第43話 真紅の魔星
カイト、シルカの2人と分かれて先に地下の研究施設へと向かうミリア達。その廊下にも沢山の無残な遺体が転がっていた。その中に見知った顔がある事に気付く。
「ミリア、この人って、長男のレーヴァンじゃない?」
エクリアに言われてその亡骸に目を向ける。確かに、かなりボロボロにされているもののレーヴァンに間違いはなさそうだ。
「あんまり好きな性格じゃなかったけど、こうなると同情を禁じ得ないわね」
残して来たカイトとシルカの事もある。ミリアは黙祷を捧げて、先を急ぐ事にした。
所々に散見する兵士や研究員らしき遺体とそれを捕食している魔獣を容赦なく蹴散らしてミリア達はついにその部屋に辿り着いた。
そこにはすでに破られている沢山の檻が壁に設置されており、すでに白骨化した魔獣のものらしき骸がいくつも転がっている。研究室の中にも兵士や研究員の貪られて見る影もない死体が確認できるだけで10人分くらいは存在した。
「長居は無用ね。証拠となる資料を探しましょう」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
今からほんの一週間前。
それはあくまでカイトの好奇心からの質問だった。
「ん? 自分よりもパワーのある相手との戦い方だって?」
レイダーと共に芝生の上に座り込んで休憩中のカイトは、師であるデニスにこう尋ねた。
――自分よりもパワーのある相手との戦いで効果的な戦法はないか、と。
それに対し、デニスは「そうだな」と思案する。
「本来ならば強さにおいて近道などない。パワーで上回る相手に勝つには、努力して自らのパワーを相手に近づけるのが普通だ。もしくは、相手を上回る疾さや技を身に付けるか」
「まあ、そうですよね」
「だがな、何事にも例外と言うものがある」
「例外?」
「例えばだ、カイト。相手が
「え?
いきなりそう問われてカイトは目を白黒させる。
「これらを相手取る場合、そもそも質量に差があり過ぎる。俺だってまともにやり合ったら力で対抗するのは無理だ」
「デニス先生であってもですか」
「ああ。昔、巨人族の長カルデアと腕試しをしたが、最初は簡単にぶっ飛ばされたよ。あいつらにとっては俺くらいのサイズなど虫と同じだからな。そもそも、力で対抗する事自体が間違いだった」
「では、疾さで上回ったんですか?」
「それも難しかったな。あの巨体で意外に俊敏な動きをするんだよ、カルデアは。しかも拳だけでも俺の身長と同じくらいの大きさだからな。技術でどうにかなるもんじゃない」
「ではどうすれば?」
デニスは少し考えた後、
「まあ、いざと言う時のために教えるだけ教えておこうか」
あの時のデニスの教えを思い出す。
魔道騎士や魔戦士の戦いでは最終的にものを言うのは闘気と魔力の融合体である魔光の強さである。そして、それをどのように扱うかが魔道騎士の強さに直結する。
そして、あの時にデニスに教わったのは、まさに魔光の奥義とも言えるようなものだった。
(魔光を全身に行き渡らせる。身体の隅々に。筋繊維1本1本に至るまで)
カイトの身体の中心から生まれた黄金色のオーラは全身に広がった。まるでカイトの四肢から溢れ出すかのように。
魔光の奥義、
デニスが巨人族の長カルデアを倒すために編み出した技である。
「オ、オまえ、ナンデいキテルンダ!?」
「魔光強化が咄嗟に間に合ったからな。そんな事よりシルカを離せよ。本人が嫌がってるだろ」
「ばかナことヲいウナ! ぼくトしるかチャンハあいシあッテルンダ! ソレヲひキさコウトスルやつハゆるサナイゾ!」
「ふざけないで! 誰があんたなんかと!」
「きキわケノナイこニハオシオキダゾ」
そのバールザックの手に力が篭り、シルカが悲鳴を上げる。
「うあああぁぁっ」
「シルカ!?」
「わカッタラおとなシク――」
そう言いかけた直後だった。それはまるで一陣の風が吹き抜けたようにバールザックは感じた事だろう。
直後、ドサっと言う音と共にシルカの体が床に落ちた。
「エ?」
バールザックは目を丸くしてその光景を見つめている。そして、シルカを掴んでいた腕に目を移す。そこには綺麗に切断され、手首から先の無い腕と勢いよく吹き出す緑色の液体が見えるのみ。
「ギャアアアァァ! ほくノ、ぼくノうでガアアァァ!」
