第28話 百足龍虫《ドラゴンセンチピード》
「い、一体何を!?」
シルカの指示だろうが、突然
いや、違うとミリアは気付いた。
バラバラになっているように見えてバラバラになっていない。むしろパーツごとに切り離されたような感じに見えた。
「観念したか! 今度こそその頭を叩き潰してやるぜ!」
レイダーが増幅魔法によって取り込んだナルミヤの火の精霊魔法を拳に宿したまま、再び
「ダメ、レイダー!
「おわっ!」
いきなり上方からの下降気流でレイダーは撃ち落とされ顔面から地面に突っ込んだ。「いきなり何すんだ!」と文句を言おうと顔を上げたその目の前を、
「な、何だと!?」
振り返ったレイダーの目に移ったのは、千切れたはずの
「何だこりゃ!? 自爆したんじゃねーのかよ!」
「どう見てもワザとでしょ」
それは
攻撃を避けながらミリアは考える。
「ナルミヤ、
「ええ、近くに3人ほど」
「それじゃあ、
「分かった!」
「レミナはカイトとレイダーの補助をお願い!」
「ん」
ミリアの指示にレミナは頷いて答える。
「よし、ヴィルナは私と一緒に攻撃ね。私が何とか
「貴女の指示に従うのは何だか癪だけど、今回は仕方ないわね」
ヴィルナはまだ他の一般的な魔法は未熟。それは自分でも分かっていた。相手が激しく動き回る以上、重力魔法もまともに使えない。悔しいが、属性魔法に関してはミリアの方が遥かに実力が上だとヴィルナにも分かっていた。そして、こんな時まで意地を張るほどヴィルナも頑迷ではない。
「よし、行くわよ!」
ミリアは駆け回る
「
(知性と言うか、そもそも自我があるかどうかすら怪しいわね。どちらかと言うと、司令塔によって操られる端末って感じがするわ)
壁に衝突しひっくり返ったカケラは単体では起き上がれないらしくジタバタもがいていたが、直ぐにヴィルナが重力魔法で押さえ込み、カイトが剣を突き刺すと動かなくなる。一応単体でも個別の生命体として扱われているらしい。
「硬いのは背中側の甲殻だけみたいだ」
「それならまずひっくり返す!
ミリアの放った竜巻は廃墟を縦横無尽に駆け抜け、
強酸液を撒き散らしながら。
「うわわわわ!」
「うおっ、危ねえ!」
「ち、ちょっと、何やってんのよ、ミリア!」
「ミリアさんのバカ〜〜〜!」
無差別にばら撒かれる強酸液を必死に避け、岩石で撃ち落とし、何とか被害なしで切り抜けた。
ちなみに無差別と言う事は……
ギャオオォォォォッ!
ジュゥゥゥと言う音に続いて
「よし、計算通り!」
グッと拳を握りしめるミリア。仲間達からの冷ややかな目は見なかった事にした。
一方で、シルカの方は
怒りからか、真っ赤になった目を眼下のミリア達に向ける。それに対し、苦笑いを浮かべるミリア。
「あら〜、何だか怒らせちゃったみたいね」
ギャオオォォォォッ!
「そ、そんなの反則!」
それはまるで強酸液の雨のようだった。
無数に、そして広範囲に降り注ぐ強酸液の雨は容赦なく大地を穿つ。
「す、
ミリアは大地を変形させて岩石の壁を傘のように展開させ頭上を覆った。バチバチバチと叩きつけるような音とジュゥゥゥと岩盤が溶けている音が下まで聞こえてきた。
「ふう、危なかった。こういう時は地属性魔法って便利ね」
地属性魔法は基本的に大地に関係するものに対して作用する魔法で、属性魔法の中では唯一物理的な効果を発揮する。
ただし、反面コントロールがとても難しく、今のミリアでは何とか岩盤を板のように変化させるのが精一杯だった。
「参ったな。どうにも倒せる気がしない」
普段から強気で猪突猛進なレイダーが珍しく弱気なことを言う。その気持ちは分からないでもない。何しろ、周囲を見渡せばそこら辺中の地面や瓦礫が強酸液で溶けて泡立っているのだ。この岩盤の傘もいつまで保つか分からない。
「討伐レベル特A級の意味がよく分かったわ。暴れ出したら手に負えない」
「どうしよう。ミリアさん、何か打開案は無い?」
不安げにミリアに相談するナルミヤ。
レミナは岩盤の傘の陰から空を見上げる。相変わらず大量の強酸液が空を覆うように飛び交っていた。
「空もダメ。絶対撃ち落とされる」
「上も下もダメか。完全に詰んでるわね」
ボヤくようにヴィルナが呟く。
が、そこでミリアは気付く。
(下? いや、まだ方法はある!)
そう、下がダメならさらに下を行けばいい。つまり、地上がダメなら地下を進めばいい。
「ナルミヤ、ちょっとやって欲しい事があるんだけど」
「何でしょう?」
「
私は何とかそれまでこの壁を支えるから」
「え? あ、ノーム達も聞いてたみたいです。『任せろ』ですって」
そうナルミヤが言った直後に近くの地面に大穴が開いた。そこからまるで地面が変形するように穴が奥へと広がっていき、しかもご丁寧に階段まで用意されていた。
「よし、みんな! ここから脱出するよ!」
ナルミヤの声に従って、まずレイダーが飛び込む。先の安全確認を兼ねての事だ。続いてヴィルナとレミナ、ナルミヤがトンネルに飛び込んだ。
そしてカイトが飛び込もうとしたその時、
ズンッ
突然、岩盤の傘が揺らいだ。
続けて大量の強酸液が岩盤の傘を伝って地面に流れ落ちてくる。
「まさか、強酸液のブレスを直接ぶつけてきた!?」
地面に流れ落ちた強酸液がそのまま洪水のように流れ込んでくる。慌ててミリアは
「こんなの、トンネルの中まで流れ込ませるわけにはいかないわ」
ミリアは仲間達が全員脱出したのを確認し、周囲を見回す。そして――
「
その壁の根元に火炎魔法を叩き込んだ。
爆炎と衝撃波が周囲の強酸液を吹き飛ばし、そして壁の根元を粉砕。傘となっていた岩盤がそのままミリアの方に向かって傾き出す。
それを確認してミリアもトンネルに飛び込んだ。その上に岩盤が音を立てて倒れ込む。まるでトンネルの入り口を塞ぐ蓋のように。
長い身体を器用にくねらせながら、
「地属性魔法もここまで使いこなすか。ったく、全属性特化は伊達じゃないわね」
シルカは周囲を見回す。
既に魔蟲達の軍団は壊滅状態で、残っているのはシルカを頭の上に乗せている
「折角あれだけの数を集めたのに、この
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