第45話 球雄対新野 最後の対決
「…なぁ金ちゃん、ここは試合の最高のクライマックスだぜ!あの新野に俺たちの最高の配球と、俺の最高の球を見せつけて決着をつけようぜ !! 」
マウンドにやって来た金二郎に、球雄は不敵な笑みを浮かべて言った。
「…最高の配球?」
球雄の言葉に戸惑いを見せる金二郎に、球雄はグラブで口元を隠しながらボソボソッと耳打ちをした。
金二郎はそれを聞いて何回か頷くと、最後に厳しく表情を引き締めて球雄の背中を叩いてポジションに戻った。
…そして新野がネクストバッターサークルで2回ほどもの凄いスイング音を響かせる素振りをしてから、ゆっくりと右打席に入る。
「プレイッ!」
球審が宣告して球雄がセットポジションに入る。
二塁走者の綱出を睨んだ後、クイックモーションから投じた新野への初球は、外角低めへのツーシーム。…ボールゾーンからストライクゾーンへとキッチリ切れ込むボールで慎重にストライクを取った。
「…ほおっ、敬遠せずに勝負してくれるのかよ?」
新野がニヤリと笑みを浮かべて金二郎に言った。
「…奴がきっちりカタつけて甲子園行きたいって言うんでね!」
金二郎が応える。
「良いねぇ!…ナイスピッチャーだぜ !! 」
新野がそう言ってバットを構えた。
…球雄がセットポジションに入り、足が上がって2球目を投げた。
2球目は外角低めへのカットボール、135キロの球を新野はバットのヘッドでスパン ! と切るように打った。…打球はライトポールへ向かってライナーで飛んで行く。金二郎はギョッとして思わず立ち上がる。…観客席からは大きく歓声が湧いたが、球はポールの右側へ2メートルほど切れてスタンドに刺さった。
「ファウルボール!」
球審が叫ぶ。
「やっべぇ~…… ! 」
金二郎がホッとして呟くと、新野が顔色ひとつ変えずにキッパリと言った。
「こんな、コーナー突っつくセコい球より、さっきの目潰し魔球を投げろや !! 」
そして、左手に持ったバットのヘッドを球雄に向けた後、今度はまたレフトスタンドへと向けた。
相手側ベンチと、スタンドからまた歓声が湧き、合唱が始まった。
「しんのすけ、しんのすけ、しんのすけ!…」
声援を受けて新野助清が右打席で構えを決めると、マウンドで仁王立ちする球雄と視線がぶつかり合い、火花が散った。
金二郎のサインに頷いた球雄は右手に持ったボールをまっすぐ新野に向けて突き出した後、ゆっくりと振りかぶった。
「何 !?…振りかぶった?」
セットポジションを取らない球雄を見て、二塁走者綱出が三塁へ走る。…しかしそれには一切関せず球雄は大きく左足を跳ね上げる。…そのまま徐々に足先を下げながら腰を回転させ、背中がまるまるホームに見えるまでトルネード態勢を取った後、一気に巻き戻して腕を振った。…だが、その瞬間新野は思い切り左足をアウトステップして身体を開いていた。
(この態勢を取れば、顔の位置が10センチ三塁側へズレる、砂は目に入らない、そして内角いっぱいに落ちる球は普通のど真ん中のボールになる、バットのヘッドを合わせればレフトスタンドへと一直線だ!)
新野の頭では逆転ツーランが完成していた。
だが!
「ストライ~ク!バッターアウッ !! 」
ボールはアウトコース低めいっぱいに構えた金二郎のミットに収まっていた。…150キロ、渾身のストレートだった。
「…ゲームセット !! 」
球審の宣告を聞いてもまだ、新野は打席内で呆然と立ち尽くしていた…。
「やったぁっ !! 甲子園だ~っ !! 」
金二郎がマスクを脱ぎ捨てて球雄に飛びつく。内野陣がマウンドに駆けつけて球雄の頭を叩いた。続いて外野陣が拳を突き上げて走って来た。ベンチからも来た。
「試合終了です!…ご覧頂きました通り、3対2で東葛学園高校が勝利いたしました!」
球場アナウンスが流れ、選手らがホームベース前に整列、お互いに礼の後、握手を交わした。
そして新野助清が、球雄の前に来て言葉をかけた。
「よぉ、魔球使い!…俺はこの後プロに行く!…お前も後で必ず来いよ !! また勝負しようぜ!」
球雄はニヤリと笑って応えた。
「え~ !? イヤですよ~、まともに勝負したら絶対打たれちゃうもん!」
「何だと~ !? このヤロ~……!」
最後に強めにハイタッチをして笑い合った。
観客席からの拍手の音がグラウンドに心地よく届いていた。
…その後はグラウンドで監督の胴上げをしたり、マスコミからの取材などがあり、選手はしばらく身体も気持ちも舞い上がっていた。
特に金二郎は、決勝点を上げた打者として、生まれて初めてのインタビューを受けてむやみにはしゃいでいた。
みんなで学校に戻って校長に勝利の報告をして、称賛と激励の言葉をもらった後、ようやく解散。
球雄が家に帰ると、父の球一朗が待っていた。
「今日はお疲れ様 ! …だが最後に新野と余分に一打席遊んだのは感心しないな!…無駄に150キロを見せたのもだ!」
父は怒っていた。
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