イクヨちゃんの彼氏。

今は、イクヨちゃんとだいぶ仲良くなった。

行き先もいっぱい覚えてもらった(つまり、データを蓄積してきた)。


ただ、イクヨちゃんの中の既存の地図データが古いらしく、開通したばかりの新しい道に入るとイクヨちゃんはそれを知らないので混乱する。そして、今はなき古い道にラチ男を引き戻そうと何度も再検索して、うるさくうるさく、いや根気強く「左折」や「右折」を指示してくる。


でも、どんなにこっちがイクヨちゃんに従わなくても(or従えなくても)、決して怒らないのがイクヨちゃんのいいところだ。なにしろ我慢強い。声も荒げない。冷静に淡々として、最後まで諦めない。


データが古いことによって、トンでもないことも起きる。


一度、郊外型の超大型スーパーマーケットに行こうとしたことがあって、イクヨちゃんにお願いしたら、車1台しか通れないような、ものすごく細くて入り組んだ住宅街に誘導され、3回くらい右折したあげくに行き止まりとなった。

向きを切り返せるほどの道幅がなくて、なんと、ずっとバックで2区画くらい戻らなきゃならないハメになった。


ったく、イクヨちゃん、この運転弱者になんてことさせるのか!!


きっと、数年前にでも道路事情が変わったのだろうけど。。。

こういうことが、少なからず、ある。

全面的にイクヨちゃんに頼ってはいけないと肝に命じてみるものの、いつどこでそういう事態が起こるかわからないので、どうしようもない。なってみないと。


イクヨちゃんがマジメ過ぎて困ることもある。


行き先を入力する時に、断固、正式名称しか受け付けてくれない。そういうところはキビしい。通称みたいな名前しかわからない施設とかキッパリはねつけてくるので、ホントに困る。

そして偶然に、別の地域でその通称を正式名称として稼働してる施設があったりすると、イクヨちゃんは何の疑問もなく「フェリーに乗るルートです」とか淡々と言って、到着予想15時間後とか平気で出してくる。

何の心の準備もない私を、そんな遠くへいきなり行かせようとするなんて、常識的気遣いがないにもほどがある。お泊まりセットだって持ってないのに。


イクヨちゃんは、そういう女だ。


でも、もう私はイクヨちゃんと離れられない。彼女の淡々としたしゃべりがないと、さびしいし物足りない。


最初のころは、イクヨちゃんがずっとおとなしい時など、あれっ?? と不安になることがあった。そして、それは経路が「みちなり」な時だとわかった。

画面に「みちなり」なんて律儀に表示してあるのだけど、あまり「みちなり」が長いと、イクヨちゃんが死んでしまったのではないかと心配になって、動いてるかどうか画面を凝視してしまう。だから、本当は途中で「みちなりが続きます」とか時々言ってくれればいいのだけど、言ってくれない。


「イクヨちゃん、サボるなよ〜」とこっちがしゃべりかけたり、道を間違えて困らせてやろうかと画策したりするのだけど、道なりなので、曲がるところすらないことがある。


というわけで、いろいろ問題はありつつ、私たちは友だちだ。


どうでもいいけど、しょっちゅう「みちなり」を出してくるイクヨちゃん(高速道路とか)。

あまりに「みちなり推し」が続くと、

って、もしかしてイクヨちゃんの彼氏なんじゃないのぉ!?」とツッコミを入れるくらいには、みちなりの行程は退屈なものだ。


フルネームは、藤原の”みちなり”とか、菅原の”みちなり”とかいうんじゃないのぉ? と何度か訊いてみたけど、そういう質問をイクヨちゃんはまったく受け付けない。。。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る