第5話 私、入籍します

 まさみは病気が分かった次の日に家族と颯太に病気のことを話した。家族はひどくショックを受け、特に妙子が動揺していた。しかしまさみは思いの丈を晴人にぶつけたからか落ち着いていたので、ショックを受けている妙子を慰めることができた。まさみは助かるには肝臓の移植が必要だということを話すと、両親はもちろんアメリカにいる妹の環奈も移植ができるかの検査を受けてくれることになった。しかし残念ながら適合はしなかった。

「やっぱり難しいんだね」

 まさみはため息をついた。

「大丈夫だよ。必ずドナーは見つかるって。だからそんなに気を落とさないで」

「そうだね。親戚にもお願いしてみる」

「僕も適合検査を受けるよ」

 颯太の言葉にまさみは驚いた。

「そんな大丈夫だよ」

「僕が受けたいんだ。まさみが病気が分かって不安な時に何もできなかったから、少しでもまさみの役に立ちたいんだ」

「ありがとう」

 まさみがそう言うと颯太は彼女の手を取った。


 まさみは親戚や遠縁にも縋ったが誰一人適合検査をパスしなかった。まさみは追い詰められている気分だった。今のところ病状は大きく現れなかったが、松岡からは肝臓は沈黙の臓器であり、自覚症状がなくても病状は悪化していると言われていた。その言葉通り、まさみが検査に行くたびに結果が悪くなっていった。まさみには残された時間がなかった。しかしそんな状況も颯太からの電話で一変した。

「もしもし。今大丈夫? 」

「うん。大丈夫だけど。どうしたの? 」

 颯太は仕事の合間に電話をかけてきたらしく、電話の向こうからは看護師が医者を呼ぶ声が聞こえていた。

「大事な話があるんだ。単刀直入に言うね。適合した」

「それって……」

 まさみは一瞬颯太の言っている意味が分からなかった。

「僕の肝臓をまさみに移植するんだ。まさみは助かるんだよ」

「本当に……? 」

「本当だよ! やったねまさみ」

 颯太が喜んでいる一方でまさみにはある不安があった。

「でも颯太の体を傷つけちゃう……」

「そんなの気にしないで。まさみが助かるならこんな傷大したことないよ。これからのことは、休みを合わせて松岡先生に二人で聞こう」

「分かった。本当にありがとう」

 まさみは颯太との電話を終えるとすぐに家族と相談に乗ってくれた晴人に連絡すると移植ができることに安心したようだった。


 まさみと颯太は休みを合わせて松岡の話を聞きに行った。松岡は手術の日程や生活への注意点を話した。松岡はこれからのことを話し終えるとただしと添えた。

「移植は親族間に限られています。お二人はまだ結婚はされていませんよね? 移植をするのであれば結婚をする必要がありますが、そこのところは大丈夫ですか? 」

「はい。大丈夫です」

 颯太は自信をもって答えた。

「それなら良かった。これで移植ができます」

 松岡は笑顔をこぼした。

 まさみと颯太は松岡の診察室を出ると病院を出た。

「順番が入れ替わっちゃったね」

 二人は結婚式の後に入籍をしようと話し合っていて、そのことも家族には伝えていたのだ。

「でもいいじゃん。結婚することには変わりがないんだから。二人で幸せになろうね」

「そうだね」

 まさみと颯太は腕を絡めた。二人の薬指にはめた指輪がキラリと輝き、二人のこれからを祝福しているようだった。


「暇だな」

 晴人は呟いた。晴人が経営する古着屋は一階が店舗で二階が住居になっている。まさみに儲かっているかと聞かれた時は思わず見栄を張って、まあまあと答えたが実際は全然だった。晴人はアメリカまで商品を買い付けに行き、レイアウトにもこだわったが売れ行きは良くなかった。客が店に入ってくることもあるが一〇分もせずに店を出てしまう。颯太は二〇時になったので店じまいをしようとしたところで、店に誰かが入ってきた。

「すいません。閉店なんですよ」

 晴人が入ってきた客の顔を見ると、その客はまさみだった。

「よっ」

「何してんの? 」

「近所通ったから晴人のお店に寄ってみようと思って。ここが晴人のお店なんだね。結構センスいいじゃん」

 まさみは店の中をぐるりと歩き出した。

「おう」

 まさみはアクセサリーが置かれている棚の前で止まり、棚に置かれたピアスを手に取った。

「これかわいいね」

「それはアメリカまで買い付けに行ったんだよ。真鍮でできてるんだ」

 まさみが手に取ったピアスは真鍮でできていて、中央にはパールがあしらわれていた。

「へー。かわいい。こういうレトロなピアスって中々ないんだよね」

「やろうか? 」

「いいよ。お金払うよ」

「いいから。仲いいんだから友達価格ってことで」

「仲がいいから払いたいの。はい六千円」

 まさみは晴人に六千円を渡した。

「まいどあり。店をそろそろ閉めるんだけどうちに来る? 」

「いいの? 」

「うん。二階が家だから待ってて。家の中を荒らすなよ」

「分かってるよ」

 まさみは微笑むと店の奥にある階段に向かった。

 晴人は急いで店じまいを終えると二階に向かった。まさみは興味深かそうにソファの上で晴人の家を見渡していた。

「何か飲む? 」

「それじゃあ頂こうかな」

 晴人は冷蔵庫を開けると麦茶が入ったポットを出して、二つのコップに注ぎ入れた。晴人は麦茶を入れたコップをまさみに渡した。

「はい」

「ありがとう」

「男の家にのこのこ来たらダメだろ」

「晴人が上がって行くかって聞いたんでしょ」

「言ったけどさ本当に上がるとは思わないじゃん。彼氏に怪しまれたらどうするんだよ」

「大丈夫だよ。別れたから」

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