2 後宮の生活 (1)
フェリアの視線の先に王
ここダナンの王城は、三方を高い
中央には王塔と
その後に始まったのが、妃選びのしきたりである。王太子は二十五歳の時に妃選びをすること。一日は1番目の邸に、二日は2番目の邸に……三十一日は31番目の邸にと決められた。ダナン歴は通常一カ月三十日で、三カ月に一度だけ三十一日がある。しきたりが始まる時に、妃候補が三十一人いたことから、31番邸は変則であったが、綺麗な扇を
王妃塔から見た31番邸は、扇状の後宮からさらにくねくねと進んだ先に建ち、
フェリアは王塔に背を向けた。
「さて、やりますか」
そう言うと、邸の横にある井戸から水を
フェリアは、長い
そうしているうちに朝陽がゆっくりと昇ってきて、辺りを照らしていく。
その
陽の光を浴び、フェリアの髪が
目を閉じ陽と風を感じているフェリアの
「今日もお願いします」
朝陽に向かって手を合わせて
後宮生活二日目が始まった。
例えばフェリアがどこぞの深窓の
しかし、フェリアはあの
「まずは、
庭園に落ちていた小枝を拾い集める。荷物の中から火打石と芋煮が入った
「……何をしているのでしょう?」
御用聞きの
「あ、おはようございます」
フェリアは、騎士の問いを
「食べますか? 美味しいですよ」
騎士は確かに美味しそうだと思ってしまう。
そんな気持ちが顔に出ていたのだろう、フェリアは察して騎士に芋煮を
「私の荷物の中に、兄さんの荷物も
フェリアがこの邸に持参したのは三つの荷物箱である。その一つが、リカッロの野営箱と
「……そうですか」
なんとも規格外なフェリアに、騎士はどう答えていいかわからず、ただそう言って笑い出す。
昨日と同じで、フェリアは口を
「いやあ、申し訳ありません。悪気は」
「ないのでしょ!」
昨日とは
「隊長、一人だけサボってたんですか?」
地面にどかんと置かれた荷物は農機具である。
フェリアは飛び上がらんばかりに喜んだ。騎士らを
騎士らは最初、フェリアを侍女と思っていたのだろう。気軽に芋煮を
「目前にいるのだけど?」
そう言って口を尖らせたフェリアに、騎士らは最初どういうことか理解できなかったが、『ええ、わかっていますとも。私では妃に見えないんでしょ』とのフェリアの追発言で、
そして、むせぶ騎士らを案じて、井戸に水汲みに向かったフェリアの背を見ながら一人の騎士がぽつりと
「……ビンズ隊長、
フェリアの御用聞きである騎士隊長ビンズは、ニヤリと笑んだ。
「あの女官長にも
ビンズ騎士隊は今、四つに分隊し妃邸の警護にあたっている。一の隊は1~10番のお妃様、二の隊は11~20番のお妃様、三の隊は21~30番のお妃様、そして、四の隊がこの31番目のお妃様の警護である。
四の隊だけ人数が少なく、今、芋煮を食べているたった三人だ。他は三十人ほどであるが、警護対象の人数の違いから
「あのきっつい女官長に? そうっすね。最初は、なんで
「そうだな。芋煮美味しいし」
「そういや、15番目のお妃様担当の
三人の騎士は、そう言い合って笑っている。
それを聞き、ビンズは……
『王様、初日が15番目のお妃様じゃあ、今日も
と、遠く離れた主の心中をおもんぱかるのだった。
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