自虐ネタではありません7

 泣きそうになりながら、歯を食いしばる。

 私は嘘泣きが得意なラノベのヒロインなんかじゃない。だから、自分の力でなんとかしよう! 


 ダメ元で頑丈そうな木の扉に体当たりするのはどう? どうせ汚れて傷だらけだから、あざが増えるくらいどうってことはない。

 私は助走するため、後ろに下がった。

 そこで小屋全体を見て、ふと気づく。


 ――待てよ。これだけ立派な小屋なら、他にも入り口があるんじゃない?


 月明かりを頼りに、小屋をぐるっと一周してみた。すると、ちょうど裏手に勝手口のような小さな扉が見える。こっちの方が正面の扉より、まだ壊しやすそうだ。


「緊急事態だから、神様も持ち主も許してくれるよね?」


 私は強度を確認しようと、その小さな扉を押す。


「あ、開いた……」


 私はほうっと息を吐く。

 中は真っ暗でよくわからない。だけど雨はしのげるし、狼にも襲われないだろう。

 勝手に入ってしまうけど、背に腹はかえられない。良い案が浮かんだら、すぐにここから出て行くつもり。


 ぶつかった拍子に何かが落ちる音が聞こえた。非常時なので、ごめんなさい。でも、今の音で小屋の持ち主が出てくるということはなかった。完全に無人のようだ。


 暗がりの中、私は目をらす。

 奥に、さっきとは別の扉がぼんやり見えた。私は取っ手に手をかける……この先が寝室だといいな。


 窓から射し込む月明かり。

 私は入った部屋の窓のそばに、ベッドらしきものを見つけた。やはり誰も住んでいないのか、硬いし整えられてもいないようだ。けれど、疲れた身体を横たえられるだけでも十分ありがたい。


 だって、今の私は健康だ。

 そのことが何よりも素晴らしい。

 入院中は器具につながれ、寝返りさえ満足に打てなかった。投薬治療で痛みに耐えても、回復の見込みはなくて。

 心配そうに覗き込む両親や友人に「悲しませてごめんね」と告げることもできず、私は以前の世界から旅立ったのだ。当時の私はみんなに大事にされ、それなりに幸せだった。それなのに、「ありがとう」すら伝えていない……


 思い返すと泣けてきた。

 前世の記憶がよみがえった今ならわかる。

 私がロディに共感したのは、自分も痛みを知っていたから。病と闘う小さな彼に寄り添って、少しでも力になってあげたかった。


 ――ロディに会いたい。


 疲れのせいか、簡単に涙がこぼれてくる。


 ――神さま。どうか彼が元気で、幸せでありますように。


 月に向かって、いつものように祈る。

 修道院での習慣が身についていたらしく、心が落ち着き穏やかに眠れそうだ。


 硬いベッドに横になった途端、私はあることに気がつく。

 

「あ、袋。外に置きっぱなしだ」


 疲れているし、祈りも終わった。

 もう一度あの真っ暗な中を戻る気力がない。


「朝になったら取りにいけばいいか」


 そうつぶやいたのを最後に、私は深く寝入ってしまった。




 翌朝、私は腕を組んで仁王立ち。

 さっきから自分への怒りがおさまらない。


「どうして明日でいいなんて、バカなことを考えた? ちょっと頭を働かせれば、わかったことなのに!」


 きつねたぬきか、鳥か虫か。

 朝になり、私は置きっぱなしの袋を回収しようと外に出た。しかし布袋は開けられ、中の物が勝手に引っ張り出されている。パンは粉々、服はドロドロ。蝋燭ろうそくだって朝露あさつゆに濡れて使い物にならない。


「小屋の中に、蝋燭や食料があればいいんだけど……」


 ぶつぶつ呟き室内に移動する。水甕みずがめに水があるのはラッキーだった。でも、飲めるかどうかはわからない。とりあえず、昨日汚れた手だけでも洗っておこう。

 食べられるものを探さなきゃ。水は川を探して調達するにしても、この時期に森で採れるキノコだけでは、絶対お腹が空く。


 まずは食料!

 勝手口のある部屋を探し回っていたところ、ふいに外から扉が開かれた。


「えっ?」

「なっ……」


 同時に驚きの声が響く。

 戸口には、背の高い若い男性がたたずんでいる。その男性……超絶イケメンは、私を見るなり絶句していた。

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