2020/09/30 2:51/鷦鷯飛蝗

血管の浮き出た枝から

赫い膿が

ドロドロと漏れ出ている

蕾になれなかった花の

着換えはすぐ終わる

根腐れた大樹の

不貞寝がすぐ始まるように


聞こえた試しのない悲鳴が

今日もまた上げられていると伝承は韜晦する

老爺の耳にだけ届くという悲鳴は

この岬まで泳いでくるのだという


岩場で濡れそぼつ

長い長い黒髪から

の薫りを

搾り落としている姿態だけが

嬰児の目には映るのだという


仔を抱く母親の

かいなさえ透かして

やさしく閉じられた

瞼さえ透かして

悲鳴はその姿を

その児の瞳に焼き付けるという


そうして悲鳴に焦がれた子らは

老いさらばえることができるのだという


感謝してほしいくらいだと

図々しいほどの悲鳴が

今日も岬まで

泳いできたのだ

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