敵は異世界転生者!
日向夏薫
序章 756人目の転生者
・・・頭が痛い。
最初に思ったのはそれだった。
・・・ここはどこだ?
次に思ったのはそれだった。
・・・何で倒れているんだ?
それから、そう思ったときに気を失いそうになった。目を開けなくても、自分が眩暈に襲われていることがわかる。それぐらい頭がぐらぐらする。
目を閉じて、考える。肌に伝わる感覚で、自分が芝生の上にうつ伏せで倒れていることはわかった。けれども、全身が痺れているのか、指一本動かせない。意を決して目を開こうとしても、瞼すら動かない。
一体何が起きているのか全くわからない。気を抜くと気絶してしまいそうになる頭で必死に考える。けれども、思考がうまくまとまらない。ここはどこだ? どうして? 何が起こった? そのことばかりがループする。
そうしているうちに気が遠くなり、僕はまた気を失った。
「──いましたよアマリさん、こっちです」
「いたか。どうだい、様子は」
「大丈夫です。気絶していて、ピクリとも動きません」
「警報から2時間ってところか。今回は場所がよかったからな」
頭上からそんな若い男女の声が聞こえた。いや、起きてるよ、助けてくれ。そう言おうと思ったけれども、唇も喉も全く動かない。まるで全身が石にでもなってしまったかのようだ。
「で、データは?」
「えーっと、転生者№は756、転生者名は結城凜。16歳。男性。身長は169cm、体重は57kg。世界線はα026で出身は日本の東京・・・相変わらず日本ばっかりですね」
「まぁ転生者の9割以上は日本出身だからな。そもそも、私も君もそうだろ」
「世界線は違いますけどね。でもα台の世界線は珍しいですね。最近増えてきてるのってγ台でしたっけ」
財布の中の学生証でも見たのだろうか、やけに僕のことに詳しい。だけど、転生者って? それに世界線って、なんだ?
「で、スペックは?」
「ちょっと待ってください・・・あ、出ました。知能レベルB+、身体レベルB-、美貌がBで魅力がB+で・・・Bばっかですね。性格も普通、社交性もそれなり。家庭環境が母子家庭ぐらいで、特に注目するような点は見当たらないですね」
・・・詳細な分析、ありがとう。わかっていることとはいえ、自分が「普通だ」ということを改めて数字で表現されるとへこんでしまう。こんな状況でなければ一言言ってやりたいところだが、残念なことに相変わらず身動き一つできないし、そもそもこうやって何かを考えること自体が難しい。気を抜くとまた気絶してしまいそうなのだ。
「Bばかりか・・・。そうすると期待はできそうかな」
「どうですかね。特徴がないってことは、それだけマイナス事項が少ないってことでもありますからね。よくてBランクじゃないかなとは思いますけど」
「よくてBね・・・。こうB・Cランクばっかりやって来られてもねぇ・・・」
「平和でいいじゃないですか。それともアマリさんとしては、Sランクのほうがよかったですか?」
「いやよ、これ以上仕事が増えるのは」
「それだったら・・・あ、診断結果来ましたよ。えーと、よかったですね、アマリさん、当たりです!」
当たり?と僕がそう思うのと、アマリと呼ばれた女性がそう呟くのとは同時だった。
「ええ、当たりです。速報値でAランク、想定レベルA-。ようやく引けました! やっとこれで人手が増えますよ」
まるでガチャでも回していたかのように男がそう言う。なんだよAだのBだのSだの、人にランク付けなんかして。そう思いながらも、自分が割とレアな存在だったことにちょっと喜びも感じている自分がいて、すこし恥ずかしい。
でもAかぁ。せっかくなんだからSランクがよかったな、なんてことを考えて、心のどこかで気が抜けたのか、ふっと意識が途切れそうになる。
「アマリから本部。本部、応答願う」
「こちら本部のイイヅカだ。こちらもランクを確認した。すぐに回収作業を開始してくれ。作業完了後は転生者は第3基地経由で・・・」
そんな言葉を聞きながら、深い眠りに落ちるかのように、僕の意識は薄れていったのだった。
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