私たち、結婚しました
第10話 私たち、手術します
「私たち、結婚しました」
「おめでとうございます」
松岡は戸惑いながらも祝いの言葉を述べた。
「これで移植出来ますよね? 」
晴人は身を乗り出して聞いた。
「ええ……。でもいいんですか? 前の婚約者のことは」
まさみは少し言葉に詰まったが、すぐに頷いた。
「はい。大丈夫です」
「分かりました。では手術のことですが……」
松岡は詳しい手術のことを説明し始めた。手術のために禁酒と禁煙をすること。手術した跡はなるべく目立たないように配慮するが、傷が残る可能性があること。手術は七時間から十時間ほどかかり、術後は手術の跡が痛んだり、熱などを出すかもしれないと説明された。二人は松岡の説明を熱心に聞いていた。
まさみと晴人は診察が終わり病院を出た。
「良かったな。手術の跡がそこまで残らないみたいで」
「うん」
「仕事は大丈夫か? 」
「大丈夫。早く治して会社に戻ってこいって言ってくれたよ。それより晴人も仕事は大丈夫なの? 」
「大丈夫だよ。仕事を休むくらい大したことじゃない。それに副店長がいるから俺が休んでいる時はそいつに店を任せるよ」
「そんな人いたの? 知らなかった。今度挨拶しないと」
「まあいつかな」
二人はそんなことを話しながら肩を並べて歩いた。
あらかじめ入院していたまさみの後に、晴人も手術の三日前に入院した。晴人の肝臓をまさみに移植しても大丈夫なのか最後の検査をするためだ。検査の結果、無事に移植出来ることがわかった。
手術当日、晴人は歩いて手術室まで向かった。そこにはベットに寝ているまさみとまさみの家族と晴人の家族が待ち構えていた。晴人はまさみに近づくと、彼女の手に触れた。
「頑張ろうな」
「うん」
まさみは彼の指をぎゅっと握り、すぐに離した。二人は家族に見守られながら手術室へ入った。晴人は看護師に手術台へ案内され、そこに寝転んだ。手術着姿の松岡が安心させるように微笑んだ。
「大丈夫ですよ。寝ている間に終わりますからね」
晴人はその言葉に頷いた。
「はーい。眠くなりますよ」
麻酔科医が晴人にマスクを付けた。晴人は何回か呼吸をした後にゆっくりと目を閉じた。
まさみが目を覚ますと妙子は彼女の手を握っていた。
「おかあさん? 」
麻酔が切れたばっかりなので上手く口が回らなかった。
「大丈夫だよ。手術は成功したよ」
「良かった……。本当に良かった」
剛志の目からは大粒の涙が流れていた。環奈は困ったように笑いながら、父親にハンカチを渡した。
「はるとは? だいじょうぶなの? 」
「安心して。晴人さんもさっき目が覚めたって」
「ほんとうに? よかったぁ……」
妙子の言葉を聞くとまた麻酔が効いてきて、まさみはまた眠りに入った。
「よく頑張ったな」
剛志はまさみの頭を撫でた。
術後一週間はまさみも晴人は微熱が出たり手術跡が痛んだりしたが、経過は良好で二週間も経つと一人で起き上がり食欲も戻ってきた。ドナーの晴人は三週間で退院したが暇を見つけると、まさみの病室を訪ねた。
「いらっしゃい。晴人さん」
「お義母さんとお義父さん。こんにちは」
まさみの病室には既にまさみの両親がいた。
「晴人、来てくれてありがとう」
「お店の方は大丈夫なのか? 」
「今日は定休日なので大丈夫です」
「そうなんだ。まさみはいい旦那さんをもらったわね」
妙子の言葉にまさみと晴人は思わず苦笑いを浮かべた。
「そういえばいつ二人は暮らすの? 」
「えっ? 」
まさみと晴人は同棲することを全く考えていなかったので、二人は黙ったまま顔を見合わせた。
「別に一緒に暮らさなくてもねぇ……」
「そうですよ。今は別居婚っていう形もありますし! 」
二人はなんとか同棲の流れを食い止めようとした。
「だって結婚したんだから一緒に暮らすだろう。それに二人は別居婚してなんのメリットがあるんだ? 」
剛士の言葉に二人は答えられなかった。
「今、まさみが住んでるマンションの更新時期がそろそろ来るって言ってたじゃない。これを機に同棲したら? 」
「そうだな。それがいい」
突然決まった同棲に二人は苦笑いをするしかなかった。
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