第10話 ガリアの赤い悪魔


 ペッ!


 敵の銃弾と迫撃砲が砂を撒き散らして、口と鼻に砂が入る。

 腕に巻いてあったバンダナをマスクがわりにする。 


 (バカスカ撃ちやがって)


 (応戦しろ) 仲間にサインを送る。


 今まで好き勝手に撃っていた敵兵士に弾を浴びせる


 「マイク、ジャック、援護射撃釘付けにしろッ! 行くぞッ! 前進!GoGoッ! 」


 指示を受けたマイクとジャックの重機関銃が、火を噴く。


 前進し敵との距離を、詰める。


 「手榴弾ッ!」


 前方に大きな爆発が3つ、隠れた敵が沈黙する。


 「ジェイ 右だッ!」


 右から来た敵兵を狙い撃つ


 「マイク ジャック 前進ッ!」


 「援護射撃 撃て撃てッ!」


 「スミス 残りの敵兵が見えるか?」


 「あとは、あそこの機関銃陣地だけだ!」


 やっかいだな・・・・あそこまで300mもあるのに、遮蔽物が全く無い。

 攻め口が見えない。



 悪魔の手をお借りするか



 「マキ 聞こえるか」


 『なによッ! 忙しいのに』


 インカムからは激しい銃声が聞こえてくる


 「忙しいとこ悪いが、そこから南側 11時の方角に機関銃陣地が見えるか?」


 パン パン パンッ!


 『はいッ!』


 「・・・・了解 ついでに右に40mの」


 パン パン パン パンッ!


 『自分でやりなさいよッ! 殺すわよ』


 ・・最後の7人が片付いてしまった


 こちらの損害は、スミスが足に流れ弾が当たったくらいで、5人全員無事だ。


 スミスの手当てをしていると、地面が揺れる大きな爆発が西側で立て続きに起こった。


 ーーーーーッ!?  ば、爆撃!?


 「ガマ爺!何があった?!」


 『んあ? こっちは終ったぞい』


 そうだ、この爺さんは超が付くほど爆弾魔だった。あの火薬の量は俺が渡した火薬量を越えてる(危ないので量を減らした)、隠し持っていやがったな、子供っぽいことしやがって 


 まぁ これで東側も終わった


 残すは・・・・


 『西 終わった』


 双眼鏡で西側を確認してみる。


 敵兵の倒され方がおかしい。何か大きな物に撲殺されたような跡、体がぼろ雑巾のように捻られた者、体が地面にめり込んだ者 明らかに銃弾で倒された兵士が少なすぎる。

 そして、丸太が天辺から突き刺さっている、装甲車だった物

 

 ボブの仕業だ。


 ボブは普段は人一倍優しい男で仲間の信頼も厚い、だがひと度怒りのスイッチが入ると、体長20mの巨大なゴリラに変わる。


 

 キングコング



 ・・・・味方で本当に良かった。


 最後は1番の激戦場所である、北側。


 「マキ、状況はどうだ!?」


 『きたああああ 天衣無縫ッ!』

 『マジっすか!?スゲエエエエ』

 『ほんとかよおおおお』

 『マキさん5連勝っすか!』


 「・・・・・・」


 『え?なに?通信?アッやば!・・・・・』

 パ パ パ パパン パパ


 不自然な銃声がインカムから聞こえてくる


 『こちら北側、激戦中 あいつら結構やるわね ああああ ジャクソンが負傷・・・・』


 双眼鏡で北側を確認する。


 敵兵は全て眉間に一発

 ヘリのパイロットも同様

 装甲車両は装甲に大きな穴が1つ空いて停止していた。


 俺が助けを求めた時には既に全て終わっていて、麻雀で忙しかった訳か・・・・


 

 癖の強い奴等だが、1番頼りになる。ガリア軍内で問題児扱いされ疎まれていた、自分や彼等を引き取ってくれたのが、バネット特佐だった。


 無線を持った。


 「特佐、終わりまし・・」


 体に、衝撃が貫通した。


 ーーーーーーーーッ!


 肩に激痛と血が涌き出る。


     ☆


 『佐治!?』


 「ッ!!!みんな!南側に体を出すんじゃない! 凄腕のスナイパーだッ!」

 鬼気迫るマキからの通信が全員に伝わる。


 「ダメ! 全然分からない 距離、位置不明 みんな絶対動かないで! 」


 倒れた佐治の体からおびただしい血が流れ出ている。このままだと出血死になる。


 助けたくてもその場から動けない。


 長距離用狙撃銃に持ちかえる。


 佐治が撃たれた角度から、およその方角は分かったが・・・・


 覗いた瞬間に撃たれる、村全部が射程内だ。


 動けない・・狙われてる恐怖

 

 銃を握る手が、初めて震えた。


 どうしたら良いの・・・・



 『マキ』


 インカムからボブの野太い声が聞こえた。


 『俺が囮になる』


 「ッ! ダメ! 」


 『それしかない、俺はお前の腕を、信じてる』


 銃を握る、震える手を気合いで黙らせる


 やってやろうじゃない! ワタシは、ガリアの赤い悪魔 あんたなんかに負けない!


 「5秒数えるわ、そしたら飛び出して!」


 猶予は恐らく3秒、それ以下ならそいつはもう人間じゃない ワタシに勝ち目は無い。


 ボブの犠牲によって作られる3秒間に、ワタシの今までの人生を、掛ける。


 レバーを引いて空薬莢を排出し、選び抜いた1発を装填、レバーを戻し薬室に弾を込めた。


 ハァハァ 


 深呼吸して呼吸を安定させる。


 イケるッ!


 「5」


 「4」


 「3」


 「2」


 今だけ祈らせて、神様 お願い!



 「1」



 ゴァアアアアアアアアアアアアッ!


 巨大なゴリラが家を飛び越え、南へ闇雲に激走行する

 壁から飛び出して狙撃態勢をとる

  (0.5秒)


 猛突進するボブ

  (0.8秒)


  どこ!


 林の中!? 違う!

  (1.2秒)


 あそこの茂みは! いないッ!!

  (1.3秒)


 ボブの厚い胸板が撃ち抜かれる、が倒れない

  (1.5秒)


 もう1発 まだ倒れない

  (1.8秒)

 いない いない いないッ!


 もう1発 まだ動く

  (2秒)

 お願い・・

 


 もう1発 動かなくなった

  (2.2秒)

 

 

 ・・・・見付けた。

  (2.4秒)



 距離1300m 高台 水色の髪をした青い瞳の少年


 

 視線が合う


 

 え?ウソ・・・・少年は引き金を引いていた

   (2.8秒)


 あ・・・・当たる


 マキは寸分も狂いもなく自分の額に飛んでくる弾を感じた。




 ぷぷッ!


 

 スコープが白い何かで遮られた。



 ーーーーーッ!?


 キンッ


 銃弾が弾かれる音した


 


 「危なかったね、ドキドキした?ボクのこと好きになっちゃった?でも、ボクはキミだけのものになれないんだ ごめんね ぷぷッ」


 キツネ?イヌ?ウサギ?ネコ?どれとも分からない生き物が、そこにいた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る