第32話 四番打者、新野登場

「…さぁお前たち !! …いよいよ今日は決戦だ。今までの練習と、今まで勝ち進んで来た個々の力を信じろ!今日のこの試合こそ勝つぞ !! 」

 先ほどの、キャプテン義田のゲキに続いて、球場に向かうバスの中では崇橋監督がメンバーらにそう言って鼓舞した。

「おーっ !! 」

 再度全員声を揃えて応え、いよいよ士気も高まるうちにまもなくバスが球場に到着した。


 ZOZOマリンスタジアム周りには、海からの湿った風が吹いていた。

 上空には薄い雲が広がり、青空は無い。…決戦はあいにくの蒸し暑い空気の中でやることになりそうだ。


 球雄がチームメイトらに続いてバスを降りると、球場前には大勢の人に混じって球一朗の姿があった。

 崇橋もそれに気付いて右手を上げて言葉をかけようとしたが、球一朗は小さく首を振り、球雄と崇橋に右手の親指を立て、笑顔を見せて頷いた。

 …球場の中に入り、球雄が金二郎に、

「俺の親父がどうやら決勝戦をスタンドで観戦するみたいだ…」

 と言うと、

「俺の両親も絶対に今日は球場に来てるさ!…何つってもこれに勝てば甲子園だからな、家族だって必死に応援したいよな!」

 金二郎もテンション高く応えたが、球雄はフッ! と小さく笑って、

「俺のは応援って言うか、授業参観に近い感じかな !? …」

 と呟いた。


 球場の中に入り、プロ野球チームが実際に使うベンチやグラウンドにちょっと気分が高揚したりするうちに、スタンドの方も続々とやって来た観客が席を埋めて行く。


 やがて試合開始時刻が近づいて来て、電光掲示板に両チームの先発メンバーが表示された。


 先攻 八千代吉田学園

 ①センター デルゾ瑠偉

 ②セカンド 伴利雄

 ③ショート 綱出郁夫

 ④ファースト 新野助清

 ⑤ライト 内間砂雄

 ⑥レフト 真森良夫

 ⑦サード 片野強志

 ⑧キャッチャー 浦岡久男

 ⑨ピッチャー 玉賀剛


 後攻 東葛学園

 ①セカンド 根張大志

 ②ショート 小栗順

 ③センター 中尾貫行

 ④レフト 都橋太郎

 ⑤サード 沖本和巳

 ⑥キャッチャー 義田孝

 ⑦ライト 甲斐田仙一

 ⑧ピッチャー 百方良男

 ⑨ファースト 玉庭活良


「俺たちは~~~!」

「勝つ !! 」

 東葛学園チームは一塁側ベンチ前で円陣を組み、みんなで声を上げ、ホームベース前へ駆け出して行って整列した。

 八千代吉田学園チームと顔を合わせ、一礼して先発ナインが守備位置に散る。

 スタンドから声援と拍手が起こる。

 ウォーミングアップで百方が力強いストレートを義田のミットにズドン! と投げ込む。…調子は良さそうだ。

 …闘志とともに緊張感も高まる中、相手チームの一番打者、デルゾ瑠偉(デルゾるい、三年生180センチ75キロ) が右打席に入る。褐色の肌の精悍な顔にしなやかな体躯の選手だ。

「プレイボール!」

 …球審が宣告していよいよ試合が始まった。

 百方はゆっくりと振りかぶって第1球を…投げた!

「ストライ~ク !! 」

 146キロの直球が外角低めに決まり、球審の右手が上がる。

 …2球目は外角へスライダー、打者はフルスイングで打ちに行ったが一塁側内野席にファウル。

 …3球目は内角高めに145キロのストレート、打者見極めてボール。

 これでカウントは1ボール2ストライクとなった。

 …4球目、百方は外角へ渾身のストレート、148キロを投げ込んだ。

 低めいっぱいを狙った球は、力みが入ったか少し高く浮いた。

 デルゾ瑠偉が懸命にバットを出すと、ボールは先っぽに当たって二塁手の後方にふらふらと飛び、前進する右翼手の前にポトリと落ちるヒットになった。

 デルゾ瑠偉は手を叩いて喜び、一塁ベースに立つと自軍ベンチに向けて小さくガッツポーズを見せた。

「チッ、 ポテンヒットでハシャギやがって!」

 …百方は舌打ちして呟き、次打者を迎えてセットポジションに入る。

 右打席に立った二番打者、伴利雄(三年生、173センチ66キロ) は、クイックで投げてきた百方の初球、外角高めの直球をアッサリとバントして一塁線に転がした。見逃せばボールくさい球だったが簡単にバットに当てて一塁手に捕らせ、あっけなくバントは成功、一死2塁となった。

 …そして三番打者、綱出郁夫が右打席に入る。

 百方は2塁走者と綱出を交互に睨みながら、足を上げて初球は内角に直球147キロを投げ込んだ。…綱出は後ろに飛び退くように腰を引き、球審が「ボール」と判定。

 ビックリしたような顔色の綱出に対し、百方はシレッと冷めた顔で2球目のセットに入る。

 …百方の2球目は外角へのスライダー、しかし綱出は左足を踏み込んでこの球をバットで捉えた。

 乾いた打球音を響かせ、打球はライト方向に伸びる!…しかし百方の球威が勝ったのか右翼手が下がりながら捕球。走者はタッチアップから三塁へ進んだ。


 …そしていよいよ、スタンドまで聞こえる鋭いスイング音の素振りをした後、四番打者の新野助清がゆっくりと右打席に向かった。

















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