しっちゃかめっちゃかと愛のピース
玉手箱つづら
1
一昨日の夜、ある男性アイドルがこの片田舎の路地裏で、何者かに刺されてそのまま死亡した。第一発見者は仕事帰りのキャバ嬢で、このアイドルの熱烈なファンだった。
キャバ嬢は泣きながら死体を背負って駆けていき、近所の病院の親父を叩き起こした。子どもの頃からの掛かりつけ、自宅の横に診療所を構えた「町のお医者さん」だ。
そこまでの時間は五分というのだから、隣町から救急車を呼ぶより遥かに早い。懸命な判断と迅速な行動は讃えられるべきものだったが、しかし得られたものは何もなかった。死体は死体。泣こうが喚こうがこぼれたミルクだ。
さて、ここまでならば少し珍しい有名人の死亡事件で済んだのだが、厄介なのはこの先だ。
自分が彼を刺したと自首するものが現れた。早期解決かと思われた矢先に、またひとり、ひとり、ひとりと我らが田舎警察署の門を叩いた。私が彼を刺した。私が彼を殺した。私が彼の首を絞めたなんてのもいた。ニュースをちゃんと見てから来い。
ともあれ、こうして一つの死体、一つの刺し傷をめぐって、計十七人の自称犯人が集まる事態と相成った。
まったく馬鹿ばかりだ。溜息が出る。
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