深淵に
アベ ユウジ
第1章「初穂」
春になり若葉が芽生え新緑の頃になった。上智大学に入学した。このストーリーの登場人物も落ち着き始めてきた。そんなある日会室で本編の主要人物の一人である一浪の末法学部に入学した佐藤新一が経済学部のグリーンボーイである私に「昨日の藤沢は燃えたね」と云われ「え!藤沢で火事が起きたの?」「何を言っているのだい」落ち着き払って藤沢市民会館で新日本フィルの演奏会が有り山田一雄のブラームスの名演に聴衆は、燃えたのだよ。君知らないの」。グリーンボーイの私も新日フィルも山田一雄も音楽媒体を通して名前ぐらいは知っていた。しかし私の関心事はキャンティーズの解散コンサートであり盛り上がっているのは後楽園球場であった。キャンティーズと経済学の勉強、大学の講義の質、テストはどのくらいのむずかしさなのだろうと思索にふけった。
半年間は、雑念は振り払って自分の勉強が通じるか大学のレベルは、どんなものか半年間はキャンティーズ以外は締め出してしまおうと思った。と云うのも私の出身高校の入学者は、せっかく入学しても中退、留年を重ねる卒業生が多くなぜだと疑問に思った。当然のことながら講義には顔をだし試験準備もして臨んだ前期試験は順調で幸先の良いものであった。高校の先輩の失敗は孤立すること悪友に染まることに尽きると思った。私が所属するカトリック学生の会は勉強の面倒もレジャーも友を作って行動した
私の同学年で史学科の斉藤由紀子は、わたしと同じ小さなミッションの学校で同レベルの高校出身という所に彼女は親しさを感じたようである。私は半年は勉学に専心してガールフレンドは作るまいと思っていた。
斉藤さんは、表面に出る人ではなかった。しかし、軽井沢の合宿でわたしに綽名がついた。それはキョウジュである。読者のみなさん考えてもみて下さいグリーンボーイの彼を委縮されるような奇妙なあだ名である。大学院で博士課程を出て研鑚を積んだ人に就くようなそのキョウジュと呼ばれる。何か幼稚さと未成熟を表している。仲間外れにされた気持ちであった。
わたしの直感によれば、半年間の勉学を評価してニックネームにしたのは、由紀子であろう。結果として言えば、わたしは孤独の淵へ沈み、無口な自己主張をしないただのグリーンボーイに定着してしまった。由紀子の友になろうという申し出もうつろに聞いていた。彼女の行為を受ける成熟差が欠けていた。間髪をおかず斉藤由紀子の申し出をもみ消そうとする人物が、佐藤新一であった。彼にとっては由紀子は好きな女子であった。しかし私は脅威である。教授などと云う綽名は、ましてや由紀子の命名であるとは、秘密中の秘密である。軽井沢合宿でも明白であった。新一はキョウジュの由来を説明せよと食い下がってきた。
もとより私には思惑の外である。「それならそんな綽名は、やめればいい」と突っぱねた。私には、それだけのことに過ぎないと思ったのである。事は、それほど簡単ではなかったのである。
新一は、次期会長を自称してソフィア会やOB周りを行い、いわば挨拶周りを敢行してこととのついでにキョウジュと云われている人物がいるがどうしたらよいですかと尋ね、居異口同音に挨拶に来いと言われたよと事もなげに言うのである。私は、声の大きいことと背の高いこと以外この男に劣るものはないと思って居た。前期試験に集中して勉強に専心している間にこんな行動に出るとは、カトリック学生の会は政治の場ではない。政治家の猿真似をして自分まで政治に関わるあいさつまわりなど考えもつかぬことで在りあいさつ回りなど断固拒絶した。
カトリック学生の会は、信者の親睦の会で有りマンモス大学の中で一人孤立せず学園生活を楽しむために利用しようという一会員に私はすぎなかった。新一の言うS賛助会との連携とかOBとのパイプ、キョウジュとして挨拶等。
など何をするのだろう。もともと半年間勉強に専心して女友達も作らずこの大学がどの程度のレベルか肌で知るために勉強に没頭したいのである。大学がどの程度か確かめたかったわけにすぎない。キョウジュなどたわいもない。要するにこの由紀子がつけた小さな修飾句にすぎないのである。新一が会長になりたいという。まだ入学学半年に過ぎないのに会長になりたいのなら何を最高のものにするかについてまずその面での根本的な考え方を示してどういう理念なのかをまず示すべきでソフィア会だOB界とのつながりだと堀を埋めてと云う作戦はカトリック学生の会にはそぐわないし時期が早すぎると私は思った。きっと新一の若気の至りできっと後悔するとわたしは思うのであった
由紀子には新一も興味を持っていてグレン、グールドのゴールドベルグ変奏曲を貸してお礼の手紙をもらったと大騒ぎをして私の耳にも伝わってきた。私は、手をこまねいて傍観するしかない立場であった。新一にしても皆の総意で会長になる道は残されているが、ソフィア会だOBの総意で会長になるなど心底やめた方がいいいと云いたい気持ちで一杯であったが、今言うと火に油を注ぐもののように思えた。由紀子さんが諭してくれるだろうと由紀子への友情を心奥底に秘めて新一を諌めたい気持ちで一杯であった。
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