第18話 そして最終イニングへ

 2回の表、上総望洋高校の攻撃は四番打者の棟上宗高(むなかみむねたか)からである。

 一年生ながら188センチ95キロという堂々の体躯。いかにも大物打ちといったオーラを漂わせながらゆっくりと左打席に入った。

「攻めてくぜ、崇橋!」

 球一朗がマウンドで叫んだ。

「OK!カモ~ン !! 」

 崇橋が応える。

 球一朗が大きく振りかぶって投じた棟上への初球は外側からのスライダーでストライク。

 2球目はインコースに小さく変化するカットボールを投げてファウルを打たせた。…ただし打球は強烈なライナーとなってライトポールの右側3メートルのスタンドに飛び込む当たりだ。

(内角はキッチリ投げても危ないな ! こいつは…)

 球一朗と崇橋は同様の感想を持ちながら、3球目は外角へツーシームを投げた。僅かに外れてボール。棟上は全く無表情のまま見送った。

(細かい駆け引きは無用か !?…それなら余分な球数を投げずに勝負しよう ! )

 棟上はインコースを待ってホームランを打つ気でいるのは明らかだ。おそらくインコースの球はフルスイングして来るだろう。

(なら、敢えてインコースで勝負だ!)

 4球目、球一朗は渾身のストレート、147キロを内角高めに投げた。棟上もフルスイングして来たがボールはバットの上を通過して空振り三振。

 棟上は悔しげに球一朗を睨みながらベンチに引き上げる。

 五番打者は田貝勇平(たがいゆうへい)173センチ75キロ、三年生。左打席に入った。

 球一朗の初球は外角低めに縦に曲がるスライダーでストライク。

 2球目は膝元へ横に滑るスライダーで一塁側へのファウルを打たせた。

 3球目は外角に緩いカーブ、しかし見送られてボール。

 そして4球目は内角高め、釣り気味にストレート。146キロを空振りさせた。…これでツーアウトだ。

 そして迎えた六番打者は大瀬名太一、右打席に入った。

 …2点を追う展開なのでもちろん打席で構えた姿からも凄まじい闘志を放っている。

 しかし球一朗の方も闘志は負けていない。2人の視線がぶつかり合い、グラウンドに火花を散らした。

 大きく振りかぶった球一朗の初球は、大瀬名の膝元に構えた崇橋のミットに正確に吸い込まれて行った。145キロのストレート、ストライクワン。

 2球目も内角のストレート、146キロが大瀬名のバットの根元にカスって球審のプロテクターに当たるファウル。

 ここで崇橋が大きく外角へ身体を移動した。

 サインに頷いて投じた球一朗の3球目はしかし内角高め、147キロのストレート。大瀬名は空振り三振。

 崇橋と球一朗は大瀬名を一瞥もせずに走ってベンチに引き上げた。


「ここまでは、思い通りの展開ですね!…さすが先輩、全て三振で2イニング、凄いです!」

「今まではな ! …だが問題はこれからだ。大瀬名がまたカッカして直球直球で三振勝負にこだわってくれれば良いけど、落ち着いて配球やら変化球で打ち取る考えで来られると、ヘソ打法は通用しないし、ウチの打線じゃもう点を取れない」

 崇橋と球一朗はそんな会話をしながら2回の裏の大瀬名のピッチングに注目した。


 …球一朗の懸念した通り、七番から始まる東松戸高打線に対し、大瀬名はカーブ、スライダーを交えた冷静なピッチングを見せて2回裏を三者凡退に切って取った。…三振は一つだけ。もう完全に切り替えた様子だった。


 3回の表、上総望洋高の攻撃は七番からの下位打線。球一朗は変化球でファウルを打たせ、カウントを整えた後は内角高めに、または外角低めに140キロ台後半のストレートを投げ込んでまたまた三者三振に切って取った。


 …以降は冷静にアウトを取ることに専念する投球に切り替えた大瀬名の前に打線は沈黙、一方の球一朗は相手打線の二回り目に対し、直球を見せ球にして変化球で打ち取る内容に変更、両チームともゼロ行進のまま試合が進んで行った。


 そして2対0のまま、いよいよ9回の攻防を迎えた。

 ここまでの球一朗の球数は110球。奪三振は15個。闘志も体力も充実していた。試合運びも想定通りに進んで来ていた。

 しかしこの最終回、上総望洋高の攻撃は一番打者からだ。

「締まって行こ~う!」

 崇橋が叫んでポジションについた。


 …この回、球一朗は再びストレート主体のパワーピッチングを見せて二者を連続三振に切って取り、ツーアウトとした。これで奪三振は大瀬名を大きく上回る17個。そしてゲームセットまであと一人である。

 …そして球一朗は三番打者八又をツーストライクと追い込み、外角チェンジアップを引っ掛けさせると打球は三塁方向へのゴロになった。

 サードがライン際に回り込んで捕球態勢に入ると、東松戸ベンチはゲームセットを確信して身を乗りだした。

 しかし次の瞬間、打球は三塁ベースに当たってバウンドが変わり、サードが捕り損ねて内野安打となった。


 そして四番の棟上が「ブン !! 」と素振りをしてゆっくりと左打席に入った。











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