海が太陽を呑み込むとき

きゆ

第1話

まだだろうか。緊張が、苛立っていることが、表に出ないように視線を持ち上げた。ゆっくりと視線を横に滑らせる。休日の横浜駅で目当ての人を見つけるのは至難の業だ、とかおりは思う。それでも私はすぐに彼を見つけられた。彼は左足と右足で歩幅が違う。ずっと、ずっと見ていたから私は知っている。虚しい恋の名残りもたまには役に立つものだ。少し背筋を伸ばして、息を吐いた。

「待たせたね、ごめん」

駆け寄って、無表情を崩して笑う彼。相変わらずチャーミングなそのえくぼを見ながら私は淡々と答える。

「いつものことだしいいよ」

目を見ないようにしながら続ける。

「突然呼び出してごめんね」

「びっくりしたけどな、お前には恩あるし」

えくぼを深めて親指を立てる彼に向かって微笑みを作る。

「ありがと」

大丈夫、けっこう自然にできてるはず。

「今日は何、パンケーキだっけ?」

頷く。他にもうちょっとマシなのは思いつかなかったのかと自分を呪いながら、彼の手を引いた。

「お腹すいちゃった、早く行こう」

彼の手は、昔と変わらずひんやりとしていた。


元彼と休日にデートしているのにはもちろん訳がある。これは私の、ささやかな復讐だ。

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