WhiteSky

AN

第1話「白く、空っぽ」

「あたしは白野実満しろのみちるって言います!ㅤどんな話でも振られればできると思うので、じゃんじゃん話しかけてくださいね!」

ㅤ私は知っている。こうして媚を売っていれば、クラス内でそれなりの位置を確保出来ることを。それと、そうして得たものに何かいいものがあるわけではないということを。

ㅤただ、嫌われてはどうしようもないので、全力で薄っぺらい皮を被る。なんと虚しいことか。【レコード】が私に与えたのは、そういった諦観。私は5年前の年越しを境に、人生の価値を見出せなくなった。

ㅤ【レコード】とは、つまりこの世全ての知識である。過去、現在、未来、自己、他人、周知、未知、そういった障害無く、本当の意味で私は全てを知っている。言語、記憶、深海やら宇宙の果て、地球の最期に至るまで。

ㅤ故に孤独、故に自己を見失う。私は知に埋め尽くされ、自己を失った。今もなお、何かを演じている気がしてならない。その感覚にも、もう慣れてしまったが。

「私は、空見心そらみこころと言います。よろしくお願いします」

ㅤその声を私は知らなかった。空見心と名乗った彼女を、私は知らない。そんなこと、今まで1度もなかったというのに。

ㅤいや、もしかしたら他にも例外はいるのかもしれない。しかし【レコード】に幾つも粗があるとも考えられない。今はとりあえず唯一の例外としておこう。

ㅤ結局、それ以外には無知の事柄などなく、クラス内での自己紹介が私を驚かせることは無かった。

「はじめまして、心ちゃん」

ㅤ故に、私の興味を煽ったのは、ちょうど後ろの席でもあった心だけだった。反応も、好みも、過去も未来も、心の事だけは何も知らない。それがどうしようもなく私の心を揺さぶるのだ。

「はじめまして、実満さん」

ㅤ私の明るい投げかけに対して、帰ってきたのはとても空虚な返事だった。彼女を知らなくても、私はその目を知っている。全てに絶望した、生気のない虚ろな目。

ㅤそれのせいで、私はそれ以上の言及はできなかった。

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