僕は見送った……

ケルベロス

序章 施設

第1話 お母さん、お父さん

 五歳の少年が父親に腹を蹴られていた。


 「お父さん、止めてよ」少年の悲痛の叫びは、癇癪を起こしている父親には、届いてはいない。


 母親はその光景を見ながら、タバコをうまそうにふきだしていた。


 父親の気がすむと、暴力が止む。


 「あなた、何処に行くの?」


 「パチンコ」


 勢いよく玄関が閉まる。


 少年は、殴られた腹をおさえながら、号泣した。


 母親は「うるさい!!」と、少年の顔をまるでサッカーボールかのように蹴る。



 少年の心はもう、ボロボロだった。


 

 母親は、浮気相手に電話をかけ、晴れやかな笑声をもらす。


 そして、母親も家を出た。


 少年は、嗚咽をもらしながらも、立ち上がり、怯えながら家を出る。



 誰か助けてほしい。出ていったことがバレたらまた殴られる。


 町のすべてが赤っぽくなった。それでも少年は歩く。誰かに助けてほしいから。


 「ちょっと、僕?」


 少年は振り返ってみる。そこに立っていたのは温厚そうなおばさんだ。


 「大丈夫なの?」おばさんは、少年の体に触れようとするが、少年がそれに一瞬怯えた。


 それに感づき、少年の袖をめくる。甘酸っぱい臭いを感じながら、あざを確認した。


 「ちょっと家においで」少年を家に招き入れた。

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