2 後宮の生活 (3)
* * *
庭園であったのなら、そこには
「これで美味しいパンを作れるわ」
そこに、ビンズが現れた。肩には大きな
「食事の材料です。本当に食事は……」
……いいのですか? との問いは、目前の美味しそうな朝食を見た瞬間、不必要だと
朝食後のフェリアは整備されていない
こぢんまりした邸宅である。カロディア領の自室よりは流石に広いが、カロディア領の自宅よりは小さい。
それもそのはずだ。なぜなら、カロディア領の自宅は、自宅
毎日、その巨大邸宅を掃除していたフェリアには、このくらい、赤子の前かけぐらいの広さにしか感じない。
フェリアがただ
王と侍女以外は
初日、邸宅に案内され、こぢんまりしているがピカピカに
だが、中は
三日かけて綺麗にしてやっと落ち着いたフェリアは、へとへとの体で夕食を作っていた。
「侍女も食事もなくて、邸宅内もみすぼらしい。お妃様って、案外
コロコロと笑いながら発する声は、夕刻に訪れたビンズの耳に
「兄さんたちが言っていたのとは大違い。お妃様だから何でも揃っているはずだからって、三日分の服しか持ってこなかったのに、邸には埃以外なーんにも無いのだもの。びっくりしちゃったわ。やっぱり、ダナン国の国庫って大丈夫なの?」
まさかそんなことはないはずだと、ビンズは慌ててピカピカ
担当騎士らもびっくりだ。男である騎士らが、邸宅に入れなかったのが
ビンズは、ここの準備を女官長にキッチリ命じてある。それにもかかわらず、邸宅の中は酷い有り様だった。いや、フェリアが掃除した後を見てそう思うのだから、それ以上であったと、ビンズには容易に想像できた。ピカピカの邸宅の扉に
「あんの女ぁっ!」
騎士隊長らしからぬその叫びに、フェリアはポカンと口を開けた。
「ここの準備金をくすねやがったな!」
ポカンと見つめる先の
「隊長! 落ち着いてください!」
騎士の一人が大声で叫び、一人はビンズに体当たりし、一人は邸の門を閉める。
怒れる鬼ビンズは三人の騎士によって何とか足を止められたが、ふぅふぅと鼻息
そのビンズの
「女相手に荒くれたら、騎士の名が廃るでしょ。女には女の戦いがあるわ。……いいえ、田舎娘には田舎娘の
ビンズに向けて発するフェリアの声は、どこか
ビンズは熱くなった頭が急激に冷えていった。
「フェリア様、何をお考えで?」
「昨日、売られた喧嘩は買うって言ったじゃない。忘れちゃったの?」
「手助けは不要だと?」
「ええ、この程度のこと
ビンズは昨日の夕刻、頼まれて届けたものを思い出していた。王都で流行の布が
今朝もまた、布を頼まれたのだ。無地の布とレースと
まさか、衣服を作るためだなどと思ってもいなかった。他のお妃様のように、刺繡を楽しむものだと
フェリアが普通の令嬢だったのならば対処のしようもなく、女官長の
ビンズが激怒するほどのことが、フェリアにとってはさほどたいしたことではなかった。
現に、目の前のフェリアは打ちひしがれてなどいない。堂々たる
その事実に、ビンズはフェリアの前で
「……お心のままに」
ビンズが今まで膝を折った存在は二人だけだ。先王とマクロン、そして今日、新たに一人加わった。フェリアがその三人目になったのだ。
三人の騎士も従う。フェリアに感じる何かに心が動いた。
ビンズも騎士らも同じ感情だろう。
* * *
ダナン国の妃選び。その会議の
「まず、1番目のお妃様はまだ七
マクロンが
国家間の親交を深めるには、有効な手段ではあるし、必要な外交だ。
だからこそ、意図をくみ取り適切
「次に、5番目と6番目のお妃様も同様のようです。先方より内々に辞退の
長老の報告がマクロンに笑みをもたらした。
「では、一日、五日、六日は妃の相手をしなくていいな」
マクロンが妃候補の国の意向をくみ取り発言した。しかし、長老たちは
「そういうわけには……」
笑みが消えたマクロンに対し、長老のその後の言葉は
「お妃様との朝の一時の交流は、外せません。交流とは例えば、贈り物と
長老たちは、それならばと頷くと、マクロンも頷き笑みが復活した。
よほど、ままごとが嫌なのだ。子供が
そして、マクロンは強い王へと
今、マクロンを支えているのは、真の忠臣だけである。長老たちとて、マクロンの忠臣である。その長老たちの苦言がわからぬわけではない。
辞退を申し出ている国も、大国ダナンの王が望めば辞退を
三カ月の期間を、妃として過ごすのか、国家間の親交を深めるために
長老らが
マクロンとて妃を選ばねばならぬことも理解している。しかし、マクロンの心はどの妃にも動かされはしなかった。
会議を客観視しているビンズは、マクロンの気持ちも長老らの心配も痛いほど理解していた。だからこそ、苦笑いを王である友に返した。マクロンもビンズの苦笑いに頷いて応えた。
この二人だからそれで通じ合える。なぜなら、マクロンとビンズは友であるからだ。それも
マクロンは幼い頃、お
マクロンが
まだ世間知らずのお
そんな幼い頃からの付き合いが、まさかここまで来るとはと、ビンズは苦笑いし、マクロンを
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