知らないセカイの御伽話
『修学旅行対策会議』ではあまりに味気ない、という姫宮なりの男心を気遣った言い回しだったらしい。
「そーいや、今年あるんだよな。あの地獄みたいな旅行…」
「多分、世界で私達くらいだよね、修学旅行を地獄なんて呼ぶの」
「かもな。でも、だとしても俺にはやっぱ理解出来ねぇ。旅行なんて一人でも行けるし、むしろ一人で行った方が行く場所とか宿とか全部自由に選べて楽しいだろ」
「それは、そうかもだけど…やっぱり、”皆で行く”ってのが楽しいんじゃない?色んな場所巡ったり、夜遅くまでダべってウノやったり」
「…楽しいのか?それ」
「…わかんない」
姫宮が俺に提案してきたのは、要するに『シミュレーション訓練』だった。人と何処かへ遊びに行ったり、普段アイツらがどのように過ごしているかを疑似的に経験することによって、少しずつ”治療”していく。きっかけは、四ヶ月後に迫った地獄こと修学旅行。言うまでもなく、班決めで余った俺は、ジャンケンで負けたグループに入れられることになった。当然そのグループの奴等からは白い目を向けられ、行く場所を決める会議には一度も参加しておらず、グループラインには俺だけが入っていない。全くもって、いつも通りだ。多分どっかしらで置き去りにされるんだろうなと予想しつつ、それでも俺は何とも思っちゃいなかった。別に、小中でも同じような感じだったし、楽しさなんて求めちゃいないし、むしろアイツらと関わらなくて良いのなら、それだけ発作の危険も下がるという訳だ。地獄のように苦しい旅行、という意味ではない。無論集合写真を撮ったり、アイツらと同じ大部屋で寝なければならない等負の要素も多いが、基本的には『退屈』なのだ。地獄のように退屈な旅行、授業よりも早く終わって欲しい行事、それが俺達ボッチにとっての修学旅行だ。だが、姫宮にとっては、『青春を満喫する最後のチャンス』らしい。確かに修学旅行が終わってしまえば、後はもう大学受験だし、大学に入ってからはあまり青春という感じはしないだろう。だからこそ姫宮は、文化祭でぶっ倒れるほど苦しい思いをしてでも、文字通り命懸けで人と関わろうとした。同じ班になれる人間を見つける為、最後の青春を是が非でも手に入れる為に。一度、いい加減気になったので姫宮に聞いてみたことがあった。どうしてそこまでして、青春したがるのかと。その時、姫宮はこう答えた。
『今しか出来ないことだから』
『人生に一度きりしかない”青春”だ、思い切り謳歌しないとね』
ふと、脳裏にいつかのヤブ医者クソジジィに言われた言葉が浮かんだ。きっと、姫宮が囚われているのはこの言葉なんだろう。
夏休み、青春、アオハル、恋、友情。
いくつかの想像が頭を駆け巡った。
例えば皆で海に行って、無駄にしょっぱい海水の中を泳いで、切ればいいものを何故かスイカ割りをして、バーベキューで焦げて炭の味しかしない安い肉をうまいうまいと食べて、夜にはゴミを撒き散らしながら花火をして、線香花火をしている最中、ちゃっかり女の手を握る。
例えば皆で夏祭りに行って、“気になるあの子„を勇気出して誘って、その浴衣姿にみとれて、『えっとその…どう、かな?』
『に、似合ってる!滅茶苦茶似合ってる!』みたいな脳みそ腐りきった会話を交わして、味と値段が全く釣り合っていないぼったくり出店のたこ焼きだのりんご飴だのを買って、射的とか金魚すくいとか全く意義のない遊びをして、クライマックスに打ち上げ花火があがる最中、こっそり女に告白する。
そんでOK貰って、人目を気にせずキスしちゃったりとかして、ギャラリーから『ヒューヒュー!』とか言われたりして…
おえっ。
くっだらねぇ。本当に、俺には何が良いのかさっぱり理解出来ない。
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