憶を保持したまま、今までとは違う別の世界での転生ということでな。私はそちらを選択した」
「で?」
「そこで私はいくつか候補を選ぶことになった。これから転生する世界は私の世界とは全く違うところなので、そこでの生活の仕方を教えてくれるための#同居人__パートナ―__#をな」
「……それが俺だって?」
「うむ」
なるほどね。
とりあえず木村コノヤロウしばくぞゴラ。何事前通知無しで勝手に俺を候補に挙げてやがる。
「何故俺を選んだ? もっとマシなやついなかったのか!?」
「決め手になったのは、
そんなことまでわかるもんなのか?
例えば、花屋の家に転生したら花屋の店員とか……医者の家だったら看護師とかそんな感じか。
「他の候補も木村から聞かされたのだが、どれも聞いたことのない職業ばかりであまりピンとこない。うまくやっていけるか心配だった。その中で貴様の条件を知った時、これしかないと思ったよ」
「俺、ただの学生だぞ? 一体どんな
「あー、そうだな……」
訊くと、彼女はポリポリと自分の頬を指で掻きながら回答を渋った。
「すまん、それを教える前に、まずはきちんと契約の儀を執り行いたいのだが……」
「けいやく?」
「この私を、貴様の……いや、そなたの
リファレンスは一旦立ち上がると片膝を着き、深々と俺に頭を下げた。
「このリファレンス・ルマナ・ビューア。図らずももう一度得たこの命、貴様のために捧げることを誓おう」
「!」
「そして願わくば、この私に、この世界で、私がこれから生きていく世界で……生きるための術を教授いただきたい」
いきなりかしこまられた俺は面食らった。
えっと……「あなたをこれから全力で支えますからどうか私をここでお世話してください」ってことだよな。
なんだか聞こえはいいけどただの居候申請っぽい気がしなくもないんだが……。
俺の役目は……彼女に、この世界での文化、社会、技術、芸術を教えてあげて、普通の暮らしができるようにさせてやること。
彼女も腐っても元は異国の帝国の兵長。それなりに頭も切れるだろうし、物覚えもいい……はず。
それに……よくよく見たら可愛いよな、この人。
凛々しい顔立ちではあるが、どこか儚げな印象を見せるその雰囲気は、意識すればするほど心を奪われそうである。
こんな人と同居するっていうのは……案外悪い話じゃないかもしれない。
「……わかった。じゃあリファレンス。契約をしよう」
俺は腰を上げると彼女の前に手を差し伸べた。
「君を俺の
若き女騎士はハッと顔をあげると、俺の手を取り微笑んだ。
「感謝する。我がマスターよ」
「マスターって……別にそんな呼び方しなくていいって」
「いや、そなたの住まいに身を置かせてもらうのだ。これくらいの礼儀は当然だ」
「リファレンス……」
「リファでいい」
立ち上がって彼女は言った。
「親しい者には、そう呼ばせていた。これからはマスターも気軽にそう呼んでくれ」
「……わかったよ、リファ」
握る手に少し力を込め、俺は彼女を呼んだ。
これで契約完了、なのかな?
「じゃあ、色々あったけど、これからよろしくね」
「ああ、元帝国騎士として、これまでに得た知識・技を惜しみなく使い、そなたに報いよう――」
リファはまっすぐ俺の瞳を見つめ、力強く宣言した。
「――自宅警備隊として!」
……ざっけんなクソ。
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