未完成の最大幸福論

青居月祈

零れた破片の煌めきは

第0話 君の書く意味は何?

「なんで小説なんて書いてるの?」

 そう聞かれてぼくは戸惑った。お話を書くことは、ぼくにとってそれが当たり前だったからだ。

 物心つく前から、自分で紙とペンを持ち歩いた。裏が白い広告やプリントの裏紙を集めて、ホッチキスで留めてノートを作った。

 本を読むのが好きだったけど、なかなか買ってもらえなかった。その代わりに図書館に連れて行ってもらって、自分だけの貸し出しカードを作った。返却の日までに、全部紙に書き移した。

 初めて買ってもらった自由帳は、クラスメイトたちがカラフルな絵を広げていく中で、ぼくだけは文字で埋め尽くした。それが初めてのぼくが考えた小説になった。

 それからぼくは、ぼくの中にある欠片を拾い集めた。それぞれに物語を与えた。




 平気なフリを続ける自分を、


 書くことで忘れないようにすることを、


 ずっと子どものままでいたいと思う心を、


 純粋なままの自分を、


 愛されたいと思う気持ちを、


 愛されたくないと思う気持ちを、


 異性に見られる恐怖を、


 命を奪ったこの手を、


 大切が故に約束を信じ続けることを、


 期待に応えられない自分を、


 期待に応えたいという想いを、


 変わりたくないと願う自分を、


 変わらなきゃいけないと思う自分を、


 ごめんの一つも言えない自分を、


 ありがとうの一つも言えない自分を、


 人の気持ちがわからない自分を、


 幻想に逃げる弱さを、


 言葉に味を感じることを、


 声に色を見ることを、


 自分以外に向ける優しさを、


 自分だけを見てほしいわがままを、


 すぐに忘れてしまう欠落を、


 共感しすぎる故に痛む身体も、


 勝手に零れる涙も、


 ずっと留まった涙も、

 

 

 全てを夢へ閉じ込めた。

 

 青い月の光は、幸せを招くという。

 ぼくが幸せでない分、

 せめて、夢に眠る彼らに優しい結末を。

 欠けた月のように地上に零れた彼らの破片を、ぼくの中から拾い集めるんだ。




 青居あおい 月祈つき

 箱庭のクレセントムーン

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