間 三隅美実と千里眼
「見つけたわよ、招かれざる生徒」
ピアスの一件が終わり、透史が帰宅し、目覚めた美実を二人掛かりでしめたあと、皆子が言った。メガネのフレームに軽く手をやる。
「視えたのか?」
「ええ。透史君に仲のいい女の子、いるでしょ? クラスメイトの」
皆子の言葉に美実は少し考えるようなそぶりをしてから、
「……犬っぽい子?」
小声で呟いた。
「ああ、そうそう。可愛い子」
皆子が微笑む。
「……そっか」
美実は小さく呟く。よく二人で楽しそうに話していた。彼女がいなくなったら、石居透史はきっと悲しむだろうな、と思った。ああ、でも彼女が消えてしまえば記憶も消えるから、悲しんだりしないか、と思い直す。
化け物の記憶など、忘れるに越したことはない。
「しかしまぁ」
ぼやくように潤一が
「相変わらず、その目は規格外だな」
皆子は一度肩を竦めた。
「特別なものだからね」
一度眼鏡を外し、汚れを確認するかのようにそれをしげしげと眺める。
そのレンズには、度は入っていない。レンズ越しに見える世界は、屈折せずに見える。そして皆子の視界には、小さいな怪異が部屋を横切る姿と、潤一の後ろに遠く、連なるように幾つかのモノが見えた。潤一の後ろに見えるのは、彼が通って来た因果関係。
「コンビニに、幽霊がいたの?」
見たままを呟く。
「お引き取り願ったが」
潤一は当たり前のように答えた。
「ふーん」
その人間がこれまで遭遇した怪異が見える。
潤一がそのことを思い出したことを契機として、その幽霊が成仏していく姿も見えた。
その人が遭った怪異が新しいものから順番に、連なるようにして見える。その人が、該当する怪異に関連する、時期、場所、物を思い出すと、その姿がよりよく見える。
ちらり、と皆子は横目で美実を見る。その目に映る美実の姿は、やはり今日も取り囲まれている。黒い、影。美実の表情すら、伺うことができない程度に。
眼鏡をかける。
ソレらのものは、視界から消えた。
美実の困ったような顔が見える。
規格外の目。生咲の次期宗主である潤一にだってここまでは見えない。
幼いころ、興味本位で入り込んだ祠、自分にならできると、子どもならではの自信で行った術。それらは皆子に、よく見える目を与えた。見え過ぎて肝心な情報を読み取ることができない。
眼鏡の位置をそっと直す。
それを見えないようにおさえているのがこの眼鏡だ。
見え過ぎる目を嘆いたこともあったが、自業自得。それに、利用出来るものは精一杯利用すればいい。そう思う程度には、皆子は開き直っていた。
「ただまあ、あの子に手を出すのはちょっと待ちましょうか」
「なぜ?」
「七不思議的には害のないものでしょ? 命を奪うわけでもないものを、手当たり次第に祓ってたら、こっちが悪者じゃない」
「あー、それもそうだな。なんでもないなら、様子見でいいか」
姉と兄の会話を聞きながら、美実は何をのんきなことを、と思う。
化け物は、化け物なのに。
「ミィも、いい?」
問われた言葉に小さく頷く。表面上は、従うそぶりを見せる。
二人には悪いけれども、化け物を野放しにしておくつもりはなかった。
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