第23話 会社は戦場 4
そして、私が意識を取り戻したときには、この世界にいたという訳だ。
「あ、あれ、ここは……どこ?」
鳥の囀りが聞こえる。
起き上がって首を左右。どちらを見ても、木木木、草草草。
緑がいっぱいの森の中のようだ。
生い茂る枝の隙間から日の光が申し訳程度に届いているが薄暗い。
不思議なことに、私の周りの半径二メートル程だけ草も生えておらず、地面がのぞいている。
夢の中だろうか?
あまりに現実とかけ離れた状況に、最初に私が思ったのはこれだった。
着ている服の袖がスーツでも中学の制服でも無いのに気がつく。
自分の体を見回してみると、映画で見たことがあるような軍隊の人が着てそうなカーキ色で変な模様の入った上着とズボン。その上に羽織っている頑丈そうなベスト。
なんだか頭に圧迫感があったので頭をさわってみると固い。
ヘルメットを被っているのか。
ここまででようやく、自分の格好が全身兵隊さんだと気が付く。
「どうして私こんな格好?」
映画を見たときにも別にこの格好をしてみたいと思ったことはない。
だから不思議だった。
とりあえず、腕を振ったり、膝を蹴り上げたりしてみる。
丈夫そうで重そうな服だけど固いということは無く、想像していたよりも動きやすかった。これなら戦えそうな気がする。あれ、何と戦うのだろう? 夢なら早く醒めて欲しいんだけど。
そんなことを考えたときだった――
前方の木陰でガサッと枝が震える音がしたかと思うと、黒い何かが覗いている。
先端にレンズがついている、双眼鏡のように二つ並んでるあれは……カメラ?
そのカメラは後ろの箱に繋がっているみたいで、箱から細い管がまた伸びている。二つのカメラの間には細長い筒。あれは何だろう?
キュインキュインと音がしてカメラが動く。
私の方を見ている。
私は無意識に飛びのいていた。
その勘は正しかった。
ダダダッ、ダダダッ
乾いた音と共に、さっきまで私がいたところに煙が立つ。
「ちょ、ちょっと何!?」
どう考えても、攻撃されている。私にもそれはわかった。
草をかき分け、木の枝をすり抜け、とにかく無我夢中に走って逃げる。
しばらく走って、大きな岩の影で一息つく。
音がしないから大丈夫だと思っていた。
だけど、それは違っていた。
キュインキュインと上から音がする。
見上げると、岩の上にあのカメラが銃口をこちらに向けていた。
……動けません。
私は頭を覆い、目を瞑ることしか、できなかった。
覚悟を決めたその時――
「ファイア!」
ダダダダダダダダダ。
頭上で凄まじい音、そして静寂。
私は恐る恐る目を開ける。足元には、さっきのカメラや他の部品がバラバラになって転がっている。
「大丈夫? 怪我はない?」
そう、私を救ってくれたのは、マシンガンを手にしたチェシャ・キャット、紀藤さんだった。
彼女達がこのマップを攻略中でなかったらと思うと、背筋が寒くなる。
本当に幸運としか言えない。
それから基地に連れ帰ってもらい、この世界のこと、武器のこと、色々教えてもらった。
この世界はゲームの世界。
SF映画に出てくるような基地と、森林、砂漠等様々な地形の戦場マップからできている。私たちはプレイヤーであり、基地から各戦場マップに転送機能で飛び、該当マップを占拠しているロボット軍団を銃器、爆弾等で倒すことでマップを解放することができる。全てのマップを解放することでゲームクリアとなる。
おそらくその時に、この世界から脱出できるのでは、とのこと。
最初にいきなり戦場マップに放り出されるのはこの世界に来た全員そうらしい。
ゲームを作成した白井さん、町田さんはそのあたり理解していたから何とか生き残れたとか。
紀藤さんも最初は訳がわからず、二人に救われたクチだという。
もっともその次からは八面六臂の大活躍みたいだけど。
最初に出会った頃の紀藤さんが懐かしい、これは他の二人の共通した感想みたい。
三人以外にはいないの?、と聞いてみると、いたにはいたのだけどロボットにやられてしまい今はこの三人になってしまった、と言いづらそうにも教えてくれた。
やられた人達はどうなるの、という私の問いには、わからないとのこと。
だから、とにかくやられないように自分の身を第一に考えること、と念を押された。白井さん達二人もまさかこんなことになるとは思ってもみなかったのだろうと、私は納得した。
攻撃力が高く連射がきく武器の白井さん紀藤さん。
状況にあわせて様々な武器でトリッキーに戦える町田さん。
そして、敵の攻撃が届かないところから一方的に攻撃できる私。
この四人体制となったワンダーランド小隊の戦いは順調だった。
基地からマップに転送されたら、まずは白井さんが索敵。
敵を見つけたら、距離があったところで私が砲撃。
ここではとにかく敵に命中させて、数を減らす。
そして、頃合いを見て、敵が固まっていたら白井さんと紀藤さんが囲んで殲滅。
分散していたら、町田さんが敵をひきつけている間に、白井さんと紀藤さんで一体ずつ処理。
敵ロボットの動きがさほど素早くないこともあり、このパターンで倒せない敵は今のところいなかった。
そうそう、コード・ネームについては最初に三人のものを教えられて、私も何か名乗るように言われた。『不思議の国のアリス』はもちろん読んだことはあるけれど、白井さんや町田さんみたいに名前の似たキャラクターはいないし、他は割と変なキャラクターしか残っていない気がする。
悩む私に紀藤さんが一言。
「アリスでいいじゃない」
他のメンバーの反対も無く、私はアリスに決まった。まさか私が主人公だなんて思ってもみなかったから、とても嬉しかった。
だから私は頑張っている。部隊唯一のスナイパーとして。
この言い方、ちょっと照れてしまう。でも、責任は重大なのだ。だからこれくらいは許してもらえると思っている。
私が初弾で敵を撃ち損じれば敵の数が変わらないだけではなく、敵の警戒心を煽ることにもなる。逆に命中すれば、私の弾の特殊効果により、敵が混乱し動きが鈍る。敵に最初に攻撃するのは必ず私となることから、私の緊張感は言うまでもないだろう。
町田さんには、スコープをよく見て、ターゲットをしっかり捉えてから撃つようにと指導された。そのとおりにしてはいるけれど、なかなか百発百中というわけにはいかない。焦って続けて何発も外れ弾を撃ってしまうこともしばしば。
でも、そんな私に、三人とも優しかった。
私が弾を外してしまったときは、白井さん、紀藤さんは威嚇射撃、町田さんは進行方向に罠を張ったりして皆でカバーしてくれる。
私も汚名挽回のために、罠で動けない敵を必死で狙い撃つ。
こうして逆に私が外してしまったときの方が敵ロボットの殲滅が早いくらいだった。
戦闘終了後、三人に向かってごめんなさいと謝る私に紀藤さんは言うのだ。
「仕事というのは、皆でするもの、カバーしあうもの。そういうものじゃない? 気にしないで」
他の二人も微笑みながら頷き、次は頼んだぞ楽させてくれよ、と言ってくれる。
ああ、この人達もやっぱり立花さんと同じ会社の人なんだ、と私は実感した。
そんなわけで、お腹がすいたり、疲れたりしない不思議空間なこともあり、私たちは、次々とマップをクリアしていった。
基地で確認できる全体マップのうち、解放されたエリアが大部分になっている。
これなら、大牙が頑張らなくても、私の力でこの世界から脱出できるかもしれないと私が思ってしまう程に順調だった。
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