第28話 反撃
トップバッター根張に対する初球はインコースのシュート。見送って判定はボール。
…続く2球目もインコースにシュート。同様に見送ってボール。
…3球目は外角低めにストレート。見送ったがストライク。
…4球目は外角にスライダー。根張はバットを出しかけて止めたがストライク。
(…なるほど、横の揺さぶりか…! で、次にシンカーが来るってか !? )
打席内の根張が心中で呟くと、5球目にフワッと浮いた球が打って下さいと言わんばかりに外角に来た。
根張は素早く打ちに行ったが球は目測よりもスッと沈んでバットの下に当たり、平凡な三塁ゴロになってワンナウト。
(これが相手のパターンか…よく分かったよ球雄 ! )
根張が頷きながらベンチに戻ると、ダグアウト内では四番打者以降の打撃陣に球雄が話をしていた。
「…河州はカウントを追い込んだら決め球にシンカーを投げて来ます。普通に打って行くと高い確率で内野ゴロになります。今はベンチから奴のシンカーの変化する高低差をよく見ておいて下さい。…あの球を打つには、じっくり引き付けて逆方向に弾き返すことです。あのシンカーさえ攻略出来れば奴は潰せますよ!」
…しかしその間に二番打者の小栗は河州にやはり内外角に球を散らされた後にシンカーを打たされて内野ゴロに倒れてベンチに戻って来た。
「…ちくしょうっ !! 最後にあのフワッと緩い球を投げられると、つい引っ掛かっちまう…麻薬みたいな球だぜ、ありゃあ!」
…しかし球雄は落ち着いた顔で言った。
「なぁに、勝負は次のイニングですよ!」
…結局三番打者の中尾もショートゴロに打ち取られ、1回の裏の攻撃は三者凡退に終わった。
2回の表、浦安東京学院の五番打者からの攻撃を百方は145キロ以上のストレートで抑えにかかった。
…二死から詰まった当たりがライト前に落ちるヒットを打たれたが、次打者を空振り三振に切って取り、0点に抑えた。
2回の裏、東葛学園の攻撃は四番打者の都橋からだ。
(…河州のシンカーは高めにフワッと浮いてからベースの外角、ストライクゾーンぎりぎりに膝の高さまで落ちて来る ! …)
都橋は右打席で自らを落ち着かせるように心中で呟いた。
…河州は外角にスライダー、ストレートを投げた後、内角にシュートを2球投げてカウントは2ボール2ストライクとなった。…この間都橋は全て見送ってまだスイングはしていない。
…そして5球目、いよいよ河州はシンカーを外角に投げて来た。
都橋はほとんどステップせず、右足に体重を残したままボールの内側を叩くようにバットを出して行った。
打球は二塁手の頭上をややスライス回転しながら越えて行き、右翼手の前で弾んだ。
「おぉ~~っ !! 」
チーム初ヒットにベンチと一塁側スタンドから歓声が上がる。
…そして五番打者沖本が相手を威嚇するように鋭いスイング音をさせて2回素振りをしてからゆっくりと右打席に入った。
「よし、来いっ !! 」
捕手に聞こえるように叫んで構えに入る。…もちろんバントの構えなどはとらない。
河州はセットポジションから、初球は外角のスライダーで入って来た。
沖本は見送ってストライクの判定。
…2球目はインコースのシュートが際どくボール。
…3球目も身体の近くにシュートが来て、沖本は腰を引いて見送り、ボール。
(…インコースを続けたってことは、次は外に例のシンカーか!)
沖本は冷静に配球を読み、球雄の言葉をしっかりと意識していた。
…河州はセットポジションに入り、と、ここでクルリと身体をターンさせて一塁へ牽制球を投げた。
しかし走者の都橋はさほど大きなリードを取っておらず、余裕で帰塁してセーフ。
…一塁手から返球され、再び河州がセットポジションに入る。
沖本が構え、ピッチャーが足を上げて投球モーションに入った時、都橋が二塁へスタートを切った。…そして河州の4球目はやはりフワッとした外角へのシンカーだった。沖本は身体の内側まで球を呼び込み、意識してバットのヘッドを遅らせてボールの内側を叩き、右方向へと球を弾き返すと、打球は綺麗に一、二塁間を抜けて行った。
都橋は二塁を回って三塁へ進み、右翼手は来た打球を拾って二塁へ返した。…東葛学園サイドの歓声が沸き、場面は無死一、三塁の大チャンスとなった。
(…もう、勝ったな!)
この時球雄はベンチで確信していた。
…そして六番打者、キャプテン義田が右打席に入って、ピッチャー河州の表情を見た。
その顔には明らかに狼狽の色が浮かんでいた。
…河州の義田への初球は外角へのスライダーが外れてボール。
(シンカーを逆方向に狙い打ちしてることは分かったはず、際どい変化球にも手を出してないし、となると奴はインコースの直球でストライクを取りに来る ! …)
…義田の読み通り、河州の2球目は内角に135キロのストレートが来た。
義田のバットが一閃、打球は三塁手の頭上を越え、レフト線に弾んで外野フェンスにアッと言う間に跳ね返っていた。
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