ラノベ化しません1
ロディの言葉を聞いた瞬間、私は頭が真っ白になる。
「な、ななななな……」
なんで? なんで幼い頃とはいえ、第二王子が我が家に預けられていたの?
第二王子の名前くらい、私もさすがに知っている。だけど、ラノベのローランドは黒髪で、雰囲気ももっと鋭かった。もちろん『幼い頃、身体が弱かった』という記述はどこにもない。
しかも今、レパードの名前まで入っていなかった? レパードとは、シルヴィエラが義兄から逃げるために利用する幼なじみの名前だ。彼は水色の髪で――
私はラノベのシルヴィエラではないから、ここで気絶するわけにはいかない。彼の手を借りるなど、最もしてはいけないことだ。もうすでに利用し、やらかしちゃった感はあるけれど。
王子の胸に手を当てて、大丈夫だと伝えた。
しかし彼は動かずに、心配そうな顔をする。
「ごめん、驚かせたね。とりあえずゆっくりするといい。必要なものは、女官が準備してくれるから」
「あ、ありがとう……ございます」
部屋にはすでに女官が待機しており、ロディ……ローランド王子は慣れた仕草で彼女達に指示を出す。王子は私を長椅子に導き、そのまま隣に腰掛けた。彼の手が私の肩に回され、さらに優しく髪に触れる。自分にもたれかかるように、ということだろうか?
親切を無にするようで悪いけど、私は椅子に浅く座り直すと、胸の前で両手を合わせた。習慣って恐ろしい。困ったことがあれば、つい祈るようなポーズになってしまうのだ。
狩猟小屋よりも数段立派な長椅子は、クッションも柔らかかった。けれど今は、その感触を楽しんでいる場合ではない。
よーく考えよう。
義兄から逃げたはずなのに、どうして次の幼なじみと、その先の第二王子が合体して現れた?
――幼なじみは水色の髪で穏やかなレパード。第二王子は黒髪で鋭くたくましいローランド。
成長したロディは、穏やかだけど時々強引な気がする。そして、紺色の髪だ。まさか、水色と黒を混ぜたら紺になるから、二人が合体してるってオチじゃあ……
現実の方が、ラノベもびっくりな展開だ。
このままだと、私はロディと深い仲に?
いやいやいや、それはないでしょう。
弟としか思えないし、向こうだって私を姉のように思っているはずで……って、彼はこの国の王子だ。私ったら、弟だなんてとんでもない!
慌てて長椅子の一番端まで避けると、私はロディ……ローランド王子に頭を下げた。
「た、大変申し訳ありません。王子殿下とは知らずに、昔も今も無礼な振る舞いをいたしました。どうかお許しください」
王子は長い足を組み替えながら、ため息をつく。
「シルフィ、顔を上げて。そういう態度は困るよ。君と僕との仲だろう?」
「そう言われましても……」
「君は僕の――……。まずは友人として、気楽に過ごしてね」
姉のようなもの、と言いかけたのだろう。けれど私は、驚きに目を
だって「友人として気楽に過ごして」っていうセリフは、確かラノベにも出てきた。友人と言われて滞在を許されたのをいいことに、シルヴィエラは幼なじみから第二王子に乗り換えようと
ふしだらダメ、絶対。
駄作ラノベの通りになるのは嫌だ。
王太子妃に上り詰めようとしているならともかく、私にそんな野望は全くない。近い将来、たった一人の愛する人との出会いを希望する。
実際、私とロディは友人というより幼なじみだ。それも昔の話だし、彼が王子だとわかった今、馴れ馴れしくしている場合ではない。男爵令嬢ごときが近づこうものなら、他の大貴族や王子を狙うご令嬢方からひんしゅくを買うし、彼の王子としての評判も下がってしまう。
だから私は、彼の申し出を受けるわけにはいかない。いくら親切から出た言葉でも、ロディの足を引っ張ってはいけないのだ。彼に頼ると、私がふしだら……ラノベ化してしまう危険だってある。
私は私。前世を思い出したからには、自分に恥じない生き方をしたい。
顔を上げた私は、ローランド王子の金色の瞳をまっすぐ見つめて口を開いた。
「もったいないお言葉、感謝に
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