激痛にのたうち回るバールザックを尻目に、カイトはシルカを握っていた指を全て引き剥がしてシルカを解放した。
「大丈夫か!?」
「う、うん。大丈夫……」
顔が熱くなるシルカ。王子様に助けられるお姫様の心境はこんな感じなのだろうか。だが、今はそんな事を考えている場合ではないと、シルカは頭を振って邪念を振り払った。
「オ、オノレェェェ! げせんナぐみんノぶんざいデヨクモぼくノうでヲ!」
地面を鳴らしながらバールザックが進み出て来る。切断された腕はそのままに。
「悪いがこちらにも時間がないんだ。次で終わりにさせてもらう」
カイトはそんなバールザックに剣先を向ける。その瞬間に、カイトを取り巻く黄金色のオーラはカイトの腕から手を伝い、握られた剣までも黄金色に染め上げた。
「グググ、ぼくハつよクナッタ。つよクナッタンダァァァ! ぼくノじゃまヲスルやつらハミンナきエテシマエェェェェ!」
バールザックの咆哮と同時に口から放たれた炎の
流石に驚愕に目を見開くバールザック。その懐に風のような疾さで飛び込むカイト。力任せに振り下ろされた燭台と、電光石火の速さで斬り上げたカイトの斬撃がその中央で激突する。
キンッ
そんな金属質な音が微かに聞こえた。何かがくるくると空中を回転し、弧を描いて地面に突き刺さる。
それは、切断された燭台の先端だった。
直後、斜めに刻まれた傷から大量の鮮血を撒き散らし、バールザックは仰向けに倒れた。
無属性魔力による
「ゲハ……ナ……ナンデ……コンナこと二……
ナンデ……ぼくガコンナめ二あワナイト……イケナインダ……」
息も絶え絶えなバールザックの前でカイトは深呼吸を1つ。カイトの身体を取り巻いていた
「……あんたがどんな考えでシルカに迫ったのかは知らないが、少なくとも簡単に人間を止めるような奴にはシルカは渡せないな。絶対に」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
研究施設へと踏み込んだミリア達はと言うと。まるで空き家に潜入した空き巣のように棚やら引き出しやらをひっくり返して資料を集めていた。
「どう? 何か見つかった?」
「研究資料なら沢山あるんですけど……」
「ダメね。あたしの方にもダルタークと関連付けるようなものは何もないわ」
「そっちも同じか」
テーブルの上に見つけた資料を広げて互いの情報交換する。残念ながら今のところ収穫はゼロとは言わないがあまり芳しくはない。
と、その時、研究施設に振動が襲う。3人は上を見上げた。
「そう言えば上でカイト達とバールザックが戦ってたわね」
「今の振動、勝負あったかな」
「あっ、2人とも、あれ見てください!」
リーレに促され、その指差す方向に目を向けるミリアとエクリア。
そこには振動でズレた棚とその後ろに隠されていた頑丈そうな鉄の扉が顔を覗かせていた。
「あからさまに怪しいわね。ミリア、お願い」
「まっかせなさい!」
ミリアはむんっと袖をまくり上げると、彼女の身長よりもずっと大きな棚を1人でずらし、さらにはその重そうな鉄の扉をいとも簡単に押し開けた。
「な、なに……これ?」
そう呟いたのはエクリア。
3人の目の前には、まるでいくつも魔石を無理やり組み合わせたかのような歪な球体が浮遊している。そしてその周囲には魔石がセットされたたくさんの魔道機械。それらが中心の球体に向かって魔力の光を浴びせていた。
赤く脈打つように点滅を繰り返すその球体。すでにほぼ全体が赤く染まっている。
「何の機械なんでしょうか?」
調べようとリーレが一歩前に出たその時――
「近付かないで!」
大声でミリアが2人を静止する。
「み、ミリア?」
振り返った2人が見たもの。それは分かりやすいぐらいに動揺をその顔に張り付けたミリアの姿。
「な……何て物を使うのよ……」
「ミリアちゃん、知ってるんですか?」
「本で読んだだけ。実物を見るのは初めてだけどね。
話は後。今はとにかく急いで逃げるわよ!」
「え? でも、調査は良いの?」
「そんな事をしてたら巻き込まれる。もうほぼ全体が赤くなってる。時間がない!」
「巻き込まれるって……」
「急いで!
あれは『
この街全体を消し飛ばすくらいの広域破壊爆弾よ!」
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